愛ゆえの贋作探求… 1枚25万円『ビックリマン』“パチシール”に見るニセモノの価値基準

愛ゆえの贋作探求… 1枚25万円『ビックリマン』“パチシール”に見るニセモノの価値基準

 時代を揺るがす空前のヒット商品に“ニセモノ”はつきもの。現代では、著作権をはじめとするさまざまな法整備が進み、「許されないもの」という認識が常識となり、市場に出回らなくなってきているが、そのあたりがまだ“緩かった”1980年代にはさまざまな“ニセモノ”が市場をはびこった。今年『悪魔vs天使シリーズ』が35周年を迎えたロッテ『ビックリマンチョコ』も例にもれず、本物と見間違うほど精巧なものから、クオリティの低い類似品までさまざまな種類の“パチシール”が存在。それらが30年以上の時を経て、価格が高騰しているという。なぜこのような現象が起きているのか? これらを取り扱う「まんだらけ」の“カードマスター”田嶋宏一郎氏に話を聞いた。



【写真】1枚25万円…現存わずか“パチシール”界の至宝「スパーゼウス」



■発見されたものを頼りに推測していく「考古学」的な“パチシール”の世界



 1977年に誕生した『ビックリマンチョコ』。おまけシールの封入で人気を博していたが、1985年に“革命”が起こる。『悪魔vs天使シリーズ』のスタートだ。『ビックリマンチョコ』シリーズ10代目となるこのシールたちは『月刊コロコロコミック』で漫画化、アニメ化もされるほど大ヒット。「スーパーゼウス」を始め、「ヘッドロココ」「ネロ魔身」など大人気キャラを続々と輩出していった。だがこのヒットの裏で、俗に言う“パチシール”というニセモノたちが世にはびこり始める。



「“パチシール”がいつどこから誕生したのか、さまざまに論じられていますが、決定打となる証拠は存在していません。ですが皆さんのご記憶からの推測で『ビックリマン』シリーズで言えば6~7代目から。人気キャラ『ヘラクライスト』が登場したあたりから流布されたのではないかと言われています」(田嶋氏/以下同)



 決定的な証拠がないのは“パチシール”にはメーカー名も問い合わせ先も記されてないから。入手方法としては玩具店などの店頭にあるカプセルおもちゃの「ガチャガチャ」を回すか、駄菓子屋の束になっているクジを引くかだった。

 “パチシール”のなかでも、一般的に知られているのが「ロッチ」ものだろう。本物と見紛う出来だが、裏面の「ロッテ」の部分が「ロッチ」となっているのが特徴で、それ以外はすべてが瓜二つ。数多く流布され、社会問題になったこともあり、ロッテ側は1988年に著作権法違反容疑で告訴し、これが認められる騒動にもなった。



 しかし「ロッチ」はビックリマンの“パチシール”の一部に過ぎない。「これら“パチシール”は独自の発展を遂げており、『コピー系』と『創作系』に分類・系統立てられます」と田嶋氏は語る。



■『ビックリマン』への深い愛がもたらす“贋作”への興味と探求



 「コピー系」は“パチシール”が出始めたであろう頃に多く流通したもの。本物の「ビックリマン」のキャラクターをそのままコピーし、裏面の説明書きの部分に、例えばロゴの「ビックリマン」の「マン」の部分を取って「ビックリ」とだけ記載。また、先に挙げたメーカー名「ロッテ」の部分が「ロッチ」になっていたり、空白になっているシリーズも存在している。ロゴやタイトル以外にも違いはあり、本物はシルク印刷という手法を使っていたが、“パチシール”はこれを使用せず簡単な印刷になっている。また背景のキラキラも、透けて見えるようなベタっとした印象に。紙自体の素材も悪く、コレクターの間では、「ビックリマンシールを印刷していた工場がコストカットされた部分を取り戻そうとやったのではないか」とまことしやかに憶測もされている。いずれにしても、キャラクターを無断で使用し、商品化されることは許されることではない。



「コピー系は多すぎて、どれだけ種類があるのかわからない。黎明期から長く続いており、さらには細かく出されているため、どれがどの系統と全貌を知るには困難を極めますね」



 次に「創作系」だ。パッケージは似ているが、キャラは見たことがない…もしくはやや似せているものであり、「スーパーゼウス」が元ネタではないかと思われる「スーパーサン」が発見されてから分類が始まった。



「『スーパーサン』自体は定番人気でしたが、どのシリーズに入っていたか、その全貌は分かっていませんでした。ですが創作系の『これまたビックリクン』というシリーズのクジの束が発掘され、ここに『スーパーサン』が入っていたことで、『こういうシリーズだったのか』と考証が再スタートしたのです」



 創作系は独自性が強いため、オリジナルキャラばかりがラインナップされていたであろうと見られていた。だが実際はもっと混沌としており、本物のキャラを手書きで模しただけのキャラクターも見つかり始める。これら模したシールは「下手絵」と呼ばれており、これも一つのジャンルとして成立した。



