2020年上半期 変わるスターの生まれ方 【対談】鈴木おさむ氏(放送作家)×矢嶋健二氏(ツインプラネット社長)

2020年上半期 変わるスターの生まれ方 【対談】鈴木おさむ氏(放送作家)×矢嶋健二氏(ツインプラネット社長)

 2020年上半期、新型コロナウイルスの感染拡大でエンターテインメント業界にも大きな逆風が吹き荒れている。ステイホームが呼びかけられ、人と人の距離をとるソーシャルディスタンシングが求められ、そうした新しい生活様式の中で、芸能人のYou Tuber化が進み、SNSからヒットが生まれている。そして、コロナとは直接関係ないが、大手芸能プロダクションの“看板級”タレントの退所・独立も相次いだ。デジタルやソーシャルを利用して、個人の力でも勝負ができるようになった今、スターの生まれ方にも変化がみられる。今後のエンタメ界はどうなっていくのか。放送作家の鈴木おさむ氏、コンテンツプロデューサーの矢嶋健二氏(ツインプラネット社長)に話を聞いた。



【動画】YOASOBI新曲「たぶん」ティザー映像



■圧倒的スターが生まれにくい時代は加速する



――2020年上半期、小説を楽曲化するという斬新な制作スタイルのアーティスト・YOASOBIやTikTokで火がついたシンガーソングライター・瑛太など、ソーシャルメディアの各プラットフォームで自分の価値を高めながら、マス市場でのヒットにつなげていきました。



【鈴木】スターが細分化しているというか、昭和でいったら石原裕次郎さんのような、平成でいったら浜崎あゆみさん、木村拓哉さんのような国民のほとんどが知っている圧倒的スターが、スポーツ以外で生まれにくい時代になってきているな、と思っています。銀幕のスターから、テレビに出ることがスターになるためのモチベーションだった時代が長く続いてきたけれど、いよいよ変わってきましたよね。



【矢嶋】テレビが圧倒的だった時代があって、今もテレビにはテレビの価値があって、信頼もあるし、影響力も大きいけれど、それがすべてではなくなった。特に若者は、You Tube、SHOWROOM、TikTok、インスタグラム…といったSNSを活動の場として重視するようになった。自粛期間中に芸能人のYou Tube動画が急増し、テレビに出なくても有名になれる流れは一段と加速していると思う。ただ、各プラットフォームでは多くのフォロワーがいて有名でも、SNSの垣根を越えて横断的に有名なスターは生まれにくくなってきていますね。それが細分化している要因。



【鈴木】テレビに出て1000万、2000万の人に知られていることが「売れる」ってことなのか。テレビにたくさん出て1億円稼ぐことなのか。楽曲が「売れる」のか。「売れる」とは何か? 売れる定義も増えている気がしますね。SNSで1万人のフォロワーから熱狂的に支持されている女子高生だって稼げる時代。ゴールも一つじゃない。今年になってネットなどをきっかけにブレイクしたYOASOBIのAyaseくん(コンポーザー)が話していたのは、「いいもの作るだけじゃ絶対だめ」だって。彼らが目指している成功のために、すごく努力しているし、勉強して、分析している。自己プロデュース力が高いのもSNS世代の特徴です。



――2020年上半期は、タレントの独立ラッシュでもありました。タレントの鈴木奈々さんやアイドルグループSKE48の須田亜香里さんらが所属する芸能事務所の社長でもある矢嶋さんはどう思いますか?



【矢嶋】シンプルに言うとテレビに出なくても稼げる、有名になれるようになってくると、いままでの前提が変わってくる。事務所に所属するメリットを感じられなくなってきますよね。今後ますます独立も増えてくると思います。一方で、自分のやりたいことがはっきりしなかったり、ただカッコイイ、カワイイだけで、個性や持ち味、勝負できる強みがないタレントは、今後、埋没すると思います。それより「メンタリストのDaiGo」さんみたいな、付帯するものがある人、一種の専門家ですよね、そういう人たちのほうが求められ、活躍の機会が増えてくるんだろうと思っています。



【鈴木】昔は、芸能人になりたい、有名になりたいと思ったら芸能プロダクションのお世話になるのが一番の近道だったし、原石を見つけて「0」を「1」にする作業を芸能プロダクションが担っていた。今はSNSで誰もが自分で「0」を「1」にできる時代。芸能プロダクションの役割も変わって当然ですよね。



【矢嶋】まさにそうですよね。芸能プロダクションも大きく変化しなければいけないタイミングですよね。弊社では「ビジネスパーソナルシップ」という新しいサービスを始めたんです。芸能人、歌手、スポーツ選手、文化人など、さまざまな個人にフォーカスして、その人個人にとって必要な部分だけを提供するサービスです。マスメディアへの営業活動のサポート。SNS上の誹謗(ひぼう)中傷、権利侵害などのリスク管理。プロジェクトファイナンスなど資金調達の手助け。経理や納税、現場へのマネジャー派遣など。これまで芸能プロダクションとして培ってきたノウハウを生かして、個人で芸能活動する際に直面するさまざまなニーズに応えていくサービスです。芸能プロダクションが一から十までタレントを管理して、やるのではなく、役割分担ですよね。個人がより輝くためのお手伝いをすることで、僕らもビジネスができて、エンタメ業界の活性化にも貢献できたら、と思っています。



【鈴木】エージェントにちかいものが日本でもより活発化していくんでしょうね。



■『M 愛すべき人がいて』から学ぶべきこと



――2020年上半期のヒットといえば、鈴木さんが脚本を手がけたドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日×ABEMA共同制作)もありましたね。



