人気デフォルメフィギュア「ねんどろいど」から考察 なぜ2頭身キャラが日本人に愛されるのか

人気デフォルメフィギュア「ねんどろいど」から考察 なぜ2頭身キャラが日本人に愛されるのか

 頭が大きく、体や手足が小さい2頭身キャラクター。そのコロッとしたフォルムには独特の可愛らしさがあり、1980年代にはバンダイの「SDガンダム」シリーズ、また近年では「ねんどろいど」や「Charaction CUBE」といった既存のキャラクターを2~2.5頭身にデフォルメして表現したホビーシリーズが人気を博している。さらに遡れば、「埴輪」や「土偶」もリアルな人間の頭身をグッと縮めて表現された最古の“フィギュア”と言えるかもしれない。古代から現代まで、なぜ日本人はこれほどまでに2頭身キャラクターに親しみを覚えるのだろうか。



【写真】思わずスリスリしたくなる!? 鬼滅の刃やエヴァもねんどろいどに



◆「SDガンダム」が走りだが、埴輪や土偶と古来から日本では2頭身キャラが愛されてきた



 人気キャラクターの特徴をそのままに、頭身を縮めて新たな魅力を加えた「スーパーデフォルメ」という概念は、一般にはバンダイの「SD」シリーズから始まったと考えられている。その最初の商品は、1985年6月にガシャポンで売られた塩化ビニール製の人形の「SDガンダム」シリーズ。当時のガンダム関連のホビーといえば“プラモデル=ガンプラ”が社会現象的なブームを巻き起こしていたが、「プラモを作る」という技巧を要することから主な購買層は少年~青年に止まっていた。そもそもアニメ『機動戦士ガンダム』の世界観は複雑でわかりにくいものであり、特に玩具をアピールしたい若年層にはリーチできていなかった。2頭身で表現された「SDガンダム」の可愛らしさは、まさにガンダムユーザーの空白地帯ともいえる幼児や小学校低学年、10代女性にまで刺さり、アニメシリーズへの導入のきっかけともなった。『機動戦士ガンダム』が世代を超えた長寿シリーズとして支持され続けてきた過程に、2頭身キャラクターという発想が大きく寄与していたと言っても過言ではないはずだ。



 1990年にはバンダイナムコエンターテインメントから、『ガンダム』をはじめ、『仮面ライダー』などのキャラクターが活躍するコンピューターゲーム『コンパチヒーロー』シリーズも登場。オリジナルの2頭身キャラクターも数多く誕生し、そのコミカルさと可愛らしさが人気を博した。



 さらに2010年には『北斗の拳』の30周年を記念したギャグ漫画『DD北斗の拳』(DDはデザイン・デフォルメーションの略)が『月刊コミックゼノン』で連載(2010年12月号~2016年8月号)。原作のシリアスな世界観をギャグパロディに転換した最も大きな要素が、2頭身タッチで描かれた筋肉ムキムキの登場人物たちだ。ケンシロウのお決まりの掛け声「アタタタター」もコンビニでレジ打ちするシーンで使用されるなど、ユルく親しみのある作風がリアルタイムのファンからもウケた。



 リアルな劇画タッチのキャラクターを2頭身にしても違和感なく受け入れられた背景には、1980年代から続くSDシリーズがあったことはもちろんだが、そもそも日本には古墳時代の素焼の焼き物「埴輪」や、縄文時代の土人形「土偶」など人間を低い頭身でデフォルメして表現してきた歴史がある。



 近年の代表的なデフォルメキャラクターフィギュアである「ねんどろいど」を展開するグッドスマイルカンパニーの平瀬修太郎氏は、キャラクターをデフォルメする意義を「情報量の凝縮」と語る。



「たしかにリアルな頭身で立体化したスケールフィギュアであれば、キャラクターの特徴を細部にわたって全身に入れ込むことができます。それとは逆にデフォルメとは表現を簡略化することでそのキャラクターの特徴を強調する手法ですから、デフォルメするにあたって最初に目が行くところ、つまり頭が大きい頭身にデフォルメするのはファンアイテムとして、キャラクターの魅力をぎゅっと詰め込むのに適していることだと思います」(平瀬氏)



◆幅広い層にへのエントリーモデルとなりうるデフォルメフィギュア



 アニメやゲームのキャラクター、さらには実在の人物までをおおよそ2.5頭身にデフォルメされた大ヒットフィギュアシリーズ「ねんどろいど」。2006年に展開がスタートし、これまでに『初音ミク』や『Fate/Grand Order』といったコンテンツから『アナと雪の女王』といったディズニー作品、MARVELや『ハリー・ポッター』等の海外映画シリーズ、さらにはT.M.Revolution、田村ゆかり、水樹奈々、May’nといった実在のアーティストまで、幅広いキャラクターが“ねんどろいど化”されてきた。昨年はシリーズ1000番となる「雪ミク Snow Princess Ver.」をリリース。その記念プロジェクトとしてロサンゼルス、上海、台湾、秋葉原でも展示ツアーが行われるなど、今やワールドワイドな人気を誇る。



