“柱”への憧れは低い自己肯定やコンプレックスの裏返し?『鬼滅の刃』“推しキャラ”に見る心理分析

“柱”への憧れは低い自己肯定やコンプレックスの裏返し?『鬼滅の刃』“推しキャラ”に見る心理分析

 個性豊かなキャラクター描写も人気の『鬼滅の刃』。それだけに、ファンの中には好きなキャラ=“推し”を表明し、グッズなどを集める人も多い。アニメを用いたカウンセリングも行う、心理カウンセラーの浮世満理子氏は、「どんな人物が好きかを分析していくことで自己理解が進む」と語る。それぞれの“推し”の裏側には、どんな深層心理が潜んでいるのか? 後編では、劇場版の中心人物でもある煉獄杏寿郎ほか、柱(鬼殺隊の頂点に立つ9人の剣士)や鬼について聞いた。



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※一部、ネタバレになる内容を含んでいます。



■劇場版で人気の煉獄杏寿郎、自己肯定感が強いリーダー志向



――登場人物の性格や背景も様々で、主要キャラクター以外も人気がある『鬼滅の刃』。どのキャラが好きかによって、選んだ人の個性や心理状態が見えてくるそうですね。



 「どんな性格の、どんな立ち位置の人物が好きか、それを分析していくことで自己理解が進みます。なぜなら、“推しキャラ”というのは、その人の憧れの対象であることが多いから。これをモデリングというのですが、“推し”の背景には『自分もこういう人になりたい』『こんな立場の人になりたい』という願望があります。自分が迷ったときや負けそうなときに、推しキャラのセリフや行動を意識して、力に変えることもできます。そうすることでストレス耐性もできるし、メンタルトレーニングにもなりますね」



――では、各キャラクターを推す人の傾向について伺います。まずは、柱(鬼殺隊の頂点に立つ9人の剣士)の面々から。劇場版で人気が爆発した煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)を推す人のタイプから教えてください。



 「煉獄さんは“陽”の人ですよね。柱の中でも中心的で、バランスのとれた人。明るくて面倒見がいいところも魅力です。本来、強い人は“怒り”を原動力に戦う場合が多く、炭治郎でさえそうです。ただ、煉獄さんは自分の中の信念で戦っている。そのベースは、幼少期に母親から言われた『あなたの強さは人を守るためにある』という言葉。その言葉に支えられているから、煉獄さんはとても自己肯定感が強いんですよね。煉獄さんに憧れる人は、感情に流されない信念を持つ、頼り甲斐のあるリーダーになりたい人なんだと思います」



――『週刊少年ジャンプ』の人気投票で、柱では最上位の2位となった冨岡義勇(とみおかぎゆう)はいかがでしょうか?



 「冨岡さんはイケメンですから(笑)、女子人気は高いですよね。さらに冨岡さんの場合、“陰がある”ところに惹かれるんでしょう。しかも、陰があってクールに見えるのに、実は情が深い。それは彼が着ている半々羽織(半分ずつ異なる生地を使った羽織)に象徴されているのですが、半分は自身のお姉さんの着物で、半分はともに修行した錆兎(さびと)の着物で出来ているんです。ああいうものを形見として常に身に着けているところに、彼の深い思いが感じられます。それでいて、炭治郎では歯が立たなかった鬼を一撃で倒すほど強い。天然なところもかわいいし、これはもう、パーフェクトですよね」



――寡黙で自分の考えを口にしない、というところもあります。



 「そうですね。彼は決してコミュニケーション能力が高いわけではないのに、自分を持っていて、誰にも媚びることがない。今の子どもたちや若い人は、全力でコミュニケーションを取りに行った結果、友人関係に疲れてしまうことが多いんです。そんな人たちから見れば、冨岡さんのような人は羨ましいでしょうし、憧れの対象にもなっているようですね」



――霞柱・時透無一郎(ときとうむいちろう)も人気投票で4位に位置しており、非常に人気が高いです。



 「無一郎くんの魅力は、やはりミステリアスな天才というところ。彼は鬼殺隊の中でも若いのに、1年で柱になりました。双子の兄を殺されたことで記憶喪失になり、人にまったく興味がなくて冷たい人になってしまいましたが、やがて温かい人の心を取り戻します。この、感情を取り戻す過程というのが重要。若い人や子どもには、自分の感情がわからない、感情を表現するのが難しいという人も少なくありません。そんな人たちにとって、『自分も優しい気持ちを取り戻せる』『本来の自分になれる』というのは、ホッとするポイントなんです。ちょっとセラピー的な要素があるのかもしれません」



――蟲柱・胡蝶しのぶ(こちょうしのぶ)はおっとりして見えて、芯に熱いものを持ってる女性ですね。



 「一見おとなしく見えるものの、尋常ではない精神力の持ち主。そして、ものすごく大きな怒りを持っているのに、いつも無理して笑っている人です。それを炭治郎に見透かされて、『だけど少し疲れまして』と本音をこぼす場面もあります。そういうところは、いつも一生懸命がんばってニコニコしてるけれど、実は会社に不満を持っている…というような女性は共感しやすいのではないでしょうか。力が弱くて鬼の首を切れない代わりに薬を使うなど、工夫して戦うところにもカッコ良さを感じる人もいるでしょう」



――他の柱の面々はいかがでしょう?



