“新選組沼"にハマる人まで…海外で深まる日本のオタク文化「愛に甘えてたらコンテンツは衰退する」

“新選組沼"にハマる人まで…海外で深まる日本のオタク文化「愛に甘えてたらコンテンツは衰退する」

 イラクやイタリアの子どもたちが『UFOロボ グレンダイザー』で盛り上がり、『アルプスの少女 ハイジ』は地元スイスで根強い人気に。アニメ以外にも、漫画、ゲーム、アイドルなど様々な日本のカルチャーが、海外でも高い熱量を持って応援されている。中国ではイケメン好きを「顔狗」と表現したり、アメリカではキャラになりきって受け答えするコスプレイベントがあったり…そんな独自の路線をも築いている“海外のオタク”たちの熱量はどのように深まりを見せているのか。編著書『海外オタ女子事情』(KADOKAWA)をまとめ上げた劇団雌猫のもぐもぐさん、世界50ヵ国を旅して各国のアニメイベントを訪れた経験を持つPashimoさんに、海外の“奥深すぎる”オタク事情を聞いた。



【写真700枚】美女外国人レイヤーがエヴァ・アスカに変身…白肌美ボディ披露



■「海の向こうでも、直接オタクカルチャーで繋がっている」



 イタリアでは、永井豪の『UFOロボ グレンダイザー』が最高視聴率80%を超えるほどの人気番組に。グレンダイザーを見て育った、あるイタリア人の女性は“ジャパニーズアニメ”をきっかけに、日本における戦士「侍」のカルチャーに興味を持った。斎藤一や土方歳三といった新選組沼にどっぷりとつかり、毎年夏には日本人でも訪れないようなマニアな場所に聖地巡礼に出掛けているという。



 このエピソードは『海外オタ女子事情』で実際に語られたエピソードだ。本を編集した劇団雌猫のもぐもぐさんは、『浪費図鑑』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)など“女性とオタク”にまつわるヒット本を数々手掛けてきた。



「今回の本でインタビューして感じたのは、日本のオタクも海外のオタクも、思った以上に一緒の価値観を持っているということ。イタリアの子どもたちが愛する物のひとつとして“ジャパニーズアニメ”があるだけですごいのに、それから巡り巡って新選組を好きになる人がいるって『どういう経緯?』と最初はとても驚いて。その方はコロナで大変だった地域のご出身でもある。しばらく日本に来れないと思うんですが、『色々辛いけど、土方さんのことを考えているだけで心が楽しくなる』っておっしゃるんですよ…。今の時代、海外にいたとしても一緒のコンテンツを楽しんで、直接オタクカルチャーで繋がれている。お互い支え合っている感覚がありますね」(もぐもぐさん)



 中国、アメリカ、ヨーロッパ…様々な国のオタク女子たちからのエピソードで驚いたのが、日本のオタクカルチャーがただ伝播しているだけではなく、独自の路線をもって“深まり”を見せていることだ。



 同書にコラムを寄せているPashimoさんは、世界50ヵ国を旅しながら各国のアニメイベントに参加する“海を渡るオタク女子”だ。彼女が「自己表現のお国柄が出ている、独自の文化」と話すのが、アメリカのコスプレイベントでよく見られる“なりきり”ショー。日本ではコスプレイヤーがポーズをとって、洗練された作品として写真を仕上げていくのが主流。対してアメリカでは、“お芝居”の要素がより強まる。コスプレイヤーがキャラクターになりきって、イベント来場者からの質問にキャラクターとして回答したり、キャラクター同士になりきってお見合いをする企画まであるのだ。



■『ONEPIECE』のナミと『BLEACH』の一護がステージ上でお見合い?!



 「アメリカのアニメイベントに訪れたとき、その盛り上がり具合に驚いた」と話すPashimoさん。



「アメリカでは“スピード デーティング”とも呼ばれるのですが、キャラになり切った状態でお見合いをする企画があります。大人数で行うものもあれば、ステージ上で選び抜かれたコスプレイヤーにより繰り広げられる場合も。例えば、『ONE PIECE』のナミと『BLEACH』の一護がお見合いしたらどうなるのか、などをコスプレイヤーが即興で演じるんです。キャラクターになりきって『好きな食べ物は?』『休日何してる?』と質問しあって、口調や仕草もなるべく真似します。日本なら『イメージと違う』『やめて!』となると思うんですけど、アメリカはそこで『いいぞ!いいぞ!』と盛り上がる(笑)。自己表現の国、アメリカならではの特色ですね」(Pashimoさん)



 アメリカでは、コスプレのジェンダーベンディングも盛んだという。ジェンダーベンディングとは、既存キャラの性別を逆転させるという楽しみ方だ。例えば「男性キャラがもし女性だったら?」と想像して、髪を長くしてみたり、ズボンをスカートに変えみたり…髪型や服装もベンディングした性別に合わせて考えていく。(※キャラクターに合わせて、ペインティングして肌の色を変えることは、人種差別の歴史がある国ではタブーとされている)



