宮崎吾朗監督、“NEWジブリ”を印象づける『アーヤと魔女』

宮崎吾朗監督、“NEWジブリ”を印象づける『アーヤと魔女』

 スタジオジブリの長編アニメーション『アーヤと魔女』が、30日(後7:30)にNHK総合で放送される。本作は、宮崎駿氏が企画を手掛け、宮崎吾朗氏が監督を務めた。ジブリにとって久しぶりの新作にして、初の全編3DCG作品という、“NEWジブリ”を印象づける作品になりそうだ。宮崎吾朗監督も「新しい挑戦がジブリにとって必要だと思った」と、その胸の内を語った。



【画像】『アーヤと魔女』場面カット



 スタジオジブリは2013年に宮崎駿氏が引退宣言をし、『思い出のマーニー』(14年、米林宏昌監督)公開後、制作部門の休止を発表。その頃、宮崎吾朗氏はジブリを出て、テレビアニメ『山賊の娘ローニャ』(NHK)に取り組んでいた。テレビで旧作が繰り返し放送されるたびに、新作への飢餓感を募らせていたファンもいたことだろう。そんな中、17年2月に宮崎駿氏が長編映画の制作に復帰したことが明らかになり、新作『君たちはどう生きるか』をひたすら待っていたところに、『アーヤと魔女』である。



 「2016年の11月頃、鈴木敏夫プロデューサーから『次はこれでどう?』と原作本を渡されたのがはじまり。実はその少し前に宮崎駿のアトリエから鈴木がその本を持って出てくるのを見かけたんですよ。何かありそうだな、と思ったので、先に手に入れて読んでいました」



 原作は、『ハウルの動く城』(2004年、宮崎駿監督)と同じイギリスの作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「Earwig and the Witch」。徳間書店から刊行された原作本(翻訳:田中薫子、挿絵:佐竹美保)には宮崎駿氏が推薦文を寄せ、自分で映画化を考えていたという。



 これまで宮崎吾朗氏が監督したジブリ作品には、巨匠であり、父でもある宮崎駿氏が関わってきた。映画『ゲド戦記』では原案、『コクリコ坂から』は脚本、『アーヤと魔女』も企画で駿氏がクレジットされている。



 「今回は、ほったらかしだったんですよ(笑)。プロデューサーもこっちには口も手も出さない、という感じだったので、好きにやってしまおう、と(笑)。ジブリでは、『アーヤ』はCGで何かやっているらしい、くらいの扱いだったので、かなり自由にやれました。NHKの密着取材も入らなかったので(笑)」



 本作は、1990年代のイギリスを舞台に、自分が魔女の娘とは知らずに育った少女アーヤが、ある日、奇妙な家に引き取られ、そこで意地悪な魔女と暮らすことになったことから始まる物語を描く。



 「原作の主人公の名前《Earwig》はハサミムシのことですが、《眠っている人間の耳に潜り込んで頭の中に食い入る》という言い伝えがあり、転じて人に何かを吹き込むとか、入れ知恵をするといった意味もあるんです。さらに原作では主人公は “自分が考えたように相手を動かす”という書き方をしています。つまり、人を“操る”ってことになるから、日本語訳では《アーヤ》。言葉としてはやや印象が悪いな、と思ったのですが、僕としては、アーヤが持っているその力は、生きていく上で必要なしたたかさのようなものかな、と考えました」



 「したたか」とは、やや否定的なニュアンスで用いられることが多いが、「強く屈しないこと」であり、「逆境に負けずにしたたかに生きる」といったほめ言葉にもなる。主人公の少女アーヤに「現代の子どもたちにも必要な能力」を見出し、アニメ化の動機づけになったと語る。



■現代の子どもたちへのエール



 「現代の子どもたちは数が少なくて、大人になってからも大変だろうな、と思うんです。社会に出たら周りは年上の人たちばかりです。頭上にどっしりと“重し”のある世界で、生きていかなければいけない。まともにぶつかってもかなわないし、おじけづいて殻に閉じこもっていても良いことはなくて、うまいことやっていかないとダメだろうな、と考えていました。この原作を読んだ時に、あっ、ここにうまいことやっている子がいる! と思ったんですね。現代の子どもたちが置かれている状況は、アーヤと共通しています。



 女の子一人で、魔女のおばさんと怪しげなおじさんの相手をする。大人と子どもが2対1という不利な状況をどうひっくり返していくのかは、アーヤ自身にかかっている。アーヤは大人を何とかするために、かわい子ぶってみることもあるし、仕掛けてみることもあります。自分の身を守るために、用意周到に考え、行動を起こします。



