NHK・佐渡岳利氏の商業映画プロデュース「ドキュメンタリーに監督のエゴは必要ない」

NHK・佐渡岳利氏の商業映画プロデュース「ドキュメンタリーに監督のエゴは必要ない」

『紅白歌合戦』や『MUSIC JAPAN』など多くの音楽番組を手がけてきたNHKプロデューサーの佐渡岳利氏。これまでにAKB48や乃木坂46、Perfumeなどのドキュメンタリー映画の制作に携わってきたが、次に手がけるのは、細野晴臣の活動50周年を記念したドキュメンタリー『NO SMOKING』(11月1日全国公開)。なぜいま細野のこれまでのキャリアを追体験する本作の監督を務めたのか。その制作プロセス、音楽をテーマにした映像作品についての考え方などを聞いた。



■細野が自らの半生を語るインタビューも見どころ



 細野晴臣の活動50周年を記念して制作された『NO SMOKING』は、幼少期における音楽との出会い、はっぴいえんど、Yellow Magic Orchestra(YMO)、ソロアーティストとしての活動など、細野の音楽活動の軌跡を辿る作品。最近の活動にも密着し、2018年から2019年にかけて行われたワールドツアーのライブ映像も記録されている。また、公私ともに交流がある星野源がナレーションを担当していることも話題だ。



【写真】横浜中華街のライブで共演した星野源×細野晴臣



 そんな本作の監督を務めた佐渡氏は、NHKエンタープライズのエグゼクティブ・プロデューサーとして『NHK紅白歌合戦』『MUSIC JAPAN』『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』『岩井俊二のMOVIEラボ』『Eダンスアカデミー』などの制作に携わり、2015年に公開されたPerfumeのドキュメンタリー映画『WE ARE Perfume WORLD TOUR 3rd DOCUMENT』の監督も務めた映像クリエイターだ。



「細野さんとはお正月の特別番組(『細野晴臣イエローマジックショー2』(NHK BS4K/NHK BSプレミアム)でもご一緒させていただいたのですが、2017年頃から『2019年の50周年に向けて、映画もいいですよね』という話が出ていて。私自身も細野さんの音楽のファンですし、監督をやらせていただくことになりました」



『NO SMOKING』は細野のキャリアを時系列で追いながら進行する。日本語ロックの黎明期の伝説的バンド・はっぴいえんど、テクノポップという形態を生み出し、世界中に衝撃を与えたYMOなどを中心に、音楽家としての変遷を追体験できることが本作の骨子。また、細野自身が自らの半生を語るインタビューも見どころだ。



「それ以前には存在しなかったスタイルの音楽を生み出し続けている方なので、はっぴいえんど、YMO、ソロ活動を通し、エポックメイキングな部分はしっかり押さえたいと思っていました。生まれた頃から現在までを改めて紹介することで、細野さんのファンの方には『私が好きな細野さんはこういう音楽家だったよな』と再確認していただけたらと。そして、あまり知らないという方には、『こんなスゴい人だんたんだ!』とわかってもらえたらと。インタビューは、細野さんが『喋ろうかな』とおっしゃっていただいて。多岐に渡る活動を網羅してご自身に語っていただく貴重なインタビューになりました」



 星野源がナレーターをつとめることに関しては、「星野さんの細野さんに対するリスペクトはすごいし、おふたりは世代は違いますが、友人と言ってもいい関係。最初からナレーションをお願いするなら星野さんと思っていました」と語る。



「音楽の遺伝子が新たな世代のミュージシャンに伝わっていることも、映画に入れたかったんです。星野さん、マック・デマルコ(細野の楽曲をカバーしているカナダのSSW)もそうですが、細野さんのフォロワーは世界中にいますからね」



■「なるべくウソをつかず、自然であること」がスタイル



 NHKの音楽番組を数多く手がけてきた佐渡氏。テレビの音楽番組、音楽のドキュメンタリー映画の違いについてはこう説明する。



「テレビは不特定多数の視聴者が観るので、“わかりやすく説明する”という宿命がある。一方、観客のみなさんが時間とお金を使って“わざわざ”来てくださる映画は、集中して観てくださるだけに、説明が過多になると、想像力を刺激できずに、どこか深みがなくなってしまう。それぞれに長所短所はあるので、今回の『NO SMOKING』でも、『どこまで説明するか?』というチューニングにはかなり気を使いました」



 また、自らの映像クリエイターとしてのスタイルについて聞いてみると、「なるべくウソをつかず、自然であること」という答えが返ってきた。ドキュメンタリー作品における“ウソ”を意訳すれば、“作り手自身の意図や考えを全面に押し出す”ということになるだろうか。



「ドキュメンタリーと言っても、『編集』は必ずするので、絶対に100%の真実は描けないし、そこには、少なからず作り手の意図が入ってしまう。人それぞれのスタイルがあって正解はないですが、自分としては“自らのエゴは少ないほどいい”と思っています。『NO SMOKING』で言えば、細野さんはご自身の功績にあまり興味がない方です。なのに映画を観た方が“細野さんは、はっぴいえんどやYMOの成功に執着している”と誤解してしまったら、それは事実と違いますよね。そうならないように気を付けながら、僕が感じた細野さんのかわいらしい人柄、音楽を愛する心を、できるだけそのまま伝えたいんです」



 ストリーミングサービス、動画投稿サイトなどの普及により、音楽の聴かれ方、届け方が激変している現在。映像メディアを通してアーティストの魅力を発信し続けている佐渡氏は、この状況をどう捉えているのだろうか。



「細野さんの音楽が海外で聴かれているのも、ストリーミングやYouTubeの影響が大きい。これまではアメリカ、イギリスの音楽が世界の中心でしたが、これからはアジア圏や他の地域の音楽もさらに聴かれるはず。日本のミュージシャンも世界で活躍するチャンスがあるし、我々もそれを後押ししたい。また、テクノロジーの発展はめざましいものがありますから、9月にNHKスペシャルで放送した『AIでよみがえる美空ひばり』のように、プレスリーやマイケル・ジャクソンの“新曲”が聴けるようにもなるかも…。音楽は、ますますボーダレスでタイムレスになっていくんだと思います」

(文/森朋之)
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