櫻井孝宏、40歳超えて高校生の役作り ”声優業”若さ追求に必要な「遊び感」

櫻井孝宏、40歳超えて高校生の役作り ”声優業”若さ追求に必要な「遊び感」

 数々のアニメで主役を務め、人気テレビアニメ『おそ松さん』で6つ子の主人公で長男・おそ松を演じている声優・櫻井孝宏(44)。シリーズ初の完全新作劇場版で“大人”や“高校”をテーマにした『えいがのおそ松さん』が15日に公開を控える。40歳を超えて高校生役に挑戦するにあたり、「初々しい感性以外のものを排除」したと語る櫻井は、“遊び感”こそが若さの追求に重要だと説く。人気作となった同シリーズへの思いや、声優業で感じる“老い”との向き合い方を聞いてみた。



【画像】貴重!6つ子の高校生姿が描かれた場面カット



■人気要因は“脚本の面白さ”と6通りの“キャラ共感” おそ松は「身近なご近所さん」



――TVアニメが放送されると『おそ松さん』はすぐに人気となりました。「流行語大賞」のノミネートや主演声優6人が『ダ・ヴィンチ』の表紙になるなど、ここまでの盛り上がりは予想できましたか。



 アニメ放送前にここまでの盛り上がりは想像できませんでしたね。ただ、『おそ松くん』という原作があって、成長した姿が描かれるということで注目されるなとは思っていました。ここまでヒットしたのは脚本の面白さだと思います。そして、6つ子それぞれ個性豊かで誰かに共感するところがあったはず。キャラクターデザインもすばらしいですし、藤田陽一監督とシリーズ構成・脚本の松原秀さんの力が大きい。



 僕ら声優の仕事は作品や脚本があってこそなので、脚本通りにやっただけです。赤塚不二夫さんの作品の面白さに監督と脚本の手が加わったからこそ、ここまでヒットしたのだと思います。『ダ・ヴィンチ』の表紙を飾り僕ら声優が注目されてうれしいことではありますが、あくまで僕らはキャラクターに声を入れただけに過ぎない。作品の面白さはスタッフの方々のおかげです。



――初の映画化ですが、劇場版だからこそ感じられた6つ子の新たな一面などはありますか。



 劇中では「彼らにもこういう人生があったんだな」というのが垣間見られるのですが、それはTVアニメ版のアフレコをしている時に考えたことはなかったです。だって彼らは平気で死んじゃう(笑)。そういう世界観で生きているキャラなので、時間の流れや過去は気にならなかったから。



 僕らはそれぞれ役割的な捉え方をしていたのですが、劇中は彼らが生きている時間を起点として物語が作られているので人間としての立体感が出ている。キャラに人間としての奥行きが見えていますね。時間の流れを描くことで成長も見られるし変化が起き、人間味が生まれるので、観客もそれを感じるはずです。ただ、(個人的に)おそ松に対しては何も感じませんね(笑)。



 僕にとっておそ松とは、抽象的ですが「ご近所さん」。居そうでいなくて確実にいるという、手の届きそうな存在。身近なキャラクターですよね。見ていて見守りたくなるような、優しい気持ちになる。ニートという現状はよくないので改善してほしい気持ちはあるのですが、変わってほしくもないという複雑な気持ちです(笑)。



■「実家に帰らないぞ!」プロ声優目指し上京した20歳 行かなかった同窓会への憧れ



――劇中では高校の同窓会から始まり、20歳をすぎた6つ子が描かれています。櫻井さん自身の20歳はどんな人間だったのでしょうか。



 20歳のころは上京して養成所に通いながらアルバイトをしていましたね。上京をした際は「実家に帰らないぞ!」という気概でいました。そういうこともあって、実は地元の同窓会に一度も参加したことないんです。20代のころは「同窓会に行きたい」」とは一度も思いませんでしたが、40歳を超えてくると「ちょっと会いたいな」と思い始めていますね(笑)。覚えているクラスメイトはいるので、「みんなどうなっているんだろう」と。収録時には、そんなことを思ったりしました。



 6つ子たちは「彼女が作れるかも!?」みたいな邪(よこしま)な気持ちで同窓会に参加しているのですが、ニート生活をしている彼らが同窓会に参加することは意外でしたね。「そんなのいいよ~」と言っちゃいそうなのに、劇中では「美味しいものが食べられる」「かわいい子に会える」という短絡的な発想で参加します(笑)。彼らはニートなのに友達から今の近況を聞かれて「サラリーマン」と嘘を付く。サラリーマンという職業に憧れを持っているというか、知識がないのでただサラリーマンと答えただけで知識が浅い!



