90年代前半のアウトドアブームを凌駕する“爆発前夜”の今を『BE-PAL』発行人が語る

90年代前半のアウトドアブームを凌駕する“爆発前夜”の今を『BE-PAL』発行人が語る

 昨今のトレンドのキーワードのひとつに“アウトドア”が挙げられている。WEBでもアウトドアやキャンプをテーマにするメディアが増加し、『ゆるキャン』『ヤマノススメ』といったアウトドアアニメも登場して人気を博した。そこで、完売が続出するアウトドア誌『BE-PAL』編集部に現在のアウトドアブームの背景や今後の展開について取材を実施。同誌編集長を経て現発行人である小学館の大澤竜二氏によると、過去最大のアウトドアブームが起きた1990年代前半と現在は非常に似た空気があり、当時の盛り上がりを凌駕するブームがこれから来る可能性は十分にあるという。



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■アウトドアブームの背景に“人生100年時代”、余暇時間への意識と自然回帰志向の高まり



――『BE-PAL』は1981年の6月10日創刊で、38年目になりますね。出版不況と言われて久しいですが、『BE-PAL』は完売の号が出たりと好調が続いています。

【大澤氏】本誌は新規読者の獲得が順調なので、部数が伸びています。出版業界全体では、昨対90%ほどの推移なのですが、『BE-PAL』は前年を超える状況が近年ずっと続いています。



――さっそくですが、現在は“アウトドアブーム”と言われていますが、日本のアウトドアを40年近くつぶさに見てきた『BE-PAL』としては実際のところどう捉えているのでしょうか。

【大澤氏】今もブームとは言われていますけれど、90年代のブームとは迫力が違いますね。キャンプ人口が年間1800万人もいて、パジェロが飛ぶように売れて、世界中のアウトドアブランドが続々日本法人を作ったり、96年には観月ありさ主演・主題歌ドリカムで『7月7日、晴れ』というアウトドアムービーが公開されたりと、そりゃもう大騒ぎで。そう考えると今アウトドアが流行っていると言っても、まだブームはすごく小さい。むしろ今は、その大ブーム直前の80年代後半から90年代前半にすごく似ているんです。まだまだこんなもんじゃない、もっと大きいブームがこれから来る、“爆発前夜”と言っていいかもしれません。



――どのような部分が“似ている”のでしょうか。

【大澤氏】まず、90年代のアウトドアブームは、3つの要因から巻き起こったと考えています。1つ目は、バブルが崩壊して、夜な夜なクラブ活動や高級レストランで湯水のように金を使うバブリーなライフスタイルにつかれた人々の間で自然回帰志向が高まったこと。ファッション面でも、ヤングサラリーマンがアルマーニを着たりすることがステータスだったのが金の使い方や意識が変わってきた。元々、80年代後半のアメカジブームのなかで育ってきた世代ですから日本のアウトドアファッションは一気にアメカジ化します。“着るだけアウトドア”ですね。つまりファッションとしてアウトドアを楽しむ人々が急増したのです。このアメカジとアウトドアの融合が2つめの要因です。そして、一番大きかったのが92年から始まる公務員の「完全週休二日制」です。当時は企業の収益も良かったので CSR の活動も非常に盛んだった。環境意識の高まりも追い風でした。

 一方、今は原発事故、度重なる自然災害によって「自然回帰志向」が高まっています。そして街中でも、老若男女が「アウトドアファッション」を楽しんでいます。今年からは「働き方改革」で年5日の有給休暇取得が義務づけられる。これはもう休まないと、遊ばないと。社会的要因はもう出そろっていますね。オリンピック後の日本で、抜け殻のようになった日本人を救うのがアウトドアなんじゃないかなあと、私は考えています。



■アウトドアファンも時代と共に変化、エントリー層は“学び”が盛り上がり、女性ユーザーも増加傾向



――なるほど。では、今のアウトドアユーザーはどういった志向の方が多いのでしょうか。90年代に比べるとグランピングなども登場して、アウトドアもライト化、多様化したように思いますが…?

【大澤氏】以前に比べるとエントリー層の人たちは講習会などにお金を使うようになってきています。例えば登山ならガイドにお金を払って安全を担保する。自力でやって失敗して身につけていくというやり方じゃなくて、塾のように効率よく学びたいという志向ですね。みんな新品のアウトドア用品を身につけて、アウトドアを教わりながらやるというのが今の大多数派になってきています。



――アウトドアを“習う”人が増えているのは驚きです。失敗したくないという世代の関心も引いているのですね。

【大澤氏】講習会やツアー登山の需要がすごくて、人気のガイドさんは予約が取りずらくなっています。アウトドアのはじめ方も変わってきていますね。物品の市場だけでなく、今はそういった体験消費が伸びています。若い人に「アウトドアやるの?」って聞くと「正式に習ったことはないです」ってみんな言うんです。今の時代を象徴していますよね。休みが増えて自然回帰志向が高まれば、みんなアウトドアをやるようになるんです。今の若い人たちが少しずつ新しいライフスタイルを確立しようとするエネルギーから新しい時代のアウトドアブームは起こるのではないでしょうか。



――2018年は『ゆるキャン』や『ヤマノススメ』といった、女子のアウトドアをテーマにするアニメも好評でした。ガールズキャンプも増えていますし、女性ファンも増加傾向にある印象ですが、どういった背景があるのでしょうか。