 現在確認されているものまんだらけの方で把握できる“パチシール”は、実に3,000種類ほど。だが、正規品と違い、どんなシールがどの程度流通したのか、まったくデータがないため、「このシリーズはこうなっているのではないか」「このシールはこのシリーズに入っているのではないか」という論考が、新たなシールの発見によって覆されており、その様子はさながら「考古学」。

 収集家の方々のなかには、素材の違いや、色味が少し黄色い、少し青っぽいなどのちょっとした違いに面白みを見出し、見極めて追いかけている人もいるが、それが元からの仕様なのか、経年劣化なのか、議論もされるようになっており、驚くほど深く豊かなコレクションアイテムになっている。



■許されるものではなく、今後生まれることもない80年代の“パチシール”文化



 ではいつ頃からこの“パチシール”の人気が出てきたのか。始まりは2000年頃。携帯電話の普及と、インターネットのオークションの利用者が増えたことで、さまざまなものが気軽に売買できるようになったことを背景に、「ビックリマン」などの80年代のシールを収集しようという機運が訪れ、“パチシール”も出品された。そして「それも懐かしい!」と本物同様に人気が加速。ネットの発達で取り扱っているお店を行脚せずとも多くの品が確認できるようになったことも後押しし、2010年頃にピークを迎え、現在は少し落ち着いた状況だ。



「やはり希少性の高いもの、新たに発見されるなどこれまでの論考をくつがえすようなものは販売価格が高くなります。例えば、先述の『スーパーサンシリーズ』の『スーパーサン』も人気ですが、別の『スパーゼウス』というシールがそのシリーズの先輩にあたる、という事がのちに判明します。この『スパーゼウス』は販売価格が約25万円。“パチシール”でトップクラスに値段が高いものの一つです」



 こうした価格の高騰に便乗する人がいるのも事実。80年代当時に流通したものではないものが持ち込まれることもあるという。



「ただ“パチシール”もこれだけ人気が出ると“パチシールのパチシール”が出てくることもある。弊社ではこれを見極め、“本物のパチシール”のみを扱っています。変な言い方ですけど(笑)」



 “ニセモノ”なのに価値が上がったり、“ニセモノのニセモノ”が出てきたり、と美術品などとは異なる特殊な存在になっている“パチシール”。その背景には、「『ビックリマン』が流行した当時の状況がこうした特殊な現状を生んでいると言えるのではないか」と、田嶋氏は考察する。



「そもそも、著作権は守られるべきだし、ニセモノは許されるものではありません。それを前提にお話しさせていただくと、『ビックリマン』全盛となった6、7弾の『ヘラクライスト』が出てくるあたりではすでに、『スーパーゼウス』は既に過去の話(絶版)になっていました。だからブームが最高潮のときに、人気キャラが手に入らない。そんなファンのもやもやした気持ちが渦巻く時期に登場したのが“パチシール”。飛びついてみたものの、それらが『ニセモノ』だという事は当時すでに多くのファンは気が付いていたようです。その為、多くの『ニセモノ』否のファンには大切にされず捨てられてしまったようですが、『ニセモノ』だとわかっていても“パチシール”に魅せられたファンも少なく無いようです。騙されていたのではなく本物とは別の価値観を“パチシール”で満たしていたのではないか?もちろん“パチシール”を制作していた会社を擁護するわけではないですが、そう考えると、“パチシール”の存在は大きかったのではないかとも思えます」



 「“パチシール”は単なるニセモノではなかった」と田嶋氏は続ける。



「いわゆる“贋作”はいやになると思うんです。本物だと思っているから、『だまされた』『つかまされた』となると思うんです。でも、そういったものとは違うと思うんです。それは、パチシールも文化の一つとして受け入れられていたということだと思います。

 本来、ニセモノって淘汰されていくものだと思うんです。でも、“パチシール”は『考古学』と位置付けられて、全貌を明かそうというマニアがいるくらい愛を向けられている。創作系、特に下手絵系は『味がある』とおっしゃる方は多いですし、ゆるキャラではないですがそこに価値を見いだしている。そんなことって、他になかなかないと思うんですよね。

 そして収集される方々は、リアルタイムで触れた“思い出”を集めていらっしゃるんだと思います」



 今ほど著作権などが厳しくない時代に、どこか牧歌的なカルチャーとして生まれた“パチシール”。最後に、今後こうしたカルチャーが生まれる可能性について聞いた。



「法規制も厳しくなり、『贋作』『ニセモノ』は、今この世の中に出にくくなっているので、こういう独自の発展を遂げた面白い文化は今後出てこないと思います。あの時代だったからこそ、生まれた文化だと思います」



(衣輪晋一/メディア研究家)
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