TWICEの生みの親が語るアーティスト育成「重要なのは芸能活動のための品格教育」

TWICEの生みの親が語るアーティスト育成「重要なのは芸能活動のための品格教育」

 JYPエンターテインメントとソニー・ミュージックエンタテインメントがタッグを組み、『Nizi Project』を始動し、今夏に日本の国内外で大規模なオーディションを開催する。自身もアーティストでありながら、これまで2PMやGOT7、TWICEといったアーティストをヒットさせてきたJYPの設立者であるパク・ジニョン氏に、オーディションの選考基準をはじめ、グローバルで活躍するアーティストの育成について話を聞いた。



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◆スマホ世代のヒットを生む、人間性を重視した育成方針



──まずはこのたび開催される画期的なオーディションについて、企画の経緯をお聞かせください。

パク・ジニョン 弊社では未来ビジョンを三段階で描き、事業を展開してきました。第一段階は韓国のアーティスト、コンテンツを海外に輸出すること。第二段階は韓国も含む国籍をまたいだグループで海外に進出することで、その最初の事例がタイ出身のアメリカ人である2PMのニックンでした。そしてこれから目指す第三段階が、外国人だけで構成されたグループをプロデュースして輩出することで、その最初のプロジェクトとなったのが中国のボーイズグループ・BOY STORYです。日本と韓国の大手エンタテインメント企業が企画の最初から最後まで協業するのは初めての試みと聞き、とてもワクワクしています。2PMからGOT7まで共に築いてきたソニーミュージックさんとの10年間の信頼関係のもと、素晴らしいオーディションになると期待しています。



──国籍は不問ながら「日本語を自由に話せること」が応募条件となっています。会見では「K-POPアーティストが日本で活動する中で残念に感じていたのは、日本の大衆の方と深くコミュニケーションするのが難しかったこと」と語られました。JYPのアーティストは日本でも大成功を収めていますが、それでもなお言語の壁は課題だったのでしょうか。

パク リスナーの気持ちには三段階あります。第一段階は楽曲を好きになること。第二段階はそのアーティストの実力に惹かれること。そして第三段階は、そのアーティストの生き方やストーリーに共感すること。ここに来て初めて、アーティストとファンの間に深い結びつきが生まれると思うのです。もちろん音楽は言葉の壁を乗り越えます。しかし私が願う「ファンとより深いコミュニケーションができるアーティスト」を輩出するためには、やはり文化を深く理解した方を候補の対象にする必要があると考えたのです。



──育成の内容には「芸能活動のための品格教育」が含まれますが、どのような内容なのでしょうか。

パク 自分はなぜエンタテインメントの世界を目指すのか、その目標を描くサポートをします。重要なのは「トップスターになる」などの、ある種のポジションを目標にしてはいけないということです。なぜならその目標を達成できても、虚しさしか残らないからです。事実、私は長年エンタメの世界のなかでトップにたどり着いた末に壊れてしまった人を数多く見てきました。逆にその目標を達成できず、苦しみ続けている人もいます。ではエンタテインメントにおいて目標にすべきことはどんなことなのか。それは自分が大切にしている価値観を、人生を通して伝え続けていくことだと私は思っています。自分が世の中に対してどんな影響を与えたいのか、マイクを通して何を語りかけたいのか、それは私たちには教えられません。それを自ら導き出す下地作りをするのが、この「品格教育」です。



──パクさんはオーディション番組などでも繰り返し、アーティストに必要な資質は「真実、謙遜、誠実」とおっしゃっています。

パク 私の選考基準は「才能より心」です。またデビュー後でも人間性に失望するような出来事があれば会社を辞めてもらいますし、実際にそのようなケースもありました。人間性とダンスや歌のスキルはイコールではない、と思う方もいるかもしれません。しかし誠実に努力し続ければ、たとえスピードはゆっくりでも必ず成長します。またそうした誠実な姿勢のアーティストと仕事をすることこそが、私にとっては何物も変えがたい幸せなんです。



