星野源を動かす原動力…「好きなこと」と「売れること」どちらも捨てない人生哲学

星野源を動かす原動力…「好きなこと」と「売れること」どちらも捨てない人生哲学

 俳優、アーティスト、文筆業など様々なジャンルで活躍する星野源。そんな彼が、初めて時代劇映画で主演を務めたのが『引越し大名』(8月30日公開)だ。演じたのは、人付き合いが苦手で、いつも書庫にこもり、自分の好きなことだけに没頭する一風変わった侍・片桐春之介。「好きなことを捨てずに前に進む」という生き方が、自分と似ていると言う。今や誰もが知るスターとなった星野を支えた人生哲学、そして今に至る意外な“転機”とは?



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■演じたのは“職場に引きこもった侍”、「僕もなるべく好きなことしかしたくない」



――星野さんが演じた春之介という侍について、どんな印象を持ちましたか?



【星野源】江戸時代の社会通念では変わった人なのかもしれませんが、現代社会においては非常にスタンダードな考え方をする人。彼を身近に感じる人も多いのかなと思いました。台本を読んで、自分と似ているところもあるなと感じましたね。



――どういった部分が似ているのでしょう?



【星野源】“引きこもり侍”と表現されていますが、春之介が特殊なのは、職場に引きこもっているということ。本が大好きで、書庫から出てこない。僕も、“なるべく好きなことしかしたくない”という思いがあるので、そういう部分は似ているなと。学生のころも、授業を受けないでずっとギターの練習をしていたり、演劇の稽古をしていたんです(笑)。



――そんな春之介は、自分の意図せぬところで大役に任命され、運命に翻弄されていきます。



【星野源】主人公がやりたくないことをやらされて、嫌々ながらも才能を発揮して…という話って結構あると思うんです。でも、僕がこの作品でいいと思うところは、“自分の好きなものを捨てる”という自己犠牲の美徳を伝えているのではなく、好きなことを生かして、周囲を変えて道を切り開いていくところなんです。こういう物語の進み方は、時代劇では珍しいですよね。



■見つけたら突き進むべし、「“好きなこと”は人を動かす原動力になる」



――やはり、好きなことは突き詰めていくべきですか? 世の中にも、星野さんと同じように授業に出たくない、好きなことだけやりたいけど…と悩む人も多いと思います。



【星野源】好きなものに囲まれて自分だけで楽しむのはとても居心地がいいし、それだけをしていたいと思っていた時期もありました。でも僕の場合、一方で人前に立ちたい、ステージに立ちたいという思いもあった。どうにかして両方実現できないか? そう考える性格だったんです。“売れなくても好きなことだけしていたい”という考えでもなかったし、逆に、“好きなものを捨ててまで売れたい”とも思わなかった。わがままというか、どっちも好きで、やりたいことだったんですよね。



――なるほど。



【星野源】自分の性格をわかっていると、やりやすいのかもしれません。そういう意味で、“好きなこと”は人を動かす原動力になる。人はどうしても、言い訳をしたり、自分を偽ってごまかしたりしてしまいがちですが、しっかり自分の好きなものを捨てなかった春之介の生き方はとても面白いと思う。だから、好きなことを見つけたら突き進んだ方がいいと思います。



■「外見と内面のギャップ」のせい? 回ってくるのは“一筋縄ではいかない役”



――本作もそうですが、星野さんがこれまで演じてきた役は、一筋縄ではいかないような個性的で多面的な役柄が多いような気がします。



【星野源】「この役を星野に」と言ってくださる方が、殻を破り、最終的は爆発するような、スタートと終着点が違うような役を、僕に与えたいと思ってくださるのかもしれませんね。



――そういう役のオファーが多いのは、星野さんが多面的に見えるから?



【星野源】どうなんでしょう。あまり自分を多面的な人間だと感じたことはなくて、わりと単純だと思っているんですが。ただ、外見はまったりしていて大人しそうに見えるのに、内側は活発でやりたいことがいっぱい…みたいな(笑)、そんなギャップを感じていただけているのかもしれません。



――一筋縄でいかなそうな役のオファーは嬉しいですか?



【星野源】そうですね。さらに、もっとムチャクチャな役をやりたいです(笑)。最近はあまりやれていませんが、宮藤(官九郎)さんが昔書いてくださったような、ムチャクチャな感じのコメディもやりたいです。死ぬほど悪い役とかもいいですね。



――色々な人や出来事との出会いで春之介は大きく変わっていきますが、星野さん自身、自分が大きく変わったと思った出来事はありましたか?



【星野源】歌は、30歳ぐらいまでは自分の中だけでこっそりやっていたんです。歌うことは好きだったのですが、それが批判にさらされるのが怖くて…。でも29歳のとき、ソロアルバムのお話をいただいたんです。ただ、僕が作るとものすごく暗い歌になってしまうと思って、躊躇していて…。そんなとき、ある人から「どうせなら、とんでもなく暗い歌を作ってみれば?」と言われて、一歩踏み出しました。『ばかのうた』(2010年)というアルバムだったのですが、発表してみたら喜んでくださる方がたくさんいた。自分が「ダメだ」と思い込んでいても、すごく良いと思ってくれる人もいると知って、見える景色が大きく変わりました。



――そんな星野さんも、いまや歌に芝居に大活躍で、2月には5大ドームツアーも開催。取り巻く環境は大きく変わったのではないでしょうか?



【星野源】その時々で変わっていくものだと思います。ドームツアーでお客さんと対峙したときも、温かく迎えていただき、みなさんがすごく楽しんでくださった。ドームのような大きな場所でも、ちゃんとファンとコミュニケーションが取れることが実感できて、幸せな気分になりました。



――メジャーになればなるほど、ファンとの距離が遠くなってしまいがちですが、そういう気持ちになれたのは大きなことですね。



【星野源】物理的な距離に縛られがちですが、そもそもが、演者とファンの距離というのは、キャパが広かろうが狭かろうが、ものすごく遠いものだと思うんです。というか別の次元、もちろんどちらが上とか下とかいうことではなく、別の場所にいるんですよ。そのなかで、どれだけ精神的な距離が近くいられるか。どうやってもその距離は変わらないのだという前提の中で対峙をしなければ、心の距離は縮まらないと思うんです。その意味で、今回のドームツアーで心の距離が変わらないと感じられたのは大きな収穫でした。



(文:磯部正和)
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