やついいちろう、緊急事態宣言下でのフェス開催の覚悟  コロナと向き合う音楽イベントの新たな形とは

やついいちろう、緊急事態宣言下でのフェス開催の覚悟  コロナと向き合う音楽イベントの新たな形とは

 お笑いコンビ・エレキコミックのやついいちろうの主催イベント『YATSUI FESTIVAL! 2021』が6月19日、20日の2日間、東京・渋谷エリアの複数のライブハウスなどで開催される。2012年にスタートした同フェスは今年で10周年。昨年は新型コロナウイルスの影響により有観客での開催は中止され、複数のプラットフォームを利用した無料のオンラインフェスとして行われた。今年は感染症対策を講じたうえでの有観客とオンライン配信の2軸で展開する。エンタメ業界がコロナ禍と向き合いながら試行錯誤するなかで、やついが考える“フェスの在り方”とは?



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■フェスの良さは自由に動けること 配信でもそれができないかと考えた



――『YATSUI FESTIVAL! 2021』は今年で10周年を迎えます。フェスを立ち上げたきっかけは、曽我部恵一さんの「やってみたら?」という言葉だったとか。



【やついいちろう】そうですね。“シブテレ”(「Shibuya O-Group」などライブハウスの運営、広告などを手がけるシブヤテレビジョン)からも「渋谷でイベントをやりませんか?」というお話があって、渋谷を周遊しながら楽しめるフェスを立ち上げました。最初は1回だけのつもりだったんですが、すごく楽しかったし、気が付けば10年続いてた感じですね。たくさんの人に喜んでもらえたし、ずっと自分がやってきたお笑い、音楽、トークなどの活動を総合的に見てもらえ、自分が好きな芸人やバンドをフックアップできるのも良くて。たぶん向いていたんでしょうね。



――2020年は新型コロナウイルスの影響で、有観客のイベントは中止。クラウドファンディングで出資者を募り、無料の配信イベントという形で開催されました。



【やついいちろう】去年の春は本当に最悪の雰囲気で、イベントやライブは軒並み中止。過去のライブ映像を配信するパターンはいくつかありましたが、生の無観客ライブを無料で配信したのは、おそらく『YATSUI FESTIVAL!』だけだったと思います。



――複数のプラットフォームで同時多発的にライブ配信をされたのは画期的でした。



【やついいちろう】自由に動けるのがフェスの楽しさだし、最初から最後まで決まったコンテンツだけを配信するのはつまらない。とはいえ、中止にすると赤字になってしまう。そこで思い付いたのが、複数のプラットフォームを使った配信イベントでした。YouTubeやニコニコ生放送、LINE LIVEなどで同時に配信し、好きなライブを自由に見てもらうためには、無料にするしかない。もちろん経費はかかるので、それをクラウドファンディングで補ったということですね。



■フェスの理想型は花火大会や盆踊り 儲からないから誰もやらないけど(笑)



――実際に昨年出演された演者の皆さん、それを観た観客の反応はいかがでしたか?



【やついいちろう】出演者のみなさんにはよろこんでもらえましたね。アイドルもバンドもほとんど活動できていない状況だったので、メンバーが同じ場所に集まってライブをすること自体が楽しかったみたいで。お客さんにも好評でした。



――配信にしたことで、これまで『YATSUI FESTIVAL!』に触れてこなかった多くの人にも届けることができたと伺いました。



【やついいちろう】『YATSUI FESTIVAL!』は例年、約1万人ほどの集客なのですが、去年のオンラインイベントは224万人が見てくれて。フェスを始めて10年、芸人になってから27年になるんですが、それだけ長くやってるとファンの方々も年齢を重ねて、「イベントに行きたいけど、子どもが小さいから無理」という方がかなりいらっしゃったんですよ。配信することでイベントを見てもらえたのはよかったし、「状況が良くなれば行きたい」という人も多かったですね。



――手ごたえはあった、と。



【やついいちろう】「こちらの心意気が伝われば、応えてくれる」という実感が持てたことは大きかったですね。もちろん、自分たちも楽しかったですけど、僕の理想は、昔からある花火大会や盆踊りなんですよ。



――フェスの理想型が、花火大会や盆踊り大会?