 ねんどろいどの開発背景をグッドスマイルカンパニーの山田香穂氏はこのように語ってくれた。

「一般にキャラクターをリアルに立体化したスケールフィギュアは精巧に作られるため、比較的高価格になりがちです。そのぶんマニア性も高くなっていくため、「ねんどろいど」の開発は、より幅広い層にフィギュアを親しんでいただくエントリーモデルとして、当時はトライアルの意味合いもあったようです」(山田氏)



 このように手に取りやすい価格を実現するのも、デフォルメ(=簡略化)という手法をとった理由の1つだったようだ。とは言え、フィギュアメーカーの矜持から造形の丁寧さにはこだわり抜いたことが支持を得ることに。また付属する小道具の豊富さや、手足を動かしたり顔の付け替えができるなど(一部の商品を除く)、フィギュアとして愛でるだけでなく、着せ替え感覚で自分流にカスタマイズできる面でも人気を博している。



「『ねんどろいど』の最初の商品は『ネコアルク』というもともとのイラストがデフォルメされているキャラクター。つまり再度デフォルメを行わずにそのまま立体化したものだったんですが、このバランスが多くの方から反響をいただいたことから、ほかのキャラクターでも2.5頭身に落とし込むことで新たな魅力が加わるのではないかと開発を進めていき、シリーズとして定番化していったというのが『ねんどろいど』の歴史です」(平瀬氏)



◆萌え系に振りすぎず、変なエロさもない、ユルさゆえの2頭身の安心感



 「ねんどろいど」が広く認知されるきっかけとなったのが、2008年にリリースされた初音ミクだ。当時すでに大人気を博していたキャラクターだったが、最初期にフィギュア化したのが「ねんどろいど」で、その可愛らしさから累計10万個を超えるヒット商品となった。



「もともと初音ミクは音楽からイラストまで、ユーザーが自由に創作するということが行われていますよね。だから2.5頭身にデフォルメしても、違和感なく受け入れられたんだと思います。ただ初音ミクは16歳という設定なので、一般的にはスッとスタイルがいいイラストが多い。それが2.5頭身になったことで『まるでミクの子どもの頃みたい』という感想をおっしゃっていたユーザーさんもいました」(平瀬氏)



 平瀬氏の証言のように、一般に人間も含む哺乳類の赤ちゃんは、成人に比べて(2頭身ほどではないが)体が小さく頭が大きい。このバランスが「可愛い」「守ってあげたい」という大人の庇護欲を掻き立てるという説もある。頭身を縮めることによってキャラクターに幼さという新たな魅力を加えたのも、「ねんどろいど」のヒットの理由なのだろうか。



「我々は特に幼さに寄せているつもりはないのですが、シリーズとして統一感を出すために、もともとは面長のキャラクターでも丸顔にしているものもあります。それによって幼く見えるところはあるかもしれないですね。それと『ねんどろいど』はご覧の通り頭が大きい(=重い)ので付属の台やアーム(支柱)で支えないと自立しないんです。また手足も短いので、ポーズがどこかたどたどしい感じになるのが、赤ちゃんに通じるお世話したくなる可愛さに繋がっているのかもしれません」(山田氏)



 さらに幼さやユルさが加わることで、セクシー系のキャラクターでもセクシャルな印象が和らぐという側面もある。

「幅広く手がけてきたなかでは、かなり露出度の高いキャラクターもいます。また肉感的なキャラクターであれば、それなりに胸の大きさなど特徴を損なわないようにこだわっています。ただ『ねんどろいど』のフォーマットは、体の比率が小さく、言ってしまえばずんぐりむっくりな体型なので、どうしても性的にはならないというか(笑)。それこそキューピーちゃんは裸ですが、いやらしくないのと近いのだと思います」(平瀬氏)



 あくまで好みの問題ではあるが、性的に誇張されたキャラクターには一部の女性や親世代からの拒否反応もあり、決して万人向けとは言えない。その意味でもデフォルメが果たす作用は大きい。「ねんどろいど」もまた、親も子どもに安心して買い与えることができるホビーとして「より幅広い層にフィギュアを親しんでいただくエントリーモデル」という当初の目的を成功させている。



 2頭身や2.5頭身にデフォルメという手法は、キャラクターの持ち味を生かしつつ、新たな魅力やストーリーを加えることでファン層を拡大することにひと役買ってきた。古代人が「埴輪」や「土偶」を「可愛い」と捉えていたかどうかは不明だが、少なくとも現代の感覚からもずんぐりむっくりなそのフォルムは愛嬌たっぷりだ。日本人が愛してやまない2頭身キャラクターから、今後も新たなヒット商品が生まれることに期待したい。



(文/児玉澄子)
カテゴリ