藤原啓治さん、“人間臭さ”追求した芝居と人柄「野原ひろしになりたい」

藤原啓治さん、“人間臭さ”追求した芝居と人柄「野原ひろしになりたい」

 アニメ『クレヨンしんちゃん』の野原ひろし役、『ケロロ軍曹』などのナレーターを務めた、声優の藤原啓治さんが4月12日に死去したことが、16日に代表取締役を務める「AIR AGENCY」の公式サイトで伝えられた。55歳だった。生前のインタビューで藤原さんは、憧れは「野原ひろし」とし「人間臭いキャラクターには思い入れがあり、感情移入しやすい。表もあれば裏もある、人間の感情は多面的なものだと思うんです。そういうのが見え隠れするキャラクターを演じるのは楽しい」と語っていた。声優業は個人評価より作品の評価が「最大の成果」と、仕事に対する思いや人柄、追求してきた“人間臭さ”を紹介したい。



【画像】藤原啓治さんが声を担当した『クレヨンしんちゃん』の父・ヒロシ



 藤原さんは1964年10月5日生まれ、東京都出身。アニメから海外映画・ドラマの吹き替えまで幅広くこなし、青年役から老人役まで様々な役を務めてきた。代表作は『クレヨンしんちゃん』の野原ひろし役、『鋼の錬金術師』のマース・ヒューズ役、『HUNTER×HUNTER(第2作)』レオリオ役、『アベンジャーズ』シリーズのアイアンマン=トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)の吹き替えなど、主役はもちろん作品に欠かせないキャラクターを数多く演じてきた名バイプレーヤーでもあり、一度は藤原さんの声を聞いたことがあるだろう。



 2018年にマーベルヒーローが集結する映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』にアイアンマン役の吹替えで出演する際、単独インタビューする機会があった。藤原さんが他の収録の影響で10分ほど遅れて開始となったが、「遅れました、すみません!」と息を切らして部屋に入って来たのが印象的だった。



 こちらはインタビューを引き受けてくれるだけでありがたく「まったく気にしておりません! 息を切らされて、すぐにインタビューで大丈夫ですか? 時間待ちますので、少し休憩を取っても…」と尋ねると、藤原さんは「あ、まったく息切れしていませんよ? 『しれ~』と部屋に入って来たら嫌だと思ったので、これは演技です。お待たせしました、さっそく始めましょう」と切り返され、一瞬にして虜になってしまった。



■休養中は仕事への“渇望感”「作品に向き合う時間ができてよかった」



 インタビュー前の藤原さんは、2017年8月まで体調不良で仕事を一時休養していた。インタビューでは、その時のことも語り「その時は、間が空いてしまったので緊張感はありましたね。今回は、徐々に仕事を増やしてアイアンマンを演じるのではなく、いきなりでしたので余計にプレッシャーがありました。休養前は忙しく働いていたので、少し休むと『こんなに緊張するのか』と(笑)。初心に戻った感じがしました」と休養中は仕事への渇望感があったと告白。



 続けて「この休養を機会に1本1本の仕事がさらに大事になりました。それまでは忙しく1日に何本も収録していたので。これまでもいい加減に仕事をやっていた訳ではありませんが、今は作品に対して向き合う時間もあり仕事ができるありがたみを感じます。仕事のオファーをいただけることが、改めてうれしいことだと思いました。仕事をいただけても、断らなくてはいけない痛みと申し訳無さ。仕事に対する渇望感もありました。結果論ですが、いい時間だったのかなと。今は前向きに考えています」と人生の糧になったと話した。



■憧れは「野原ひろし」 私生活でも追求した“人間臭さ”



 同映画においての役作りについて聞くと「アベンジャーズのキャラクターたちは各能力があって個性的。こんな風貌をしていますが、わりと人間的というか人間臭さが魅力的で、演じていて楽しい」とし「言い方は悪いですが、細かいことにウジウジこだわったり。ひとつの映画の中に『力強さ』と『人間臭さ』の演じ分けの強弱があり、僕にとってアベンジャーズは、盛りだくさんな感じ。ヒーローをやっているというか、人間ドラマをやっている感じです」と“人間臭さ”というワードを何度も強調していたのが印象的だった。



 自身にとってのヒーローは「両親」と答えた中でも「僕が過去に演じてきたキャラクターたちを集結させるとしたら、まずはサラリーマンのヒーローと呼ばれているクレヨンしんちゃんの野原ひろしですね。現実的に家族や家を守るというのが、すでにヒーローだし人間臭さを感じる。戦闘では足の臭さを武器にして戦うのではないでしょうか(笑)」と自身の代表作である野原ひろしの名前をあげて、ここでもやはり“人間臭さ”がキーワード。



 なぜ、そこまで“人間臭さ”を追求するのか? 特別な思いがあるのか? 質問してみると「同タイプで大好きなキャラクターである『鋼の錬金術師』のマース・ヒューズ、『交響詩篇エウレカセブン』のホランド・ノヴァクもいいですね。人間臭いキャラクターには思い入れがあり、感情移入しやすい。表もあれば裏もある、きれい事だけじゃなく、裏側にあるもの。人間の感情は多面的なものだと思うんです。そういうのが見え隠れするキャラクターを演じるのは楽しい。弱さがあれば強さが目立つ、引き立つ」と説明した。



 そして「憧れとしては、(野原)ひろしに、なりたいんですよね。アイアンマンみたいに人類を守るというのを背負ってはいないと思いますが、『家族を守ること』も『人類を守ること』も“ヒーロー”の根底は一緒な気がします。サラリーマンでああ見えて、ひろしも身近な1人のヒーローなのだなと。親近感があり共感して多くの方々に愛されている理由がわかります」と“野原ひろし”は仕事外においても特別な存在だったようだ。



 インタビューは30分ほどで、終始軽快なトークで冗談も交えながらだったが、「声優は個人で評価されるより、『作品全体が面白かった』と言われるのが最大の成果だと思います」と仕事論や大切していることを包み隠さず語っていただいた。終了後は「少し言いすぎちゃったかな?」と照れ臭そうにしていたが、「NGな部分はありませんので、自由に書いていただいて大丈夫です。…ただ、語尾だけはかっこよくね」と、仕事に対して人一倍の責任感を持ちつつ、茶目っ気あるユーモアも忘れない“人間味あふれる”男だった。
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