【鈴木】コロナ禍で在宅率が上がっていたから、より多くの人に観てもらうことができた。平時に放送してたら話題になったか分からないです。1話目を放送した後、なんと1000本ちかくネット記事が出たんです。放送を見て、SNSやABEMAのコメントで話題になって、さらにマスメディアが記事にして、増幅していった。みんなに育ててもらった感が強いですね。



 それと、『M』はテレ朝とABEMAの共同制作だったんですが、そのおかげで規模も大きくなりました。放送終了後、TVerなどほかのプラットフォームには出さず、ABEMA独占にしてたのですがかなり見られたようです。ネットと連動してドラマを作ること自体は珍しくないですが、かなりの成功例になったんじゃないかな。コロナで景気の先行きも不透明な中、制作費を絞らざるを得ない状況になったら、ますますいろんなところと組んで、お互い成功するプロジェクトを考えないといけない時代になっていくと思います。何年か経って、2020年に放送された『M』がきっかけだったよね、ってなったらありがたいですが。



――放送休止中の副音声企画など、ドラマ本編以外での話題づくりもすごかったです。



【鈴木】これもやっぱりコロナ禍で、本編は7話しかないのに、結果10話分、放送しているんですね。3話まで放送したあと、1話に副音声をつけたリミックスVer.、それから2話と3話の総集編、極め付きは3話の副音声企画をワイプで表示するという、バラエティー的に放送しちゃった。テレビの使命は今はやはりリアルタイムで視聴してもらうこと。放送休止中も視聴率が落ちないように、ただ再放送するんじゃなくて、リアルタイムでネットで実況したくなるようにしたかった。かなり実験的でしたね。



 最終回の予告では「まさかの泣ける」と打って出たんですけど、ネットの反響を受けてそれを出してくるノリの良さ、フットワークの良さもありましたよね。制作側の一方的な押し付けじゃなくて、今週の放送のリアクションを受けて、翌週の編集を変えるくらいの即時性がテレビドラマでもできたらいいと思いますね。それをやれたのが『M』だった。1話を放送して、翌週月曜に伊集院光さんがラジオで話題にしてくれて、3話でストップするのはその時点で決まっていたので、すぐに副音声企画をオファーしていました。スタッフのそのスピードはものすごく早かった。



 「博多通りもん」の明月堂さんも1話が放送され、ネットで話題になった直後に局宛にお手紙をいただいたんですよ。「ありがとうございます」って。「通りもん」に似せたつもりはまったくないのですが、4話と7話でCMまで出してくれて。また、最終話では、僕も当日まで知らなかったんですけど、エイベックスが浜崎あゆみさんの新曲CMまで入れてきた。テレビで仕掛けている感じがあってよかった。昔のテレビにはそういう遊びがあったんですけど、今回それができたことを、コロナの間だったからたまたまできた、と言わずに、そこで学べたことを生かさないと、と思いますね。



――テレビでもお仕事されている鈴木さん的には危機感を覚えますか?



【鈴木】コロナでネット環境がさらに充実して、You Tubeをテレビで見るご家庭も増えたと思うんです。僕も手越祐也くんの会見を、テレビの画面で見たんですけど、あんなに面白いものはない。それが、テレビ画面で見れちゃう。あれをスマホで見るしかなかった時の文化と、テレビ画面で見られるようになったことの違いもけっこう大きい。



 よく、「テレビがダメになった」というけれど、それはテレビなんですか? 地上波なんですか?って聞き返したい。テレビはモニタとしてめちゃくちゃ発達していく。地上波も見られて、You Tubeも見られて、Netflixも見られる。いよいよ本格的に地上波が選択肢の一つになったな、ということなんですけどね。だからより地上波も頑張る。



【矢嶋】究極を言えば、コンテンツが面白ければ、地上波の番組だろうと、You Tubeの動画であろうと、関係ない。



【鈴木】僕もそう思いますね。お金をかけるかけないではなく、面白いものは面白い。



【矢嶋】ここでも役割分担が大事だと思うんです。地上波には地上波にしかできないことがある。地上波、ネット、SNS それぞれの役割の本質を理解した上で連携することが今や絶対であり、そうしなければ面白いコンテンツは生まれてこないと思います。それぞれのメディアがお互いを尊重し合いながら連携しないとアフターコロナの時代は生き延びられないかもしれません。



 当然にそこに出る演者もそこの感性が求められるようになるでしょう。それぞれのメディアの役割を理解した上で、表現や見せ方をそれぞれ工夫する必要がある。それが出来た人がスターになっていくのではないでしょうか。ひょっとしたら今後のプロダクションの役割はそこにチームで取り組むというのがポイントなのかも知れませんね。



◆鈴木おさむ

放送作家。1972年生まれ。多数の人気番組の企画・構成・演出を手がけるほか、エッセイ・小説や漫画原作、映画・ドラマの脚本の執筆、映画監督、ドラマ演出、ラジオパーソナリティ、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。



◆矢嶋健二

株式会社TWIN PLANET代表取締役社長。1980年生まれ。24歳でレコード会社の代表取締役となり、川嶋あいなどヒットアーティストを手掛ける。26歳で株式会社TWIN PLANETを設立。ギャルに特化した独自のマーケティング手法でギャルマーケット開拓し、「つけまつげ」「カラコン」など多くのヒットプロダクトを生み出し、また、農業にギャルを掛け合わせた「ノギャル」は2009年の流行語大賞にノミネートされる。また、プロダクションとしての側面を持ち、鈴木奈々、須田亜香里、南明奈、よしあき・ミチ姉弟などマネージメントや、「刀剣乱舞2.5Dカフェ」や、「pixiv WAEN GALLERY」の企画運営なども行う。
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