“変温芸人”ふかわりょうの靴ずれ人生 有吉弘行への感謝「いい同期を持った」

“変温芸人”ふかわりょうの靴ずれ人生 有吉弘行への感謝「いい同期を持った」

 「振り返ってみると、人生ずっと靴ずれしている感じなんですよね。一瞬、それを忘れることもあるんですけど、今改めて自分のこれまでを振り返ってみると、靴ずれ人生だったなと。決して、激しい痛みではないのですが」。若くしてブレイクし、現在はMC・コメンテーター、DJなどの顔を持つふかわりょう(46)は、自身の歩みをこう振り返る。そんなふかわの足跡が、エッセイ集『世の中と足並みがそろわない』(新潮社)というタイトルにも現れている。



【写真】東野幸治とトークを繰り広げるふかわりょう



■書く中で生まれたキャッチーなタイトル エッセイ集からにじみ出る“健全な社会”への思い



 同書は、日常の中でふかわが感じる些細ながら深い、世の中との隔たりへの考察から誰も触れなくなった「結婚」のこと、「ポスト出川」から舵を切った30歳の頃のこと、タモリからの突然の電話など、芸歴26年を迎えるふかわがキャリアの節目で感じたことや、アイスランドで感じた死生観にいたるまでがつづられる。どこにもなじめない、何にも染まれない、世の中との隔たりと向き合う中で生まれた、ちょっと歪(いびつ)で愉快なエッセイ集となっている。



 キャッチーなタイトルは、当初から想定していたものではなく、自分をさらけ出していく中で生まれた言葉だった。「今思うと、子どもの頃から何かモヤモヤしたものがあり、うっすらとした鈍痛みたいなものと向き合いながら生きてきたのですが、その正体に気づいたという気持ちでした。魚の小骨みたいに、なんか引っかかっていたものを一個ずつ摘出していくような感覚で書きました」。メモなどは取らず、自分の頭の中に浮かんでいることをまとめて紡いでいった。



 「感覚的な表現で申し訳ないですが、サイクリングをしながら、洗濯機がぐるぐる回るように、いくつかのキーワードが回っていて、次第に数が絞られると、このテーマだったら、ひとつにつながるかな…という感じでまとめていきました。時代の大きな移り変わりの時でもあったので、自分に向き合う気持ちになれました。文章にするって、気持ちいい時間もあるんですけど、ほとんどが痛みを伴うんですね。神経を尖らせるから、どっと疲れるんですけど、改めて一冊になって読み返すと、あの書いていた時間は、いい意味でどうかしていましたね(笑)」。



 「さらけ出す」という表現の通り、ふかわの飾らない気持ちが丁寧につづられているが、社会全体の雰囲気にも歯がゆい感情を隠さない。「昨今、配慮が過多というか、過剰になっているなと感じることが多くて、昔のラジオは悪口に近いことを言っていても寛容だったのが、今は好きっていうことすらも下手すれば炎上しかねいですよね。誰かを傷つけるのはダメなんですけど、自分の中にある違和感こそ、その人のアイデンティティーだと思うし、そういった感情を否定するのは、社会にとっても自分にとってもよくない。だから、今回の書籍も、僕の考えにうなずく人もいれば、嫌悪感を抱く人もいる。それが健全な社会のあり方だと考えています」。



 ふかわ自身、自分の気持ちを素直に表現するか否か、試行錯誤を重ねていきながら今の立場にたどり着いた。「20歳でデビューして、テレビで求められるふかわりょうと、本来のふかわりょうとの乖離が激しくなって。だいたい30歳くらいになって、そんな不安が意識できたんですよね。それで、出川哲朗さんに『ポスト出川』と言っていただいことで、もうちょっと本来の自分に寄せようと航路を変えたというのがありました。船から降りてプカプカ浮いただけかもしれないですけど、それで漂着したのがMXの『5時に夢中!』でした。もともと見ていて、番組の自由さが好きだったので、MCのお話をいただいた時はうれしかったのですが、始まってみると自由がないとことに気が付きました。MCは、むしろ羊飼いのように自由を管理しないといけない立場。最初は戸惑いもあったんですけど、結果的には自分に合っていたかもしれないです」。



