外国人が“英語落語”に挑戦したワケ ブロードウェイ公演を機に「今だからこそ“本当の古典落語”を世界に」

外国人が“英語落語”に挑戦したワケ ブロードウェイ公演を機に「今だからこそ“本当の古典落語”を世界に」

 落語家・桂文枝の弟子で、カナダ出身の外国人落語家として活躍する桂三輝(サンシャイン)。ニューヨークを拠点に、13ヵ国のワールドツアーで“英語落語”を披露。オフブロードウェイ版トニー賞にもノミネートされベスト4に、日本でも落語で英語を学べる本の出版や、YouTubeチャンネルでのライブ配信など、さまざまな方法で落語の魅力を発信中だ。外出自粛が続く中、自宅から笑いを届け続ける彼に、落語に魅せられた理由と今後の展望を聞いた。



【動画】落語の古典的な噺「じゅげむ」が英語に、流暢であっぱれな早口上に外国人も爆笑



■落語との出合いは日本の焼き鳥屋!? 好きなものが詰まった最高のショーに一目惚れ



――三輝さんは、もともとカナダで劇作家として活動されていたんですよね?



【桂三輝】そうですね。20代からミュージカルを作っていて、古典ギリシャが専門だったんです。ある時、“日本の能楽と歌舞伎は喜劇に似ている”という論文を読んで、1度観てみようと思って軽い気持ちで日本に来たんです。それから日本が好きになって、住むことになりました。



――では、落語に出合ったのはその後?



【桂三輝】大好きでよく通っていた焼き鳥屋さんのマスターが落語会をやっていて、毎月お店でお座敷に寄席を作っていたんです。「こんなに焼き鳥が好きだったら、日本文化の落語も好きなはず」と言われて聞いてみたら、ものすごくおもしろかった! 日本も古典も、笑いも好きだし、ドラマもあって、自分の好きなものが全部入っていて。一目惚れでしたね。



――分かりづらくなかったですか?



【桂三輝】もちろん分からない部分もありましたよ(笑)。でも、十分伝わったし、自分もやってみたいと思いました。知れば知るほどおもしろくて、落語の世界に入りたいと強く思うようになりました。



――その後、どうやって落語家になったのでしょうか?



【桂三輝】最初は、「落語家になりたいなら、まずは(桂)三枝会長(現・桂文枝)の落語を観たほうがいい」と勧められたんです。それで観に行ったら、もう大爆笑だったんですね。2度目の恋に落ちたような気持ちで最高でした。



――運命の恋ですね(笑)。



【桂三輝】本当に最高でした! 三枝師匠の落語をこのままアメリカやカナダでやったら大爆笑だろうなって、想像もできたんですよね。それで、その後師匠のストーカーのようになって、入れていただけることになったんです(笑)。



――三輝さんがおいくつの時でしょう?



【桂三輝】38歳でした。普通はそんなに年をとってる弟子は取らないんですよね。でも、師匠も「海外で落語を広めてくれたら」という私と同じ思いがあって。弟子にしていただいて、名前を頂いた日のことは今でも忘れられないです。



――“三輝”と書いて“サンシャイン”。



【桂三輝】世界中に通用する名前ですし、“お日様のように世界中の方々をあたたかく照らしてほしい”という愛情が込められていて、うれしかったですね。



――実際に落語の世界に入ってみて、何か感じたことはありますか?



【桂三輝】最初は大使館などで、日本文化のプレゼンテーションのような感じでやっていたのですが、どこにいってもウケるのでめちゃくちゃ可能性を感じました。もともとミュージカルの経験があったこともあって、落語をショービジネスとしてやりたいという思いが強くなっていきました。



■英語落語は“無国籍英語”がカギ シンプルな直訳がベストな理由



――ブロードウェイを始め、世界各国で英語落語の公演をされていますが、“落語”という日本独自の文化を海外で伝わるように英訳するのは難しくなかったですか?



