『ルパンの娘』で“ミュージカルロス”生んだ世界的ダンサー、大貫勇輔が見る日本のミュージカルの現在地

『ルパンの娘』で“ミュージカルロス”生んだ世界的ダンサー、大貫勇輔が見る日本のミュージカルの現在地

 先日最終回を迎えた、深田恭子主演のドラマ『ルパンの娘』(フジテレビ系)。ヒロインの三雲華(深田)の前に突然現れ、ミュージカル調で歌い踊る円城寺輝(大貫勇輔)は、SNS上でも「めっちゃ飛び道具」「面白すぎる」と盛り上がり、ミュージカルシーンがない回や最終回の放送後には「円城寺ロス」「ミュージカルロスになりそう」と囁かれるほどの話題に。その舞台裏や日本のミュージカル事情について、円城寺を演じた世界的ダンサー・大貫勇輔に直撃した。



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■役作りは「妖精みたいに」“おふざけを真剣にやる”ユーモアの塩梅を研究



――ドラマの反響はいかがでしたか?

【大貫勇輔】街を歩いていると「あ、円城寺だ!」と呼び捨てで呼ばれる現象が起きました。以前はファンの方から握手を求められることはあったのですが、「僕は円城寺として認識されているんだな」というどこかうれしく、そして不思議な感じもしました(笑)。



――円城寺は、原作にはないキャラクターですよね。

【大貫勇輔】プロデューサーや監督、脚本の先生が毎回素晴らしいシーンを作ってくださって。最初に、「円城寺」は“炎上するキャラクターになってほしい”という意味が込められていると言われてプレッシャーを感じました(笑)。テレビドラマでミュージカルシーンで毎回登場する人物なんてなかなかいないので、そんな冒険・挑戦を僕に託してくださったことにも感謝です。でも、最初に台本を見た時は実はすごく不安でした。



――不安?

【大貫勇輔】台本には「ここで歌い踊る」。文字だけで見るとどんなキャラクターかわからなかったので監督に聞くと「妖精みたいにしてほしい」と(笑)。妖精といわれても、どんな妖精なのか。でも衣装合わせのときに、あのド派手な衣装を着せていただいてようやく「ああなるほど、こっちの方向性か」と。実際に音楽が届き、役が見えてきた感じです。



――それが“炎上”どころか、ここまで愛されるキャラクターに。

【大貫勇輔】全体的にふざけたドラマじゃないですか(笑)。そこで僕が一切ふざけず真剣に演じることでギャップが生まれる。深田さん演じる華がものすごく普通にお芝居されるけど、僕がいることのギャップが面白みを生むと監督もおっしゃっていたし、僕もそう思ったので、ひたすらにミュージカル芝居を真剣にやるという感じでした。



――その真剣さが、逆に独特のユーモアを生んでいたのですね。

【大貫勇輔】段々慣れて僕も遊び始めて、リハーサルではしなかったけれど本番で、去り際にくるっと回るアドリブを入れてみたんです。それは現場で妙にウケましたね。ですが、同じように別のシーンでやったら監督から「今のはタイミングがあざとい」と。本当にちょっとのことであざとくなるのでその塩梅を研究しながら演じていました。



――舞台とドラマのお芝居とのギャップは感じますか?

【大貫勇輔】僕はダンサーですので、普通にしてても背筋を伸ばして胸を張った姿勢になってしまう。過去の他作では「もう少し姿勢を悪くして」といわれたりしていたのですが、『ルパンの娘』では逆にこの所作が求められた。封印していたのが一周回って今作で復活できたといった感じですね。



■「昔はミュージカルが嫌いだった」世界を知る役者から見た日本の壁



 7歳からダンスを始め、バレエ・ジャズ・コンテンポラリー・ストリート・アクロバットなどあらゆるジャンルのダンスを網羅し、世界中のダンサーや演出家と共演してきた。ミュージカルは、2011年『ロミオ&ジュリエット』で一切せりふのない死のダンサー役でデビューを果たすと、翌年『キャバレー』で藤原紀香の相手役に大抜擢された。