 職業の話がでて、改めて僕はこの仕事が向いているなと思いました。サラリーマンの方々はスーツをビシッと決めて電車でギューギューになりながら通勤している。その生活ではないので、サラリーマンは尊敬。「やれ!」といわれても僕には無理! 声優がいいです(笑)。



 スーツ、ネクタイとか苦手なんですよ。取材で撮影がある時や舞台挨拶では黒いスーツとネクタイ姿の時もありますが、それは仕事なので…(笑)普段はゆる~い格好をしています。そういう意味では「めんどくせー」と言ってしまうおそ松たちに共感する部分はあります。僕だけでなく人間誰もが共感するところかなと。でも、彼らのままだとダメだとみなさん理解しているので、頑張って働いているのではないでしょうか。



■40歳超えても演じる高校生キャラ 必要なのは「声優業の遊び感と初々しい感性」



――「俺たちいつから大人なの?」というキャッチコピーで“大人”をテーマにした作品。櫻井さんにとって“大人”とはなんでしょう。



 「大人になったなー」と思う瞬間は、バーに入って1人で飲んだことやカウンター席のすし屋で食べたことかな(笑)。見た目は大人ですが、中身は中学・高校の時に想像していた時よりも幼いですよ。真面目な話になりますが、進路を決める時に「この学校に行くにはこれくらいの成績を取らなくてはいけない」と決めますよね? ステージが上がるたびに「自分はこのステージには行けないんだ」とシビアになる。学生時代は時間割、部活動の時間があってある程度、生活の時間が決められている。その中で高校生の時に、「卒業したら大学進学か就職するのかー」と自身で考えた行為が、今思えば「大人」な作業だったかなと。



 当時は夢など特になかったので不安を抱えて、将来から目を背けていたと思いますね。その中で、子どもの時から「声優になる」という“点”があり、高校3年生の時に点と点が繋がり線となって今に至ります。この歳になって経験や知識を得ていますが、中学に芽生えた価値観や自我といった感性は変わっていないですね。それは今でも仕事で活きています。



 40歳を超えて高校生の役を担当するといったこともあり、声優の仕事はちょっと遊びが必要ですよね。そうすると、初々しい感性が必要であり持ちたいと思うわけです。視聴者を楽しませるためには、それ以外の邪魔な感性を排除しながら演技しなくてはならない。フラットで、装飾品がない状態にしたいと思うと、必然的に幼くなってしまうんですよね。作品の責任にしたくはないですが、ガキっぽい発言もしてしまうんです(笑)。



 映画で描かれる6つ子は高校生から20歳過ぎあたりの頃の物語ですが、その年代って学生、社会人とさまざまで、将来について悩んでいると思います。僕が声優になれたのも、たまたま見た専門学校を紹介する雑誌で「声優になれる学校があるんだ」と知ったところから始まった。本を開くというちょっとした行為が、今の仕事に繋がるわけですが、だからといって、急いで行動しなくてもいいと思いますね。自分のペースで見つければいい。映画の6つ子はニートなので参考にしない方がいいと思いますが、6つ子それぞれ個性豊かで共感する部分が見つかるはず。「お金がなくても楽しい」というところに生きがいを見つけるのも一つの手なのかも(笑)。映画を観て「価値観が変わった」「救われた」なんていう人が1万人に1人くらい居たら、それだけでこの映画を作ったかいがあります。



(C)赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会 2019 カメラマン/祭貴義道
カテゴリ