『愛の不時着』『梨泰院クラス』ドラマへの没入感高めるOSTでキャッチ 韓国音楽シーンの新潮流

『愛の不時着』『梨泰院クラス』ドラマへの没入感高めるOSTでキャッチ 韓国音楽シーンの新潮流

 新型コロナウイルス感染拡大によって、ステイホームを余儀なくされた2020年。可処分時間が増えるなかで、動画配サービスの需要は一気に拡大し、韓流ブームが再燃した。その中心となったのが、『愛の不時着』や『梨泰院クラス』といったドラマで、国内ではNetflix独占配信ながら大きな注目を集め、昨年12月に発表された『現代用語の基礎知識』選 「ユーキャン 新語・流行語大賞」では、「愛の不時着/第4次韓流ブーム」がトップテンに選ばれるほどの大きなうねりとなった。



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■ドラマの音楽監督がドラマの進行に合わせてオーダーメイドで制作



 ドラマ人気が後押しする形で、オリジナル・サウンドトラックにも関心が集まった。ドラマサントラとしては異例のヒットとなっている『愛の不時着』や『梨泰院クラス』の国内盤OSTを手がける渡菜保子氏(キングレコード・チーフディレクター)は、その魅力を次のように説明する。



 「韓国ドラマにおいて、ドラマOSTは物語を盛り上げるうえで欠かせない構成要素の1つです。ドラマが1話放映されるたびに、“今日のあのシーンで流れたあの曲“といった形で、劇中に流れた楽曲が配信されていきます。それが最終的にアルバムとしてまとまるのですが、シーンにマッチする楽曲をドラマの音楽監督がドラマの進行に合わせてオーダーメイドで制作していくので、統一感がありますし、何より視聴者の記憶に残るのです」



 日本ドラマでは、ドラマ全体のイメージを表現した主題歌や挿入歌が毎回流れるケースが多いが、韓国ドラマでは1つのドラマにつき、ボーカル曲が10曲以上収録されたOSTが制作されることも珍しくない。登場人物の心情を表現した楽曲は、ドラマの視聴者に印象的なシーンを思い起こさせ、また、そのシーンを目にすれば楽曲を想起するといった具合に反すうされてドラマへの没入感が高まる。そのため、OSTからの大ヒットも数多く生まれており、韓国ではOSTが1つのジャンルを形成している。



 渡氏が初めて韓国ドラマに触れたのは、03年~04年にかけて日本で放送されて一大ブームを巻き起こした『冬のソナタ』だった。母親が夢中になったのがきっかけで家族全員がハマり、以降、ドラマのクオリティの高さに魅了されていったという。韓国ドラマの国内盤OSTを手がけるようになったのは、16年の大ヒット作『太陽の末裔(まつえい)』から。医師と軍人の愛を描き、本国はもちろんのことアジアでも大ヒットした同ドラマのOSTは、名盤として人気が高い。以降、話題作は欠かさずチェックし、これはと思う作品に出合うと権利者を探して交渉にあたる。制作担当は1人であるため、地道な作業の連続だという。そうやって『愛の不時着』は、国内でのドラマ放映前に交渉した。「Netflixで放映されると知り、話題になるかどうか心配だった」そうだが、やがてその懸念は払しょくされた。



■OSTが提供する新しい音楽・アーティストとの出会い



 韓国ではK-POPアイドルのドラマOSTへのソロ参加も多い。グループとは異なるアプローチで、ソロとしての実力を発揮する場にもなっている。例えば、昨年12月に開催されたアジア最大級の音楽授賞式「2020 MAMA(Mnet Asian Music Awards)」では、『梨泰院クラス』OST収録の男性シンガー・ソングライター・Gaho「はじまり」がベストOST賞を受賞した。同ドラマのOSTには、男性7人組グループ・BTSのVも自作曲「Sweet Night」で参加しており、ソロとしての真価を発揮して話題を集めた。そういった楽しみ方に加え、自分の知らなかった新しいアーティストに出会えるのもOSTの醍醐味の1つなのだという。



 「音楽監督の音楽知識が豊富なので、インディーからの起用も多く、新しいアーティストを知るきっかけにもなります。また、新たなチャレンジも多く見受けられます。例えば、Gahoは普段はR&Bを歌うことが多いアーティストですが、『梨泰院クラス』ではポップなサウンド(「はじまり」)を歌って、新たな一面を披露して大ヒットしました」



 今の一押しアーティストを渡氏に尋ねると、男性2人組ユニット・PEPPERTONES(ペッパートーンズ)の名前が挙がった。日本の「シブヤ系」の流れを汲んでいるアーティストで、爽快なギターポップが懐かしくも新鮮だ。



 日本盤OSTを制作するにあたっては、さまざまな制約があるなか、購入者により深く歌詞世界を理解してもらいたいと考え、歌詞のカタカナルビと日本語対訳にはとくに力を入れているという。ネットで検索すれば、歌詞が出てくる時代ではあるが、購入者からの「買って良かった」の声を励みに、書体はもちろんのこと、改行1つにもこだわりを見せる。「今の韓国の風が感じられる、そんなドラマOSTをこれからも紹介していきたい」と語る渡氏の選択眼は、これまでの実績から見ても確かだ。次にどんな作品を届けてくれるのか、楽しみに待ちたい。



(文・カツラギヒロコ)
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