 来年には村上春樹原作の舞台「ねじまき鳥クロニクル」に綿谷昇役で出演、また自身が衝撃を受けた作品だという『ビリー・エリオット』のミュージカルの再演で、オールダー・ビリー役も決まっている。



――2011年のミュージカル『ロミオ&ジュリエット』に出演されるまでミュージカルがお嫌いだったとか。

【大貫勇輔】ダンススタジオを営んでいる母親がミュージカルが嫌いだったんです。やはり表現はダンスが一番と考えていたのでしょうね。ですが『ロミジュリ』に関わったことで、歌でしか伝えられない感動もあると知ったのです。そこでものすごいショックを受けて、僕も歌でも踊りでもいろんな方法で感動をお届けしたいと考えるように。母親からはミュージカルをやることについて「歌は下手なのだからやらない方がいい」とめちゃくちゃ反対されたんですけど、2018年のミュージカル『メリー・ポピンズ』を観に来てくれまして。「あなたの歌で感動した」といってくれたのは嬉しかったですね。



――日本でも『ラ・ラ・ランド』のヒット以来、観衆のミュージカルに対する抵抗が小さくなったように感じますが。

【大貫勇輔】『ラ・ラ・ランド』がきっかけかどうかわかりませんが、個人的な感覚では10年ほど前から広がりを見せ始めたように感じています。EXILEさんのおかげでダンス文化が広まって学校の義務教育にもなりましたし、井上芳雄さんや山崎育三郎さんなど、著名なミュージカル俳優の方々がドラマに出演することによって「あ、この人はミュージカルの人なんだ」という気づきや相乗効果が皆さんにも生まれて。少しずつじんわりと広がっているなと肌で感じています。



――一方で、まだまだ日本の観客には「ミュージカルを観る文化」には壁があるような気がします。

【大貫勇輔】欧米では毎週末、映画や舞台に行くのが当たり前だったりするんですよね。日本だと大多数の方が1ヶ月に1回観ればいい方だと思うのですが、海外では「観る」ってことがかなり習慣化されているように感じます。



――動画サービスが発展した昨今は特に、外に出てお金を出してコンテンツを観るという文化が薄れているかもしれませんね。

【大貫勇輔】価格の違いもあるかもしれません。海外はチケット代が安いんです。国の援助している額が全然違うこともあるんでしょうが。NYのブロードウェイなんかは街のど真ん中で割引チケットが売られていますしね。日本では1万円以上を払って舞台を観に行くというのはかなりのファンじゃないとやらないでしょう。



■高尚だったイタリアンもいまや日本の食卓に、ダンスも“やり続けること”が大事



――やはりエンタメの中でも高尚なものというイメージも日本にはあるのでしょうか。

【大貫勇輔】ミュージカル界では「劇団四季」が長い期間かけてずっとやり続けているのはものすごく大きな支えになっていると思うんですね。高尚ということでいえば、例えば料理でも「イタリアン」は昔はちょっと高いもの…フレンチのような印象があったと思うんです。しかし店舗も増え、家庭料理にも浸透し、現在は単なる選択肢の一つに入るまでに。そういう意味で「劇団四季」のように“やり続けていく力”というものはとても大きいと感じています。



――今後はどのような活動をしていきたいですか?

【大貫勇輔】ミュージカルにダンス、ドラマや映画などさまざまな場で表現できればと思っています。そして僕のドラマ出演を機にもっともっと日本の人に舞台やダンスに興味を持ってもらえたら嬉しいですね。またお芝居に関しては、今僕の課題は、自分の強みである“肉体”を封印すること。歌わない、踊らない芝居にもチャレンジし、表現の幅を広げられたらと思っています。



(取材・文/衣輪晋一)
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