 自分で知恵をしぼって、自ら行動して、少しでも生きづらい状態から抜け出していこうとする力は、いつの時代にも必要なもの。現代の子どもたちにも必要な能力で、それをもっている子がアーヤなんだ。そんなことを思いながら作っていました」



 頭上にどっしりと“重し”のある世界を知っている宮崎吾朗監督らしい、突破口の見つけ方。そして今回、宮崎吾朗監督は、スタジオジブリとして初めてフル3DCGで制作することを選択した。



 「『山賊の娘ローニャ』で3DCGと従来の手描きアニメのハイブリッドみたいなことをやってみて、3DCGの可能性をすごく感じていたんです。でも日本ではアニメや映画などの映像作品では主流になりきれていないところがあって、悔しいなと感じていたのと、スタジオジブリも新しいことをやる必要があると思ったんです。



 やっぱり、スタジオジブリは宮崎駿に映画を作らせるために、鈴木敏夫が作ったスタジオです。基本的には二人のものなんですよ。とはいえ、宮崎駿はもうすぐ80歳になりますし、鈴木敏夫も72歳。いつまでも二人が現役でいられるわけではない。彼らがやってきたことを真似しているだけでは、よくてうまくできたコピーを作ることにしかならない。独自のもので挑戦していく感覚を持たないといけないんじゃないか。それなら、僕はCGをやるべきだと思いました」



 『山賊の娘ローニャ』を制作していた頃よりもさらに3D技術は向上しており、宮崎吾朗監督の演出もこれまでの経験が生かされたのだろう。『アーヤと魔女』では、ディズニーやピクサーの作品にも見劣りしない、クオリティーの高いアニメーション表現を実現させている。アーヤをはじめとするキャラクターたちの動きも生き生きとしているし、そこはかとなく漂うジブリっぽさもあって、新鮮だ。



 「部屋の中がほこりっぽかったり、湿っぽかったり。空や雲を描く時もちゃんと空気をはさんで見えている感じを出すといった、ジブリがずっとやってきたことが、CGに置きかわってもできるものだな、と思いました。CG技術でいろんなことができますが、やっぱり、アニメーションは人が作っている。何か作ろうとするときの出発点として、あの作品のあの感じにしたいという見本がジブリ作品だったりすると、寄ってしまうこともあると思いますが、そういうことも含めて新たな表現を生み出していけたらいいのではないかと思います」



 逆にジブリっぽくないのが、音楽だ。『アーヤと魔女』では、宮崎吾朗監督自身が好きな70年代のブリティッシュロックのテイストを採り入れ、劇中にはバンドの演奏シーンもある。音楽を担当したのは、『コクリコ坂から』や『山賊の娘ローニャ』でもタッグを組んだ武部聡志氏。



 「アーヤの母親がロックバンドで活動していたという設定をはじめ、原作にはない要素を加えてふくらませています。時代設定は、携帯電話やスマートフォンがない時代でできるだけ新しい、90年代のはじめ頃にしようと考えました。すると1990年に10歳になった女の子が生まれたのは1980年で、そのお母さんの若かりし頃は1970年代。その時代といえば、僕が好きなイギリスのロックが華やかだった頃。音楽の武部さんとも、以前ラジオ番組で対談した時に、高校生の頃プログレを聴いていたという話で意気投合したことがあったので、ちょうどいいなと思いました」



 キービジュアルがロックバンドのライブ風だったのは、宮崎吾朗監督がのびのびと作品を作った賜物と言えそうだ。



■関連番組



▼『いつも“となり”にいるアニメ~最新作アーヤと魔女と歴代作品で見せるジブリ

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 最新作『アーヤと魔女』と『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』など歴代24作品の名シーンが次々登場。魅惑のジブリアニメの世界を紹介する。



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 映画監督・宮崎駿氏とその長男・吾朗氏。2011年公開『コクリコ坂から』は吾朗氏が監督、駿氏が脚本を担当。二人の合作ともいえる作品だ。しかし二人の間には知られざる葛藤があった。70歳にしてなお映画への情熱をたぎらせる父。偉大な父と比較される宿命を負いながらも、挑戦を続ける息子。衝突しながらも同じ目標に向かい情熱を燃やす父と子の物語。(2011年8月初回放送)



▼『アーヤと魔女』

総合 12月30日 後7:30~8:53
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