妻が好きすぎて引退? 「細かすぎて~」王者が語る“引き際の美学”

妻が好きすぎて引退? 「細かすぎて~」王者が語る“引き際の美学”

『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の人気コーナー「博士と助手〜細かすぎて伝わらないモノマネ選手権〜」に出場。わずか1分で物語のバックボーンも見せるネタと圧倒的クオリティーの平泉成のモノマネで優勝したピン芸人・末吉くんが3月いっぱいで所属事務所退所し、芸能界から引退する。モノマネ以外にも、長野のローカル番組ではメインMCを務めるなど、順調な芸人人生を送っていた彼が、引退を決断した裏に、どんな思いがあったのか。本人に話を聞いた。



妻>お笑いで引退決意 引き金は安室奈美恵!?



【写真】平泉成…ではなく、宮根誠司のモノマネをする末吉くん



「引退の要因はいろんなことが複合的に重なって、自分で決めました。ドン引きされるかもしれませんが、私は妻をすごく愛しておりまして…。そのなかできっかけになったのは…安室奈美恵さんの引退ですね」



 インタビュー冒頭、引退の理由を聞くと、こんな答えが返ってきた。落ち着いたトーンで真っすぐこちらを見ながら答える末吉くんの目を見ると、どうやらボケではなさそうだ。

「順を追って説明すると、17、8年、長野のローカル番組に毎週出演しているんですが、農家さんとか商店街の方々とか、ご夫婦で仕事をされ、生計を立ててらっしゃる方にたくさん出会いまして。それがすごく幸せそうに見えて、そういう生活ができればいいなと、ぼんやり考えていたんですね。特に今51歳なんですけど、50歳を超えてから強く思うようになりました。お笑いはもちろん大好きなんですが、それ以上に、私、妻が好きでして(笑)。夫婦の時間を大切にしていきたいと思ったんですね。そんなことを思っているときに、コンサートに行くくらい大ファンの安室奈美恵さんが引退された。まだまだ活躍できる、あれだけの方が引退を決断されたときに『人生をいろいろお考えになったんだろうな』と思ったんです。自分も改めて、自分の人生を考えて…、引退という決断をしました」



 昨年8月、苦楽を共にしたマネージャーに打ち明け、事務所でいろいろと話し合い「とりあえず1週間後にまた話し合いましょう。長野の番組も末吉くんを必要としてくれています」と引き止められたが、末吉くんの決意は固かった。

「引き止められるのが夢だったのでうれしかったですね。『必要としているところがある』と言われてちょっと心は揺れましたし、何度も話し合いを重ねましたが、最終的に『気持ちは変わりません』と伝えました」

 引退発表後、同じ事務所の有吉弘行が自身のラジオで「やめてほしくない」と発言したことが話題となったが、末吉くんにもその言葉は届いていたという。

「普段お酒を飲みに行ったり、頻繁にお会いするわけではなかったんですけど、人づてにラジオでお話になっていたことを聞いて、本当にありがたいと思いました。長野のレギュラー番組も、有吉さんから引き継がせていただいて(マネージャーいわく「長野の皆さんに有吉さんは刺激が強すぎ、末吉くんは水が合った」)ここまで続けることができたので、感謝しています」



『細かすぎて~』で感じた“青春”



 もともと芸能界に興味があったわけではなく、おっかけをしていた落語家の故・立川談志氏に弟子入りを志願しに談志氏の自宅へ行ったところ、事務所の方に「歌でも演劇でもいいから自分の力で表舞台に出て、それから考えましょう」と言われたことに奮起し、さまざまなオーディションを受験。情報を集めていたオーディション誌にたまたま、太田プロのネタ見せの募集が載っていたことが所属のきっかけとなった。

「当時、芸能事務所=怖いと思っていたんです。でも太田プロの募集欄には松村(邦洋)さんの写真が載っていて、なんとなく『ここは安心だ』と思ったんですね。これが土田(晃之)さんの写真だったら多分受けてなかったと思います(笑)」