【桂三輝】最初は師匠と相談しながらいろいろ試したのですが、最終的にシンプルな直訳がベストだと分かりました。やりすぎるとどこの話か分からなくなってしまうので、合わせすぎないほうがいい。リズムや間をそのままにして、日本語で落語をしているのと同じように英語でやっています。



――シンプルな方が伝わるのは意外ですね。



【桂三輝】そうなんですよ。英語に関して言うと、最初に意識して“無国籍英語”を作りました。しゃべる時にすべてのワードを全部はっきりと言うと、どの国の英語でもない無国籍な言葉になります。言葉選びも伝え方も、シンプルが一番です。



――落語に出てくるような日本独自のお話でも、外国の方に伝わるものですか?



【桂三輝】登場人物の雰囲気やキャラクターがしっかり分かるようにすれば伝わります。外国人もみんな日本のことを知りたいし、もし理解するのが難しい場面があっても“枕(本題に入る前に行う話)で説明できるので。



――なるほど。最初に説明しておくんですね。



【桂三輝】そうです。これがまた、めっちゃ笑いが取れるんですよ。たとえば、日本でお酒を飲む時のマナーや“手酌”のことなど、独自の文化を細かく説明すればするほどウケるんです。



――では、国によって披露するネタは変えてない?



【桂三輝】変えていないです。もちろん、基本のストーリーや登場人物も変えません。どの落語家でも地方に行くとローカルなネタを入れるように、地域に合った話を入れ込むこともありますけどね。



――お客様の反応に、国によって違いはありますか?



【桂三輝】国によって変わるというよりは、お客様によって毎日反応が違うんですよね。昨日と今日のお客様で空気感が違うので、バランスを取りながら話すようにしています。



■YouTubeチャンネルでライブ配信も コロナ禍でも「やるべきことはたくさんある」



――もともとお持ちだったYouTubeチャンネルも再開されました。新型コロナの影響が大きいとは思いますが、きっかけを伺えますか?



【桂三輝】本当はずっと続けたかったですし、やるべきだったんです。でもブロードウェイでの公演もあって、なかなか更新ができなくて。今は自宅でYouTubeを勉強しながら更新しています。“YouTubeユニバーシティ”に入っている感覚で学ぶこともたくさんありますし、やるべきことがいっぱいあると感じますね。



――高座とYouTubeで落語を披露することの違いや、心掛けていることはありますか?



【桂三輝】画面だからこそできることがいっぱいあるんですよね。字幕を入れたり、音楽や太鼓の音を入れたり、楽しく見られるようにYouTube用に編集をしています。古典落語のやり方ではないけど、新しい芸風と言えるのかも。動画がきっかけで、いつかブロードウェイで本当の落語を観に足を運んでいただける方も絶対いると思っています。



――世界中の方の落語の入り口になり得ますよね。今後もさまざまなコンテンツを配信予定なのでしょうか?



【桂三輝】今は、ブロードウェイのショーをやっていた木曜と土曜の夜8時に、必ず生配信をやっています。日本の20時と、アメリカの夜8時の両方。リアルタイムでコメントなどの反応をいただけるので、すごくあたたかい時間になっていますね。これから英語落語も、週1回披露します。毎週だから、ネタがなくなっちゃいそうで大変ですけどね(笑)。



――YouTubeでは新たに“中国語落語”にも挑戦されていますね。



【桂三輝】Google翻訳で訳した中国語の小話をWeiboにアップして、「みなさま、勉強中ですので直してください」と、コメントをつけました。



――なるほど。教えてもらうんですね?



【桂三輝】“クラウドラーニング”と言ってるんですけど、世界中の中国人に先生になってもらって、間違っているところを指摘してもらったり、キレイな中国語に直してもらいながら勉強しています。半年後にきちんとできるようになるのが理想です。



――教えた方も、その後の上達を見るのが楽しみになるかもしれませんね。



【桂三輝】落語の世界では、ネタを覚えたら師匠の前座としてお客様の前に出ることができるんですよね。一人前じゃなくても、出ることでお客様に育てていただける。これからもいろいろな方法で育てていただいて、落語を世界に広めていきたいと思っています。
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