「クー」という言葉だけで世界を魅了した、ゲオルギー・ダネリヤ監督とは?

「クー」という言葉だけで世界を魅了した、ゲオルギー・ダネリヤ監督とは?

 ゲオルギー・ダネリヤ監督によるアニメーション映画『クー!キン・ザ・ザ』(2013年)が、5月14日から日本で公開される。この映画は、1989年、2001年、2016年と三度劇場公開され、「クー!」という意味不明な言葉でカルトSF映画の傑作として世界中で多くのファンを生んだ、実写映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』をダネリヤ監督自ら、27年の時を経てアニメ化したもの。ゲオルギー・ダネリヤ監督は2019年4月4日に88歳で亡くなり、『クー!キン・ザ・ザ』が遺作となった。日本ではほとんど知られていないその驚くべき経歴を紹介する。



【動画】『クー!キン・ザ・ザ』予告編



■ソ連の人口の半分を動員した記録を持つ



  ゲオルギー・ダネリヤ監督は、1930年、南コーカサスにあるジョージアのトビリシで生まれた。建築を専攻した後に、59年よりモスフィルムにて映画演出の道に入る。ちょうど、50年代末からソ連の最高指導者だった、ニキータ・フルシチョフが始めた文化的な「雪解け」の時期に、映画における「ソビエト・ニュー・ウェーブ」でダネリヤ監督はその象徴となる。



 イーゴル・タランキンと共同監督した長編デビュー作『Seryozha』(60年、日本未公開)で、世界最古の歴史を誇るチェコのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でグランプリを受賞。



 ゲンナジー・シュパリコフが脚本を執筆し、1960年代前半の自由な空気のなか、青春を謳歌するモスクワの若者たちの一日を瑞々しいタッチで描いた『私はモスクワを歩く』(63年)は、ソ連政府によるプロパガンダのない自由な環境で制作されていたが、その後は検閲により、プロットと脚本の変更を要求される事態となる(『私はモスクワを歩く』は当時18歳だったニキータ・ミハルコフが出演、撮影はタルコフスキー作品を多数手がけるワジム・ユーソフ)。



 レオニード・ブレジネフによってニキータ・フルシチョフが最高指導者を解任され、ソ連の「雪解け」の時代は終わると、コメディ作品『33』(65年)が、KGBのウラジーミル・セミチャストニー長官によって反ソビエトのレッテルを貼られ、ダネリヤ監督はしばらく不遇の時代を過ごすことになる。



 その後、少しずつ映画のキャリアを復活させ、75年公開の『AFONYA』では、当時のソ連人口1億3363万人のところ、6220万人の観客を動員。人口の46.5%が観た。同様に現代日本に置き換えた場合、観客動員5839万50人、興行収入817億円となり、歴代興行収入ランキングはぶっちぎりの1位、未来永劫破られないであろう記録となる。だが残念なことにこの『AFONYA』は日本では劇場未公開、一切輸入された形跡はなく、日本では未知の作品となっている。



■「クー」という言葉しか出てこない映画で世界を魅了



 そして、ダネリヤ監督の最も知られる作品、『不思議惑星キン・ザ・ザ』は86年初公開時、ソ連全土で1570万人もの観客を動員した。86年当時のソ連の人口は1億4352万人。人口の約11%が作品を観たこととなり、現代の日本に置き換えれば1381万2700人が観た計算で、客単価を1400円とした場合にその興行収入は193億円に達し、歴代興行収入ランキング第9位にランクインしてしまう。ほとんど「クー」という言葉しか出てこない映画にも関わらず、あるいはそれゆえに多くの人をひきつけるのだろう。世界中でファンを獲得し、完成から30年以上を経ても、世界各地で見られ続けている。



 社会主義体制の真っ只中でソ連時代に制作された『不思議惑星キン・ザ・ザ』は、当時の政治体制を皮肉めいた視点で描いたと評された。その制作から27年の時を経て、ダネリヤ監督自らアニメで再構築した『クー!キン・ザ・ザ』は、大きな変革の波にあった現代のロシアを戯画化して風刺する。さらに、実写版では再現できなかった“キン・ザ・ザ”界を象徴する釣鐘型宇宙船の浮遊感が、アニメならではの珍妙なリアルさで表現されている点も見どころだ。



 2019年4月4日、肺炎のため88歳の生涯を閉じたダネリヤ監督。『不思議惑星キン・ザ・ザ』のアニメ版映画『クー!キン・ザ・ザ』が遺作となった。



■アニメ版『クー!キン・ザ・ザ』ストーリー

 著名なチェリストのチジョフとDJ志望の青年トリクは、雪に覆われたモスクワの大通りで裸足の宇宙人と遭遇する。そして思いがけずキン・ザ・ザ星雲の惑星プリュクにワープしてしまう。そこは見渡す限りの砂漠に覆われ、身に着けるズボンの色によって階級が分かれた場所だった。ほとんど「クー!」(名詞・形容詞・副詞・感嘆詞など)しか言葉が存在しない異星人たちを相手に地球に帰ろうと2人は奮闘を始める。

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