担当者が明かす、漫画『ぴよちゃん』ヒットの理由 王道4コマは新聞の「窮屈さ」が生んだ?

担当者が明かす、漫画『ぴよちゃん』ヒットの理由 王道4コマは新聞の「窮屈さ」が生んだ?

 新聞10紙で連載中の4コマ漫画『ねえ、ぴよちゃん』が話題だ。先日はTwitterで火がつき、既刊1~3巻が緊急重版。小学3年生の女の子ぴよちゃんを主人公に、飼い猫や家族、友人たちとの人情味あふれる日常エピソードが丁寧に描かれる。おかっぱヘアのぴよちゃんはじめ、舞台は現代なのにどこか昭和のノスタルジー漂う世界観。新聞という厳しいコンプライアンスが求められる媒体で生まれた作品は、全国の老若男女の心をつかんでいるようだ。



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■心温まる内容がSNSで広がり単行本が緊急重版「肩の力を抜いて読んでもらえる作品に」



 全国の新聞10紙(北海道、河北新報、新潟日報、東京、中日、中国、徳島、愛媛、西日本、神戸)で2017年4月1日から連載中の4コマ漫画『ねえ、ぴよちゃん』(青沼貴子・著)が、Twitterハッシュタグ「#ねえぴよちゃん」で拡散されるなど静かな話題になっている。単行本の版元である竹書房も緊急重版を決定。その人気は単行本のセールスも動かすほど確かなものになっている。



 素直で元気、でも少しうっかりしているぴよちゃんは、両親と中学2年の兄、猫の又吉(またきち)と暮らす小学3年生。又吉はぴよちゃんが生まれたころから仲良しの相棒で、人間の言葉もわかる(ただしぴよちゃんには猫語は通じない)。このぴよちゃんと又吉のコンビを中心に、祖父母を含めた家族や、個性的な同級生たち、ご近所さんなど、さまざまな登場人物や登場猫らとともに、あたたかく楽しい毎日が続いていく。



 実はこの作品、マンガを活用した広告やビジネスコミック制作を軸に事業を展開するトレンド・プロが、制作進行とプロデュースを手がけている。出版編集部部長である川崎隆昭氏に成立の経緯などを聞いた。



「きっかけは新聞三社連合(編注:北海道新聞、中日新聞・東京新聞、西日本新聞で構成)さんからの依頼です。その事務局は、新聞連載の小説や4コマを手配して全国の新聞に配信しています。2016年に、次の作品を準備しようとしていた三社連合さんから声がかかって、一緒に考えることになりました。



 新聞社がいわばクライアント、発注者ということになります。お題というほど具体的ではないのですが、一服の清涼剤、ほっとする存在として4コマを置きたいという目的はありました。社会面という、深刻なニュースが載ることも多い面ですので、老若男女、家族が楽しく、肩の力を抜いて読める作品で、ほっこりしてもらう。そういうリクエストです」



 広告を漫画で的確に表現するビジネスを展開する同社にとって、著者は過去に仕事上のつながりがあり、伝説的育児コミック『ママはぽよぽよザウルスがお好き』などメジャー作品を第一線で多数手がけ続ける信頼感もあった。



「青沼先生ご自身が、新聞4コマが大好きという方。函館生まれで、当時の北海道新聞で、『ほのぼの君』(編注:佃公彦・著。『ちびっこ紳士』というタイトルだった時期もある)が大好きで、もちろん『サザエさん』も読み込んでいて、新聞の4コマ漫画への思い入れも強かったそうです。どこか懐かしい、昭和時代の漫画の良心的な部分を伝承していきたい、あの流れを次代に伝えたいという願いもあるのだと思います。だからこそ、舞台は現代でも、誰もが安心して読める精神性があり、それが読者の方々にも伝わっているのかもしれませんね」



■新聞10社の校閲から届くチェック「猫の関西弁風のセリフはご了承ください」



 毎日のカラー連載だが、実際には月2回、15本ずつまとめて仕上げてもらう方式とのこと。掲載される媒体が新聞ということでの苦労はあるのだろうか。



「当初は念のため、事前にネームチェックを行なっていましたが、すぐに完成原稿でいただく形になりました。新聞は書籍以上に、多様な読者への配慮とコンプライアンスが求められるので、そういう意味での制約はあります。身体的な特徴をあげつらうような表現は避けるなどセリフの配慮はもちろん、色の塗り漏れや、手描き文字の漢字のトメハネなど含めて、細かく見ながら場合によっては修正をお願いしていきます。



 ひとまず三社連合さん側のチェック後に納品しますが、そこで終わりではありません。その後、全国10紙に配信されるわけですが、各紙にも当然、校閲がいらして。あちらの新聞社は指摘してくるけど、こちらには何も言われない、ではどこかもう1紙が指摘してきたら直そうとか、調整を続ける…。作品自体がほんわかした4コマですし、きっと気楽に作ってるんだろうと思われているかもしれませんが、そんなことはまったくありません(苦笑)」