──人間性はひいては息の長い活躍にも繋がるのでしょうか。

パク そうですね。特に今はスマホが普及し、アーティストは嘘の姿を取り繕うことができなくなりました。そしてもしも想像していたのとは裏腹な私生活が露呈したら、ファンはどれほど失望するでしょうか。何よりエンタテインメントに携わる人間というのは、若い人たちに多大な影響力を持ちます。アーティストにはそのことをしっかりと理解して行動する責任があります。また輩出する側にも、謙虚に誠実に努力し続けた人がスターになっていく姿を若い人たちに示す責任があるのです。とりわけ日本の観客には、アーティストの姿勢やハートを高く評価してくださる方が多いと感じています。その日本で弊社のアーティストを愛してくださったことで、私がモットーとしてきたことは間違っていなかったと改めて自信をいただけましたね。



◆日本の音楽市場の最大の強みはファンの存在



──K-POPアーティストが世界を席巻しています。この状況はどのようにして実現したのでしょうか。

パク 世界に向けて展開していく際には、音楽もダンスも、ファッションもアートワークも、世界市場のトレンドを意識する必要があります。それは何も流行に追随するということではなく、重要なのは流れを分析して企画をしていくことです。例えば私たちはMVをYouTubeにアップするたびに、どの地域で多く観られているのか、その理由はなぜかなどを分析し、リポートを作成するという作業を毎回行っています。



──世界で通用するアーティストにはどんな資質があるのでしょうか。

パク 日本で成功したアーティストであれば、確実にその資質は備わっているはずです。ただそれが世界市場の流れと合っているかどうかは別の話で、国内市場を対象にする場合と海外市場を視野に入れた場合の企画、分析、教育、アプローチは、全く別物であると考えています。



──では、日本の音楽市場の特徴をどのように分析されていますか?

パク 日本の音楽市場の最大の強みはファンの存在です。とりわけ先ほどお話した「三段階目の関係」となったアーティストに対しては、一生愛を注ぎ続けるというファンがたくさんいます。私も世界中あらゆる国のライブに足を運びましたが、会場に飛び散る銀テープをファンが持ち帰るという行動は日本でしか見られません。アーティストとファンとの深い結びつきが感じられる、実に感動的な光景です。



──パク・ジニョンさんはアーティストでもありますが、ご自身の体験からはいかがでしょうか?

パク 私の話になりますが、2001年に兵役から戻った私は「僕には彼女がいるのに」という楽曲を用意していました。しかしその少し前に結婚していたこと、また長らく音楽から離れていたことで、「ファンはもう僕を応援してくれないのではないか」という恐怖に押し潰されそうになったんですね。その不安を乗り越えるために新しく提示できる表現として企画したのが、タップダンスとHIP HOPを融合したダンスでした。またタップを習得するためにアメリカで9ヶ月間のトレーニングを積み、カムバックに臨んだのです。



──その楽曲は韓国チャート1位に。さらにアメリカのアーティストのプロデュースを手がけるようになるなど、カムバック以降は活動もさらにスケールアップしています。

パク あれほど必死になったのも、不安だったからです。そう考えると「永遠に愛を注いでくれるファンの存在」という安心感は日本の音楽市場の最大の強みでありながら、裏を返せば弱点。つまり、新たな挑戦や変化を阻む要因にもなっているのではと危惧することもあります。韓国の音楽シーンは世代交代の流れも非常に早く、事務所もアーティストも常に生き残りをかけて戦っています。だからこそ恐怖はあるけれど、面白くやりがいもあるんです。



──このたびの新人発掘にも関係すると思うのですが、今後の韓国の音楽シーンをどう予測されますか?

パク あるひとつの大きなヒットに引き寄せられて似通ったコンテンツが量産され、それがムーブメントになっていく。それが韓国の音楽シーンの特徴で、現状はまだ周期チェンジの時期が来ていないですね。ただ流れを変えるアーティストや楽曲は必ずまた登場するはず。それを弊社から輩出するべく、新たな企画や開発に尽力していきたいと思っています。



(文/児玉澄子)



【プロフィール】

パク・ジニョン氏(JYPエンターテインメント COO)



1994年、自ら作詞作曲を手がけたアルバム『Don't leave me』でデビュー。以降、アーティストとしてだけでなく、プロデューサーとしても手腕を発揮し、ウィル・スミスやメイスといったアメリカのアーティストと楽曲制作を行うなど、国内外問わずその活動は多岐にわたる。1997年にJYPエンターテインメントを創業。Rain、Wonder Girlsを誕生させ、2PMやGOT7、TWICEといった日本でも人気のアーティストを多数送り出す。また『2015 Mnet Asian Music Awards』では、「ベスト・プロデューサー賞」と「男性歌手賞」をダブル受賞した。
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