 「伊黒小芭内(いぐろおばない)さんは、最後に愛を貫いたところが最大の魅力。生まれた瞬間から自分の存在を肯定できないという悲しい生い立ちですが、今の時代、虐待やいじめなど、様々な事情で自分の存在を肯定できない人が多いんです。そういう人たちにとって、伊黒さんが蜜璃ちゃんという真実の愛に出逢えたことは、ある種の希望に繋がるんだと思います。



 不死川実弥(しなずがわさねみ)さんは、弟を死なせたくないからこそ、『おまえに才能はない』と言い続ける。最初に登場したときからとても乱暴に見えますが、それも優しさの裏返しなんです。本当は優しい思い、温かい思いを持っているけれど、不器用なために表現できない。それをもどかしく感じているような人は、とても共感できるキャラでしょうね。



 甘露寺蜜璃(かんろじみつり)ちゃんは、自分の感情に対してとても素直。大食漢で力が強すぎて、男性に受け入れてもらえない彼女は、鬼殺隊という自分の能力を認めてもらえる場所を探し当てました。自分の居場所を獲得できるということは、現実社会においてもとても重要なことですよね。学校や職場で本来の自分を出せずに悩む人、居場所があるように見えても実は満足していない人…そんな人は多いと思います。コンプレックスを生かして幸せをつかむというのは、すべての人にとって希望の光と映るでしょう。



 宇随天元(うずいてんげん)さんは、最後の忍びの一族で、自由人のように見えて家柄に縛られたストイックな人。彼の魅力は、自分が守るべき命の順番をしっかりと決めているところ、3人の妻への究極の愛です。抑圧されて育ちながらも自己主張ができる、その生き方に胸を打たれる人は多いでしょう。



 悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)さんは、一番守りたかった子どもたちに誤解されたというトラウマがある。それでいて怒ったりせず、強さをひけらかすこともなく、誰よりも包容力があります。派手さはないけれど、悲鳴嶼さんの質実剛健な部分に憧れる人もいるでしょう」



――黒死牟(こくしぼう)、猗窩座(あかざ)、童磨(どうま)など、鬼ながら人気の高いキャラクターも存在します。鬼を好きだという人は、どんな理由で惹かれるんでしょうか。



 「私たちにも、悪いところが1ミリもない人なんていませんから(笑)、その心理からも鬼の強さと、堂々とした悪さに惹かれるのだと思います。なんの躊躇もなく悪いことをする鬼を見ていると、ついスカッとしてしまうのです。また、鬼たちに共通しているのが、強さ、そして生きることへの執着です。鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)などは典型的ですが、何か成し遂げたいことがあるわけではなく、ただ生きることに執着している。そのシンプルな生き様は、しがらみの多い日々を生きる人にとっては憧れに映るのかもしれません」



――自分を投影できるキャラクターの多い『鬼滅の刃』ですが、この作品が今の日本でここまで反響を得たのはなぜだと思いますか?



 「よく言われるのは、アメリカ映画を代表とする西洋的思想では、正義と悪が明確にわかれていて、混じることはありません。ですが日本は、数多くの神様が存在し、仏様をはじめ様々な宗教を包括している。アジアを中心とする東洋思想は、正と悪が拮抗したり、時には裏返ったりすることがあるんです。



 『鬼滅の刃』に出てくるキャラクターは、みんな元は同じ人間で、柱になったかもしれないし、鬼になったかもしれないという微妙なところが東洋的なんです。特に日本では、悪人だとしても亡くなった後は仏様として供養します。たとえ悪人=鬼でも、その裏側にはそうならざるを得なかった不幸があった…という描き方が、日本人の心に響くんだと思います。炭治郎の『醜い化け物なんかじゃない。鬼はむなしい生き物だ、悲しい生き物だ』というセリフに象徴される、それこそがこの作品の根底にある魅力でしょう。今は、ネットやSNSなどでもちょっと失言するだけで炎上する時代。相手の心の痛みをおもんばかる、そんな優しさや強さを、この作品から得てほしいですね」



(文:川上きくえ)



【プロフィール】

浮世満理子(うきよ・まりこ) 全心連公認上級プロフェッショナルカウンセラー/メンタルトレーナー。大阪府出身。『アイディアヒューマンサポートアカデミー』学院長。『全国心理業連合会』代表理事。『全国SNSカウンセリング協議会』常務理事。トップアスリート、芸能人、企業経営者などのメンタルトレーニングを手掛ける。『子どもの可能性を120%引き出す! メンタル強化メソッド 50』、『チームを120%強くする! メンタル強化メソッド 50』(実業之日本社)、『LINE上手 ビジネス・私生活で相手の心理をつかむ!』(徳間書店)など、著書多数。『週刊まるわかりニュース』(NHK総合)、『関ジャニ∞のジャニ勉』レギュラー出演(関西テレビ)、『newsZERO』(日本テレビ系)などメディア出演多数。■アイディアヒューマンサポートアカデミーエンターテイメント心理研究会https://www.idear.co.jp/2020entertainment/
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