 重要キャラクターである猫の又吉が話す関西弁風のセリフに対し、「関西弁として正しいのか」といった指摘が入ることもあるのだという。



「これはあくまでも又吉語ですのでご容赦ください、と丁寧に説明したりしています(笑)」



■高度な4コマ技術が生む「ノスタルジック感」に全世代が反応



 読者の心をつかんでいるのは、まっすぐ素直な気持ちで日々を過ごすぴよちゃんの姿。そして家族や友情の絆だろう。ほっこりさせる日常エピソードが中心で、塾に忙しくスマホゲームに熱中…といったリアルな現代の小学生の要素はあまり扱われない。おかっぱ頭のぴよちゃん、又吉というネーミング、どこか懐かしさが漂う作風。ご近所づきあいのシーンも多数見受けられる。



「連載開始前に、もしもネタに困ってきたら、ブレスト的なミーティングを開きましょうと青沼先生とは話していたのですが、結局いまだ一度も行なっていません。そもそも4コマという表現フォーマットには、かなり職人芸に近い面があって、情報を削ぎ落としつつ、きちんと起承転結を展開する必要があります。メジャーでずっと活躍してこられた青沼先生だからこそ、非常に卓越したテクニックで、とても完成度の高い作品を継続できているのだと思います。実際に、小学校の授業で教材として使われたり、中学の入学試験で取り上げられたりしているのは、その完成度の証でもあると思います」



『ほのぼの君』『サザエさん』など、王道の新聞4コマ漫画を愛してきた作者ならではの、ノスタルジーさえ感じさせる人情話や昭和感。だがそれだけにとどまらず、現代でも共感できる魅力的な要素を、絶妙のバランスで織り交ぜていることがすぐに納得できるはずだ。



■「ぴよちゃん」のピュアな心に射抜かれる、ツンデレ同級生キャラにネットが共感



 今年1月、SNS上で大きな話題となったこの作品、Twitterでは「人々のふれあい」と「日常」を描く普遍的な物語に共感する読者がうかがえる。「まんま子どもで本当に笑える」「今日1日で一番癒された」「善人しか存在しない世界」「ひたすら優しくなれる」といった投稿が多数。中には親が子どもに読ませる姿も散見され、幅広い世代から支持されているようだ。



「新聞社に届くファンレターは60代以上と小学校低学年くらいに二極化しています。ですが、Twitterで実はそれ以外の層にもきちんと届いているのだと実感できました。以前にも、2万いいね!くらいつく投稿などはあったのですが、今回のように10万いいね!超えはなかった。話題になった理由は、正直よくわかりません。まとめサイトの影響説もありますが、SNS上で話題になった瞬間にすでに単行本があったというのもプラスに働いたのだと思います。なにより、目に触れたことで手に取ってみた方々の期待を決して裏切らないような、とても上質な作品だったということなのだと思います」



 ネット界隈では、ぴよちゃんの同級生であり、ツンデレなセレブお嬢様「ひみこ」も特に人気を集めている。2人の関係性を「尊い」と表現する層からの支持も熱く、「ぴよちゃん、高校生になって少し垢抜けるけど性格は変わらず天真爛漫でいて欲しい」「10年後もなかよしでいてほしい」といった願いを込めた二次創作ファンアートなどもSNSに投稿され続ける状況だ。



「青沼先生ご自身は、そういう別の楽しみ方もあるのね、と喜んでおられました。ぴよちゃんとひみこちゃんの仲良し話が増えていくにつれ、SNSでの反応も増えているように思います。2人に似た関係性としては、3巻から登場した宮司さんと、神社に住み着く猫のハチにも存在していますが、やはり評判が良い。



 ネット上で話題になるにはツンデレ要素が大事、ということなのでしょうか。宮司さんの登場は我々にとっても嬉しいサプライズでした。いずれにしても、青沼先生には可能な限り、自由にのびのびと描いていただく。老若男女の誰もが、読んで嫌だと思わないもの、というハードルは、実は非常に高いものなのですが、青沼先生は楽しみながらクリアし続けておられ、とても心強く思っています」



 魅力的なキャラクターたちによって無理なく醸し出されるノスタルジックな味わいは、作品の普遍的な魅力につながるもの。そのあたたかさは、忙しく日々を過ごす人々に、ちょっとした癒しを提供する。SNSから話題が広がり、しっかりと紙のセールスに結びついた好例でもあり、最新刊となる4巻の発売で、まだまだ部数を伸ばしそうな本作。アニメ化を希望する声も多い。さらなる動向に注目したい。

(文/及川望)
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