【大澤氏】まず、『ゆるキャン』『ヤマノススメ』ファンはむしろ男子じゃないですか?そういう意味では男子はアニメでアウトドアと結びついたりしてきているんでしょう。女性客の増加は近年、アウトドアのインフラが整ってきたのが一番の理由じゃないでしょうか。マーケットリードするのはいつでも女性ですよね。例えば、昔の山小屋は本当に汚かったんですが、今は綺麗になってごはんも美味しくなって、雑魚寝だったのが個室ができています。これは2000年くらいからの百名山ブームで増えた中高年女性登山者のおかげですね。今はキャンプ場がすごいことになっています。トイレもピカピカです。余談ですが、キャンプ場情報に「Wi-Fi」「ウォシュレットの有無」を雑誌で初めて表記したのが『BE-PAL』でした(笑)。編集部もがんばってアピールしたんですよ。



■出版不況のなかでも完売続出、『BE-PAL』はメディアからアウトドアブランドへ挑戦



――そういったアウトドア再注目のなかで、『BE-PAL』はどのような情報を発信して拡大してきたのでしょうか。

【大澤氏】力を入れてることのひとつが付録です。メーカーとコラボしたオリジナルアイテムを付録に付けて、毎号限られたコストのなかで、アイデアで勝負しています。長年『BE-PAL』をご愛読いただいているベテラン読者のみなさんはすでに物はいっぱい持っている。一方、これから始めるという、エントリー層はまだアイテムを持っていない。そんな若い人に対して『BE-ALは面白いグッズを作るよね』とアピールして将来的にアウトドアブランドになりたいんです。折りたたみ式のコーヒードリッパーもシリコン製のダッチオーブンも『BE-PAL』がアウトドアブランドになるために、遊び心を発揮するステップなんです。



――今年は、ミニスキレットの号は評判でしたね。

【大澤氏】おかげ様で完売しました。この号は特に若い女性の読者がものすごく増えたんです。



――雑誌がアウトドアブランドになるというのはすごくユニークな挑戦ですね。どんなブランドにしていきたいのでしょうか。

【大澤氏】mont-bellはガチのアウトドアですよね。THE NORTH FACEも。対してスノーピークはリッチなアウトドア。言ってみれば両極端なんです。BE-PALはその間の『普通だけどすごくキャッチー』みたいなところを狙っていきたいなと思っています。僕らのブランド名が「友達になろう」という意味だから、もっとアウトドア仲間を増やしたい。普通の人がもっと気軽に楽しめるようなアウトドアライフを表現してきたいですね。



――雑誌での情報発信だけでなく、最近は空間プロデュースも数多く手掛けているそうですが。

【大澤氏】今、地方自治体との共同事業で「パルパーク」という自然体験型公園を作っています。子供が触るところは全部自然素材でプラスチックを使わない。『BE-PAL』は長年、自然体験イベントなどを実施していたのでノウハウがあるんです。千葉で一度プロトタイプを作って、第一弾は北九州の小倉で展開しています。



――リアルでもアウトドア体験の場を作って、参加人口を増やしていくわけですね。

【大澤氏】『BE-PAL』がアウトドアインフラを手掛けるのは、新しい人を呼びたいからです。キャンプ場の再生事業もやってきたんですが、キャンプ場ってやっぱり週末に行くものですよね。その点、公園だったら子供は毎日でも行く。でも、日本の公園って禁止事項だらけなんです。木登り禁止、焚き火禁止、キャッチボール禁止、ベンチで横になってはいけません、大声を出してはいけません…って。それだと何のためにあるのか分からない。公園が世界一つまらない国になってしまったのですが、それでも、川崎の「夢パーク」や、世田谷の「羽根木公園」といった、自由な公園はあるんです。そういう場所をもっと増やしていきたいですね。



■今後の発展は、アウトドアインフラの整備が重要



――子どもの頃からアウトドア体験をすることで、裾野が広がりますね。“アウトドアインフラ”はほかにどのようなものがあるのでしょうか?

【大澤氏】公園の他、自然歩道の策定もやっています。日本には美しい長距離自然歩道が少ないので、鳥取を歩いて縦断できる“ロングトレイル鳥取”構想も手掛けています。道の駅、公園、自然歩道、キャンプ場付き団地なんてのもやっていますが、全てインフラなんです。『BE-PAL』はアウトドア体験インフラの充実に寄与して、ユーザーを増やしていきたいですね。



――今後のアウトドアの発展を見据えた新たな取り組みはありますか?

【大澤氏】『BE-PAL』のWEBを投稿型サイトに変えました。今までは編集部発信記事が主でしたが、“ユーザー参加型情報メディア”に変わろうと思っています。そのためにユーザーが気軽に記事を寄稿できるシステムを作りました。そこでアウトドアライターを育成したり、全国に散らばっているアウトドアの天才や面白い人をどんどん発掘していきたい。新しいインフルエンサーが生まれることで、新しい商品開発やアウトドアの盛り上がりを作れる。第2のシェルパ斉藤(旅行作家)や野田知佑(カヌーイスト・作家)が出てくるかもしれない。そうであってほしいなと思っています。今はシーズンオフなので、春以降にご期待ください。



――最後に、2019年もアウトドアは盛り上がりそうでしょうか。

【大澤氏】ブームはむしろこれからが本番だと思います。なにせ「人生百年時代」ですから、90年代を凌駕する大きなうねりになるかもしれません。若い人だけでなく、60歳を過ぎてもみんな若くて元気ですし、シニア層がアウトドアの牽引者になっていくような気もしています。最近アウトドアを始めた人は今がすごいブームと思っているかもしれないけれど、「まだまだ、こんなもんじゃないぞ」と伝えてあげたいですね。
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