■『5時に夢中!』MCでの心得「夕方の景色として」 “バイブス少年”時代の秘話



 ふかわは、『5時に夢中!』での立ち位置を“指揮者”に例える。「生放送で、時間とともに流れていくものなので、その日その日のセッションやハーモニーを届けたくて、きょうもステキなハーモニーだったねと言っていただけたらうれしいですね」。書籍の中でも登場する、敬愛しているタモリの司会術にも通じるスタンスに思えるが「そのように捉えていただけたらうれしいですね」と恐縮しながらも、言葉を紡いでいった。



 「基本的には、視聴者を信用しているんですよね。説明しすぎたり、すきまのないゴールデンの編集された番組みたいにしなくても、『タモリ倶楽部』のように、視聴者に習慣として愛される番組にしたいので、意図的に添加物を入れたくないっていうのは、僕の中でありますね。僕が勝手に思っているだけですけど、終始笑いっぱなしの番組を毎日やるのは、その番組の寿命を縮めることにつながりかねないので、奇をてらったり、派手なことで飾るわけではなく、自然な夕方の景色として楽しんでほしいなという気持ちです」。



 書籍の出版にあたり、ラジオ番組などへのゲスト出演が相次いだが、どの番組でも違った顔を見せていた。そのことをぶつけてみると「全部違うでしょう? そうなんです(笑)。意識していたところも近いんですけど、ハーモニーなんです。こういう楽器の人とは、この音色が気持ちよく聞こえるだろうなっていう。セッションに近いですね。変温芸人っていうんですかね。環境に左右される変温動物みたいに、環境に応じて変わっちゃうんです」と、ふと笑みを浮かべた。自分がいる場の雰囲気に敏感に気を使うのは、小学生の頃からだった。「先生をイジって、笑いを生むことに一生懸命だったんです。なぜそう思ったかはわからないんですけど、授業というある種、退屈な場を和ませたい、その解き放たれた瞬間が楽しいっていうのがあって。自覚こそしてなかったですけど、“バイブス少年”だったと思います(笑)」。



 そんなふかわが、最高のバイブスが流れていると感じる番組は“同期”有吉弘行の『有吉の壁』だ。「有吉、佐藤栞里さん、全体の流れの空気感、それを無意識に視聴者の方も感じながら選んでいるのではないかなと思います」。有吉のラジオで“舌戦”を繰り広げるのがおなじみとなっているが「この前『サンドリ』に出て、改めて有吉の存在っていうのが、直接的にも間接的にも大きな影響を受けているなと感じました。エネルギーでもあり、意識する存在でもあり、それぞれの軌道というか、遠心力やいろんな力の作用で、絶妙な距離感があると思うんですけど。有吉という、ひとつの惑星があるからこそ、僕の軌道が保てるというか。大きな存在、本当にいい同期を持ったな」とかみしめるように語る。



 「昔はうらやましいとかありましたが、今は歳をとって、ライバルとかではないし、友だち・親友っていうわけでもないんですけど、『サンドリ』の関係が一番気持ちいいというか。ああいう関係でずっといられたらいいなと。それぞれ社会的な立場は変わるかもしれないけど、ラジオの中では60、70になっても、変わらずあの感じでいられたら最高ですよね。そういうのは、芸人とかを超越して、単に人間と人間の共鳴自然現象のようなものでありたいです」。



 周りとのその日限りのセッションを楽しみながら、ふかわはこれからも“靴ずれ人生”を謳歌していく。



■ふかわりょうプロフィール

1974年8月19日生まれ。神奈川県横浜市出身。

慶應義塾大学在学中の94年にお笑い芸人としてデビュー。長髪に白いヘア・ターバンを装着し「小心者克服講座」でブレイク。後の「あるあるネタ」の礎となる。「シュールの貴公子」から「いじられ芸人」を経て、現在は『5時に夢中!』のMCや『ひるおび!』のコメンテーターを長きにわたり務めている。

また、ROCKETMANとして全国各地のクラブでDJをする傍ら、楽曲提供やアルバムを多数リリースするなど、活動は多岐にわたっている。著書に、アイスランド旅行記『風とマシュマロの国』などがある。
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