「『世界コスプレサミット』を取材した時に、同じ『コスプレ』でもここまでアプローチが違うのか! と驚きました。Pashimoさんもお話したように、よりお芝居っぽく、演技力が問われるんですよね。『風の谷のナウシカ』のコスプレだったら、とにかくナウシカになりきる。森を探すような仕草だったり、ロボットから煙が出たり、目が光る演出だったり…。コスプレと一口にまとめられているけど、国によってぜんぜん違う楽しみ方がある。より見え方が広がりました」(もぐもぐさん)



■海外から見た日本のオタク文化「クールな印象がある一方で、分断されている」



 海外の人々から日本のオタク文化はどのように見えているのか。Pashimoさんに質問すると「どこを切り取るかにもよるけれど、“クール”で“クレイジー”な印象は変わらなくある。ただ一方では、すごく“分断されているな”という印象も…」とオタク文化にまつわる日本と海外の現状を話してくれた。



「コンテンツが好きすぎて部屋のなかをグッズで埋め尽くすとか、推しキャラと結婚してしまうとか、海外だとそこまで振り切ったエピソードは少ないですからね(笑)。分断されていると感じるのは、コミュニケーションがとれるかどうかの問題です。海外の方は英語が堪能だから、違う国同士でもネットでワイワイ盛り上がれる。でも、日本だけ日本語で国内でかたまってしまうところがどうしてもあります。海外のファンにとっては、日本の同じ作品のファンがどういう動きをしているのか、なかなかつか見づらいのでは」(Pashimoさん)



 最近は Netflixなどもアニメに力を入れており、オリジナルアニメも多く製作・配信している。昔はディープなファンにしか届かなかったところ、ライト層も手軽に見られるようになっているのは大きな変化だ。しかし、古参ファンにとっては複雑な心境もあるようで……。



「なかには日本風のタッチで描かれたアメリカ制作アニメなどもあって、それに対して日本のアニメが好きな海外のファンたちが『アメリカで作られた作品をはたしてアニメと言えるのか』『日本だからこその“アニメ”なのに…』と議論をしていたりもする。そういう意味で、知る人ぞ知る、俺たちだけの…という意識も向こうの人たちにもあるのかなと想像します」(Pashimoさん)



■過去の遺産に頼る日本アニメへの危惧「このまま胡坐をかいていたら終わっていく」



 先述した『UFOロボ グレンダイザー』は、イタリアだけではなく中東・イラクでも人気の作品。ほかにも『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』…海外で人気の日本アニメは数えればキリがない。世界各地に、同じ作品で育ってきた子どもたちがいるのだ。「それらのアニメを通して得た、“言語を超越した共通体験”は、政治や民族を超えたひとつのエネルギーになるのでは」と日本アニメの今後に思いを馳せるもぐもぐさんとPashimoさん。



「取材を通して見え方は広がりましたが、同時に日本のコンテンツへの危惧を感じました。幼い頃にコンテンツに触れる経験ってとても大切な原点じゃないですか。クラスみんながポケモンみてたよね、とか、ドラゴンボールはテレビで知ってる、とか。でも、世界的に見ると、日本アニメの放送数が減ってきている現状がある。みんなが知っている“○○”みたいなコンテンツって、今後出てくるのかなと。加えて、取材を通して中国発祥のソーシャルゲームやアニメの盛り上がりも強く感じました。日本ではそこまで知られていないですが、世界的では中華系の人口は多いですし、グローバル展開にも積極的で“覇権感”もある。日本のコンテンツにもこれだけ可能性があって、みんなが愛してくれているのに、このまま愛に甘えて胡坐をかいていたら衰退していってしまうんじゃないかとも。私は一人のファンでしかないのでただ、頑張ってほしいとしか言えないですが…日本アニメ界への憂いも今回実感しました」(もぐもぐさん)



「確かに世界で愛好されるアニメや漫画にも、日本以外の国のものが増え、状況が変わってきたように感じます。一時のトレンド狙いでない作品作りやそれをいかに届けるかは戦略的に考えてゆく必要があると思います。ただこれまで各地で出会ったファンの方々を思うと、同じ作品を好きだと思う気持ちは、距離や国籍や宗教を超越して確かに世界中の人々を繋いでいる。少なくとも、アニメで表現された世界観が、必死に生きるキャラクターの姿が、描き出される“苦悩”や“優しさ”が、誰かの心を救い、世界を少しだけでも生きやすい場所にしている。アニメは出会うはずのなかった誰かと誰かをつなぐことができる存在です。たとえ対立している国であっても、その壁を越えて“一つのコンテンツ”で盛り上がれる未来を作れれば…。そんな夢を持って、私はブログ(『OTAKU CROSSING』)の運営や海外でのワークショップ活動など、今後も地道に活動を続けていきます」(Pashimoさん)
カテゴリ