『シン・エヴァ』緒方恵美、「終われていない」碇シンジ役 14歳を演じ続けた“痛み”

『シン・エヴァ』緒方恵美、「終われていない」碇シンジ役 14歳を演じ続けた“痛み”

 庵野秀明総監督の映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が3月8日から公開中だ。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ全4作のフィナーレであり、第1作『:序』公開から13年半が経過、さらに新型コロナウイルスの影響で2度も公開延期に見舞われながら“ついに”たどり着いた封切り。世界中のファンがさまざまにシリーズ完結へ想いを巡らせる中、主人公・碇シンジを演じ続けてきた声優の緒方恵美は今、何を考え、この大作の終着点に立っているのだろうか。



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■「終われていない」碇シンジ役



 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は、TVシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』に新たな設定とストーリーを加え「リビルド」(再構築)した全4部作の完結編として、3月8日に公開。初日からの7日間累計で興行収入33億3842万2400円、観客動員数219万4533人を突破、公開初日からの 28日間累計で興行収入 68億9861万 3200円、観客動員数 451万3374人となり、『エヴァンゲリオン』シリーズ最高記録となる興行収入53億円、観客動員 382万人を記録した前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012 年公開)を超え、興行収入・観客動員ともにシリーズ最高記録を更新。多くのファンが期待していたことが数字からもうかがえる。



 まずは「無事に公開されて良かったなという、それだけです」と現在の心境をシンプルに言いきった緒方。新型コロナウイルスの影響による公開延期という事情についても、「こういう状況なのでもちろん理解できますが、作品に関わった方みんな悔しい思いをしていたし、いろんな想いで延期にしたと思いますので、無事に公開ができて本当に良かったです」と安堵の表情を浮かべる。



 周囲の反響を聞くと「皆さんネタバレしないよう本当に気を使ってくださっている」と感謝しつつ、「『観た!』『良かった!』といったLINEはくるので、おおむね好評ということはフワッとわかりますが、それ以外はあまり詳しい感想までうかがえていなくて。詳しく聞きたくても『待て! 緒方と話すのは少し早い』とか『あと3回くらい観てから激論を交わしたい』と言われてしまい、あまり聞けていないですね(笑)」と、こんなやり取りが生まれるのも『エヴァ』ならではだろう。



 TVシリーズから約25年もの間シンジを演じ続け、さらに『新劇場版』シリーズも務め終えた今、肩の荷が下りた思いもあるのか聞いてみると、「端的に言うと“終われていない”感じです」と表現する。本作のアフレコが始まったころに「庵野総監督とは『本当に終わるんですか?』『終わります』『さみしいな』みたいな話をしていた」そうだが、「自分も(『シン・エヴァ』で)終わるつもりでやっていたのですが、いざ終わってみたら拍子抜けするくらい、あまり変わらない感覚なんです」と意外な心持ちになったという。



 「自分自身がどうこうというのではなく、純粋にシンジの“ラスト”が影響しているのかもしれません。セリフも含めてどういう気持ちでそこにたどり着いたのかというのもあって。それで今は余計にそういう感覚が強くなっているのかな」と、その理由について分析した。



■14歳を演じ続けた“痛み” 心の「鎧を剥がす」役作り



 14歳のシンジが持つ“思春期”の衝動と、ナイーブさに満ちた人物像。演じる身として、年齢を重ねてもそれらを心に留め続ける気構えや、困難さについても語ってくれた。



 「必要かどうかにかかわらず、人間は大人になるにつれ、例えばある感情を表に出したら怒られたので、こうは言わないようにしよう、といった“鎧(よろい)”をつけていきます。14歳前後は大人に近い目線になりつつもまだ無防備な状態で、反抗したり従ったりを繰り返し、“鎧”をつけたり剥いだりして闘っている時期。自分にとって役者であることは、“鎧”をいつでも好きなときに剥ぐことができ、その下にある本心をどこまで“その役”として見せられるかが大事だと思っています」。



 また、「いつでも最下層まで剥がせる状態でいるために、生活での出来事やニュース、何でもそうですけど全部“鎧”を剥がして見たり触れたりしています。そうすると、だいぶ痛くてつらくて『うわ……』って思うことも大人なのであります」と、演じ続けるために心の深層と向き合う時間は欠かせない。