【やついいちろう】はい。花火大会、盆踊りは基本的に無料ですが、当然、運営費がかかる。誰が払っているかというと、企業や地元の人たちなんですよね。クラウドファンディングを利用して、無料イベントを行うのは、日本古来の祭りのやり方にかなり近いと思います。SNSを見ているときに『YATSUI FESTIVAL!』を知って、そのままフラッと入ってくる人もかなりいたんですが、それは「街をブラブラしていると、たまたま祭りをやってた」という感じなのかなと。誰も同じことをやらないのは、単純に儲からないからだと思います(笑)。



――イベント運営をビジネスとは考えていない?



【やついいちろう】すごく儲かる必要はないですよね。町のゴハン屋さんくらいでいいと言いますか、働いた分、皆さんにお金を分配できればいいかなと。慈善事業ではないので、損するつもりもないですけどね。「無理せず、来年もやれる」くらいが、成功のラインですね。



■フェスは“生”にしか価値がない 配信が台頭してもそれは変わらない



――緊急事態宣言下で開催を発表した今年の『YATSUI FESTIVAL! 2021』は6月19日、20日に行われます。今年は有観客と無料配信のハイブリッド開催となります。



【やついいちろう】ルールを守れば有観客ライブもできるので、それをやらないというのもヘンかなと。使用する会場は、例年より少ない9会場。もちろんお客さんの数も少なくして、渋谷に来てくれた方は、自由に周遊できるようにしています。移動できないのならフェスをやってもしょうがないというか、単純にイヤだと思うんですよ。“観たいもの観る、休みたいときに休む、帰りたいときに帰って、戻りたかったら戻る”というのがフェスだと思ってるので。移動のたびに消毒してもらうとか、もちろん対策はしています。

 ライブの終了時間は20時だし、転換の時間を多めに取るので、例年に比べて出演者の数もかなり少ないです。いつも通りというわけにはいかないですね。



――有観客のライブを行う一方、無料配信は去年のやり方を継続。



【やついいちろう】はい。渋谷だけではなく、名古屋や島根で行われているイベントもオンラインでつなぐ予定です。「このアーティストを観るには追加でいくら」とか、そういう細かく課金するなどのズルいことはしないですし、上手くいくんじゃないかと思います。



――アーカイブなどはなく、リアルタイムで観るしかないのも『YATSUI FESTIVAL!』のこだわりですよね。一方で、今後ライブ配信のクオリティが上がっていくと、「会場に行かなくても楽しめる」ということにもなると思うのですが、そのあたりはどうお考えですか?



【やついいちろう】フェスって、基本的には“生”にしか価値がないと思ってるんです。ライブ配信もリアルタイムで観ないと意味がないし、そこで起こる事件性というか、“今、そこでやってる”ということを体験してほしいんですよね。あとで見直そうと思っても、生で観ているときほどの集中力はないだろうし、単純におもしろくないですから。フェスやお祭りは、実際に参加することが一番楽しい。それができない人はリアルタイムで配信を観て楽しむ。それは、これからも変わらないと思います。



――配信では時間を、会場では時間と空間を共有するのが、フェスの醍醐味だと。



【やついいちろう】そうですね。主体的に行動できるのがフェスのおもしろさだし、渋谷の会場も配信も自由に周遊できるようにデザインしているので。まあ、それも全部、自分の感覚や好みなんですけどね(笑)。



――現在もライブエンターテインメントは大きなダメージを負っていて、開催に関しても試行錯誤が続いています。この状況をどう捉えていますか?



【やついいちろう】もちろん気楽さはないですけど、しっかり考えて対応すれば、何とかなるんじゃないかなと。個人的にはこういう状況は今年までで、来年には普通にできるんじゃないかなと思っていて。ワクチンの接種が進んでる海外の状況を見ても、そんなに悲観はしてないですね。この2年間でオンラインのノウハウもできましたし、集まれるようになったら、今までも以上にやれるんじゃないですかね。



取材・文/森朋之
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