 芸人としての始まりは、バナナのモノマネ(?)など謎の芸風で劇場などに出ていたが、あるとき、事務所の先輩である土田晃之が出演していた長野の番組に中継で出演し、おじいちゃん、おばあちゃんとの掛け合いが面白いと高評価を得ると、その後始まった『土曜はこれダネッ!』(長野放送)にレギュラー出演が決定。その後、ブレークのきっかけとなる『細かすぎて~』に出演することになる。もはや代名詞ともいえる平泉成のモノマネは、当初身内ネタとして家の中で披露していただけだった。

「サスペンスドラマがすごく好きでよく見ていて、平泉さんもよく出ていらっしゃったんです。そのモノマネを、妻や妻のお母さんなどに見せてたら、ウケが良くて、お義母さんからは『どんどんやった方がいい』って言われて。ただ、身内で受けてもどうかなと思っていた矢先に、『細かすぎて~』が始まって。『伝わらなくていいんだ』と思って受けたら、出演することができました。初めて出た頃は、一言、二言言ってすぐに(床下へ)落ちていました。ただ、他の出演者の方は言葉や顔に力があったりするんですが、僕の場合はそうではないので、サスペンスドラマで見たことあるシーンを番組用に凝縮して、(床下へ)落ちるためのオチを付けてという感じでした。スタッフさんも、だんだんわかってくれて、最終的に『1分45秒までなら大丈夫です』と言ってくれました。一言で終われば一瞬ですけど、ドラマ仕立てにすれば、テレビに多く映ることができて顔を覚えてもらえるなんてことも考えてました(笑)」



 第10回の『細かすぎて~』で見事に優勝。審査員のとんねるず、関根勤、有田哲平からは「15分くらいの短編を作ってほしい」「(一人芝居だけど)相手のセリフが聞こえてくる」「DVD出せばいいのに」など賞賛された。

「優勝の時は、あんまり手応えがなかったので、正直驚きました。最後のネタをやって、セット裏の芸人さんの集まる場所に行ったとき、一緒に戦った芸人さんたちが、拍手をして迎えてくれて。すごくうれしかったんですね。甲子園で高校球児がお互いを称えあうみたいなシーンは見ていましたけど、その年になってこういう感情を味わえると思わなかったので、『ああ、お笑いにも青春というものがあるんだな』と思いました。長野の番組スタッフや視聴者の方々の顔も浮かびました。『これでやっと認めてもらえるかな』って」



 そんな末吉くんが一番驚いたのは、出演者に対するとんねるずの対応だったという。

「番組では芸人をいじったり、時には傍若無人に振舞っていらっしゃいますが、実はすごく丁寧です。収録が終わると石橋さんがセットの脇に残ってくださって、出演者が1列になって『今日はありがとうございました』ってあいさつに行くんです。石橋さんは『面白かったですよ』とか『ネタはどうやって作ったんですか』とかすごく丁寧に敬語で声をかけてくださるんです。木梨さんは、石橋さんを立てられているのか『俺はいいから貴明の方へ行って』って感じで。テレビでのイメージと違っていたのですごくびっくりしました」



“修復士”として第二の人生を妻とスタート



 芸人引退後は、妻とともに“修復士”として第二の人生をスタートさせる。あまりなじみのない職業だが、家の床や柱などの線傷やたばこの焦げ跡をなかったかのように直したり、アルミサッシの塗り替えや、技術が高い人は、国宝とか文化財級の美術品の修復なども行う。

「妻のパート先の不動産屋で、師匠と出会いまして、修復士の仕事を見学させていただいたことがあったんです。そのときにすごく楽しそうだと思いまして。興味を持って、芸人の傍ら、修行させていただいたんです。それが昨年の5月ごろ。妻と2人で修行していたので、これなら夫婦2人で無理なくのんびりやれるかなと思いました。拠点は東京ですけど、長野の方に呼んでいただければ喜んで向かいます。ただし、出張費はいただきますけど(笑)」



 20数年にわたる芸人人生に悔いはないと胸を張る。

「芸人になって、毎日が楽しくなりました。生きていくうえで必要なものはすべてお笑いから学んだ気がします。芸人としてホームランは打てなかったですけど、未練や悔いは一切ありません。支えてくださったすべての人に感謝しかないです。今まで応援していただきありがとうございました」
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