 つらさを伴ってもこうした作業を続ける理由について聞くと、「自分は決して上手い役者ではありませんが、それを剥がせることが自分の役者としての存在価値とか存在意義みたいなものだと思っています。30代半ばくらいで一度ちょっと捨てかけましたが、なくなると役者ではいられないだろうと思い、なくさないよう日々努力をしていました」ときっぱり。「常に剥がす作業を続けるなかで無駄かも、そんな役はもうこないのでは……と思った時期もありましたが、そんな時に『新劇場版』シリーズの話が来たんです。もしかするとそのためにやっていたのかもしれないと、今は思います」と感慨深げに話した。



 役作りというと足していく作業のイメージが強いが、内面を剥がすことで作り上げるのが“緒方流”。「『ガラスの仮面』という作品で北島マヤ役をやらせていただき、彼女は演技の天才で『1000の仮面をつけなさい』と言われるのですが、自分自身は逆に1000の仮面を剥がせるかどうかだ、と。シンジを演じる上で気をつけたと言えばそこの部分かな。ただもはやルーティーンになっていますけどね」と言ってほほ笑む。



 TVシリーズからその劇場版、『新劇場版』シリーズで描かれ方は少しずつ異なるが、シンジというキャラクターへのイメージや向き合い方に変化はあったのだろうか。



 「私は役を理解する際、その役の周りのことを見ます。というのも生まれたときはどんな人も内面は“まっさら”なのに、成長していくなかで“違い”が出てくるのは、環境の影響が大きいと考えているからです。どういう人に育てられたのか。どういう環境下にいたのか。もし自分が同じ状況に置かれたらどうだろう……を想像するところから役をつかみます」という役作りのスタンスを持つ。



 実際に『新劇場版』シリーズを例に挙げ、「『:序』で最初『とにかく乗りなさい』『嫌なら帰れ』とむりやり乗らされている感じだったのと、最終的に(葛城)ミサトさんからいろいろ説明され『だから一緒なのよ』と勇気づけてもらうことでもう一回乗るのとでは、心境がまるで異なります」と説明。「そうした経験をした果てのシンジ、という意味では(キャラクターへのイメージが)全然違うといえば違いますけど、同じ魂としては変わらないとも言えます。魂の在り方、出発点は変わりませんが、その過程が(シリーズごとに)異なって、今、こういう結末に至ったという感覚はあります」と自身にとってのシンジの“現在地”を明かした。



■「庵野さんの“せい”であり、“おかげ”」 愛され続ける『エヴァ』



 シンジ役や『エヴァ』に長年携わり、自身の価値観で影響を受けた部分はあるのか、質問すると「こんなに長く最前線でお仕事をさせていただけるとは全然思っていなかったし、あまり向いている方だとも思っていませんでした。シンジはもちろん、ここまでやらせていただけたことにまず感謝したいですね」と口にする。



 続けて、「そのおかげで自分のやりたいことだけではなく、業界のことを俯瞰できたり後輩のことを考えるようになったり、いろんな意味でちょっとは成長できたかなとは思います(笑)。もうとっくの昔に役者を辞めて喫茶店などをやっているのではと思っていたので。いろんな人のことを考えるようになりました。ありがたいです」としみじみ。



 今作で“終劇”を迎えた『新劇場版』シリーズ。TVシリーズを含め四半世紀の長きにわたり熱狂的に愛されてきた理由を考察してもらうと、「これという一つでくくることはできませんが、あえて言うなら庵野総監督がご自身のすべてを中に込めたからということだと思います」と言葉を選びながら語る。



 「クリエーターとしてという意味でもありますし、私なんかが言うことではありませんが、会社を立ち上げられた経緯などいろんなことを乗り越えて、庵野さんと一緒に仕事をしたいと思って集まってこられた方たちに対して(庵野さんが)どう思っているか、もちろんお客さまのことも含め、そういうすべてが作品の中に入っていると感じています」と推察する。



 「今の庵野総監督の“在り方”が最後のフィルムにそのまま入っているのだと思います。そういう意味では希代のクリエーターでありプロデューサーである、庵野秀明という方の“せい”……っておかしいかな? おかげですね(笑)。庵野さんのせいであり、おかげです」。



(取材・文:遠藤政樹)
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