『凪のお暇』Pの“焦りとこだわり” 報道記者時代の危機感が原動力

『凪のお暇』Pの“焦りとこだわり” 報道記者時代の危機感が原動力

 コンフィデンス誌調査の「オリコンドラマバリュー」で初回からダントツの数字を叩き出し、その後も右肩上がり。見逃し配信ではTBSドラマ歴代最多再生数を記録している金曜ドラマ『凪のお暇』。現代女性の“空気読み疲れ”や“理想の生き方”を描き、圧倒的な人気と共感を得る本作の制作背景を、TBSの中井芳彦プロデューサーに聞いた。



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■慎二の印象をひっくり返すドラマ脚本の組み立てが高評価



 本作は、他人に合わせ、場の空気を読みすぎてついに倒れた28歳OL・大島凪が、仕事も家財も恋もすべて捨てて人生のリセットを図ろうとする物語。原作は数々の漫画賞を受賞したコナリミサト氏による同名コミックで、現在5巻まで刊行されている。



「ドラマ化に動き出したのは2年前、ちょうど2巻が出た頃です。通常、社内プレゼンにかける際には企画書を提出する必要があるんですが、本作のアピールポイントは原作の魅力に尽きると考え、上司に原作を読んでもらったところ即OKが出ました。映像化の話はたくさんあったそうですが、いち早く具体化できたことがポイントだったようです」



 主人公を演じる黒木華のほか、彼女に高圧的な態度で接しながらも実は未練タラタラの元彼・我聞慎二役の高橋一生、凪の隣人で天性の人たらしにして“メンヘラ製造機”と称される安良城ゴン役の中村倫也。そして凪がハローワークで知り合う坂本龍子役に市川実日子。このメインキャストは「なんとしてもお願いしたい4人だった」という。



「原作キャラクターの雰囲気もさることながら、決め手は芝居の力。4人とも演じるのが相当難しい複雑な人間性の役どころで、この世代の俳優さんで説得力を持って演じられる人はほかにイメージできませんでした。加えて、黒木さんについては、空気を必死で読みながら一生懸命に生きる姿がしっくりくる女性で、きっと視聴者に共感していただけるだろうと考えました」



 原作ファンからは、ドラマ脚本の組み立て方への評価も高い。たとえば、原作では慎二の凪への本心は話数を重ねた後に描写されるが、ドラマでは第1話のラストで人知れず号泣するという形で表現されている。



「とくに第1話については熟考し、脚本家の大島里美さんに何稿も台本を重ねていただきました。当初は原作通り、凪が断捨離をして新しい生活をスタートさせるところで終わる予定だったのですが、それでは慎二がただのひどいヤツという誤解を与えたままになってしまう。これ以上、慎二のモラハラ行為を観るのはツライと、2話以降を観てもらえない可能性もあると考えて、ギリギリになって慎二のすべてをひっくり返すラストシーンにしました」



■突き詰めると暗く重いストーリー 画面から心地よい空気を漂わせたい



 その推敲は功を奏して、当代きっての人気俳優2人とヒロインとの三角関係は、視聴者を惹きつけてやまない要素に。しかし、何より共感が集まっているのは、凪の揺れる心情と、自分を取り戻していくその生き方。職場や恋人、さらには友人の間でもつい空気を読んでしまうことに疲れている人が多いことからだろう。



「冷静に突き詰めると暗く重く、心の奥底にグサリとくる物語ではあると思います。だからこそ、画面からは心地よい空気を漂わせたかったんです。アコースティックな音色を奏でるパスカルズさんに劇伴をお願いしたのも、心地よさを目指した演出のひとつ。また、風を感じる画作りにもこだわりました。原作のアパートのそばには川がないのですが、川を抜けてきた風が部屋のカーテンを揺らす感じを出したいというチーフ演出の坪井敏雄さんの意図で、制作部で都内近郊の川をすべてロケハンに回りました。自転車を漕ぐ凪の天然パーマがふわふわ揺れるなど、風を感じるシチュエーションには、随所でこだわっています」



 中井氏は、ドラマ制作部、編成部のほか、報道部の経済担当記者も務めている変わり種だ。



「記者時代に一般企業の方々と話をするなかで、働き盛り世代の多くがドラマに興味を示していないことに少なからず危機感を覚えました。それでも金曜の夜くらいは気が抜ける時間があるだろう、その1時間をなんとかドラマに割いてもらえないかと、本作を作る上ではその焦りが一番ありました。凪が空気を読んでしまう主人公だからか、“現代社会へのメッセージ”を質問されますが、正直とくにありません。とにかくドラマとして毎週この時間を楽しみにしてもらえるものにしたい。その一心で制作にあたっています」



 なお、原作はまだ連載中のため、ドラマは原作者に許諾を得た上でオリジナルの結末が用意されている。6話までは原作のエピソードが描かれるが、原作ファンも知らない展開からクライマックスに向かっていく7話以降は、ますます見逃せないはずだ。



(文/児玉澄子)
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