『テニプリ』作者・許斐剛が語る、令和における漫画家の在り方「漫画家が漫画だけを描く時代ではない」

『テニプリ』作者・許斐剛が語る、令和における漫画家の在り方「漫画家が漫画だけを描く時代ではない」

 今年、連載開始から23年目を数える人気漫画『テニスの王子様』(公式略称:テニプリ)シリーズ。ORICON NEWSでは原作者・許斐剛氏へのインタビューを前後編でお届け。前編では激動の90年代にデビューした当時の心境や、荒唐無稽な“トンデモ展開”の真意などを明かしてくれた。後編となる今回は、9月公開の劇場版『リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』で、作者自ら全劇中歌を作詞・作曲するなど、漫画家の枠を飛び越えて活動する許斐氏に、令和の時代における“漫画家の在り方”を聞いた。



【画像】「ヤバい、うますぎ」リョーマvsテニスギャングの“ラップバトル”動画公開、楽曲提供は原作者!?



■独自の成長を見せるメディアミックスは「切磋琢磨の関係」、原作への逆輸入も



――『テニスの王子様』といえば『テニミュ』など、メディアミックスでも成功しています。ミュージカル化の話を聞いた当時は、どう感じられましたか?



【許斐剛】うれしかったと同時に不安もありました。有名な声優さんやアイドルが演じるミュージカルはありましたが、まだ無名の新人の俳優さん達が舞台に上がって、果たしてそれが受け入れられるのか、と。ですが初演を観て「これは大丈夫だ」と感じました。素晴らしい俳優さんたちばかりでワクワクしましたし、お客さんが増えていくのがリアルタイムに感じられたのも楽しかったですし。それに私は、もし漫画家になってなかったら、ミュージカル俳優になりたいと思っていたんですよ。



――ミュージカル俳優ですか!?



【許斐剛】ミュージカルが好きで、帝国劇場の『レ・ミゼラブル』を何度も観に行くような高校生でした。音楽の道へ進みたい、でも漫画も描きたい。そう思い、ミュージカルをやりながら趣味で漫画を描けばいいかと考えていたんですけど、漫画のデビューの方が早くて漫画家に。しかしなぜか、巡り巡って、自分の作品のミュージカルの話が来たんです(笑)。不思議な縁ですよね。



――その『テニミュ』からは斎藤工さんをはじめ、城田優さん、瀬戸康史さん、志尊淳さん、桜田通さんなど多くのスターが。若手俳優の登竜門ともいわれる作品になっていますが、作品が原作の外でも盛り上がり、独自のコンテンツとして成長していくことへのお気持ちは?



【許斐剛】『テニミュ』は手放しで応援していますし、テレビを観たらどのチャンネルにも『テニミュ』に出ていた子がいるんですよ。もう保護者と言うか親目線のような形で「あ、頑張ってるな」とうれしく思っています。アニメや実写映画もおかげさまで盛り上がりを見せ、互いが互いの分野で上手く演出してくれているので、切磋琢磨しているような気持ちになっています。



――ということは、原作の外の作品から逆輸入をしたりも?



【許斐剛】逆輸入もあります。例えばミュージカルで佐伯虎次郎役を演じてくれた伊礼彼方くんが「無駄に男前」って言われていたんですよ(笑)。その「無駄に男前」は原作にも落とし込みました。ほか私が描ききれなかった部分をミュージカルが拾って出したり、アニメでもそのシーンを使ったり、どんどん補完し合っていっている印象です。



――『テニスの王子様』は音楽と切っても切り離せない関係ですものね。



【許斐剛】キャラクターソングだけでも900近い数がありますから。ですから今回映画でも音楽には相当力を入れました。



――先生は、今回の劇場版でも全劇中歌を担当されたとのことですが、何曲ほど作成されたのでしょう。



【許斐剛】新曲としては7曲ですね。連載しながらなので大変でしたが、ロックやラップ、ポップやニューミュージック、バラードなど、いろんな世代に届くよう、すべて違うジャンルで作りました。



――さらには劇場版の制作総指揮も。先生自ら作品の盛り上げに、漫画家の枠から飛び出て携わる原動力とは?



【許斐剛】とにかく、ファンの皆様に喜んでもらいたい、それだけですね。それに漫画家が漫画だけを描くとか、そういう時代ではないんじゃないかと思っていて。野球の大谷翔平選手の二刀流のように漫画家だけど、ミュージシャンとして活動してもいい。何をやってもいい。ですが、中途半端ではいけません。漫画家が歌を作るとなったら、皆様は「どういう曲? 聞いてやろうじゃないか」ってなりますよね。そこで「意外といけるじゃないか」と思ってもらわないと失敗なんです。「何だこの程度か」と思われたら元も子もないので、毎回が勝負です。



――漫画も音楽もイベントも、すべて全力なんですね。



【許斐剛】イベントも企画からすべてやっていますけど、せっかく皆さん足を運んでくださるわけじゃないですか。映画もそう。わざわざ時間を割いて観てくださる。ですから「来てよかった」「観てよかった」と思ってもらえるように手を抜けない。“普通”じゃ嫌なんです。サプライズや新情報、お土産グッズなど、様々なおもてなしをしたい。



――だからこそ、先生ご自身にも注目が集まっているわけですね。



【許斐剛】漫画を宣伝するためにいろんなことをやって話題を作って。漫画を読んでもらうための広告塔みたいになってしまっても、何を言われてもいい。いろんなことに挑戦して、漫画につなげていきたいです。



■「新しいものを作りたい気持ちは捨てた」 『テニプリ』と生きる覚悟決めた今、「一番ノっている」



――先生からは、エンタメに対する激しい情熱を感じます。



【許斐剛】漫画で出来る面白いこと、誰もやってないこと、挑戦をどこまで出来るか…。実は『テニプリ』が連載終了した後、別のファンタジー作品を描きたかったんですよ。『新テニ』を連載しながらこっそり、一年半ぐらい描き進めていたこともありました。ですがなかなかそちらは形にならず。同時連載を始めるためにアシスタントも人を増やしたり、育てたりしていたのですが(笑)。



――別作品の構想は、今も温めているのでしょうか。



【許斐剛】…今思うと、両方をやっていたとしたらどちらかがおろそかになっていたでしょう。それに『テニプリ』を100年後も遺る作品にしたかった。そのためにも、読者のためにも、失礼なことをしてはいけない。結局、新しいものを作りたいという気持ちは捨てました。諦めるまでに3年ほどかかりましたが(笑)。でも『新テニ』に集中したことで、映画の話をいただけたなど、自分的にはこの22年間で今が一番ノっているな、という印象があります。



――これからも『テニスの王子様』の展開が楽しみです。



【許斐剛】少年にももっと読んでもらえる作品にしていきたいです。そんな想いから、今回の映画の劇中歌にラップを入れました。構想当時、中高生の間でラップバトルが流行っていて、リョーマくんがラップを歌いながら、アメリカのギャングをやっつけたら格好いいぞと思ったからです。今回の映画には、皆さんがまだ観たことのないものがたくさん詰まっていると思います。音楽もそうですが、驚くような仕掛けも施してあります。『テニプリ』を知らなかった人でも楽しめるよう作っていますので、原作ともども楽しんでくれるとうれしく思います。



(取材・文/衣輪晋一)
カテゴリ