“1話=数百円”電子マンガ家、「無料で読める」プロモーションへの想いと編集者との信頼関係

“1話=数百円”電子マンガ家、「無料で読める」プロモーションへの想いと編集者との信頼関係

 結婚適齢期を迎えたアラサー主人公のリアルな心情と成長を描いた『花嫁未満エスケープ』(BookLive刊)。原作の電子コミックが100万ダウンロードを突破するなど大人気を博し、現在はテレビ東京で連続ドラマが放送中。紙の単行本も発売され、書店でも注目を集めている。原作者の小川まるにさんは、本作が初の連載となった期待の新人作家。瞬く間に“人気作家”へと上り詰めていった小川さんに、「電子書籍」というプラットフォームへの想いと現状を聞いた。



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■わずか2年で“100万ダウンロード”の大ヒット、実写ドラマ化も叶えた無名の新人



──初の連載作が大ヒットして実写化と、たちまち支持を受けました。秘訣はどこにあったと思いますか。



【小川まるにさん】 無名の新人作家なのに…本当に有難いことです。ここまで読まれたのは、(連載された総合電子書籍ストアの)ブックライブさんが、積極的にWEB広告を打ってくださったのが大きかったと思います。無料で試し読みができたのも、読者さんにとって口コミが広めやすかったのかなと思いますね。



──無料で読める電子コミックが増えていますが、作家としてはそうした状況をどう受け止めていますか?



【小川さん】私は漫画に人生を懸けようと前職を辞めているので、「無料」についてはいろいろ思うところもあります。多くの作家が“1話数百円”の価格設定で作品を売って生活をしていますので、それが無料になることは、単純にいいことだとは言えません。ただ、それも状況によりけりで、メリットとデメリットがあると思います。『花嫁未満エスケープ』(花エス)に関しては、読者への届け方や作家への還元など、担当編集さんとの信頼関係があったので、そこのモヤモヤ感はありませんでした。



──無料で次々と新たな作品が供給されることで、漫画の消費スピードも速まっているような状況です。



【小川さん】たしかに、今はいろんなものが速く通り過ぎていきますよね。Twitterのトレンドが一瞬で盛り上がって、一瞬で忘れられていくように…。だけど漫画については、これからも完全に消費され切ることのない作品は生み出されていくんじゃないかな、という希望を持っています。『花エス』は電子だけでなく紙単行本化もしていただきました。書店で働いていた身としても、そして「もう一度読んでみたいな」と思ったときにすぐに手に取っていただけるという意味でも、本当にうれしかったです。



■書店員から“プロの漫画家”へ転向、編集者との“二人三脚”でヒットへ



――商業漫画家への道へ進むことを決めたいきさつを教えてください。



【小川さん】もともと書店員をやりつつ、歌舞伎の舞台衣装を製作する仕事もしながら、趣味でマンガを描いていました。作品を出版社に持ち込んだりしていく中で、次第に仕事をしている時間がもったいないと感じてきて、漫画家として商業デビューを目指すようになったんです。プロデビューのきっかけは、自主制作漫画誌展示即売会『コミティア』で現在の編集担当さんに声をかけていただいたことでした。



──『花エス』は約2年にわたる連載でした。初の長編作品でしたね。



【小川さん】当初、担当編集さんとは6話くらいで終わるイメージで一緒に作っていたんです。それが、連載が進むにつれて8話になり、10話になり、最終的には全22話に。主人公・ゆうが幸せの方向性に迷うたびに、「ここで簡単には終われないよね」と編集さんに背中を押していただきました。よく漫画家さんが、「キャラクターが動き出す」みたいなことをおっしゃいますけど、本当にあるんだなと思いましたね。



──担当編集との二人三脚で、どのようなゴールに向かっていったのでしょうか。



【小川さん】多くの読者さんが、「今彼の尚紀と元彼の深見、どっちと結婚するの?」みたいに楽しんでくださっていたんですが、そこは本作のテーマとして重要ではなかったんです。編集さんと、「“結婚式でハッピーエンド”みたいな結末はやめよう」という思いを共有していましたから(笑)。たくさん迷いながら幸せに向かっていく姿を描けたのは、フレキシブルな連載ができる電子コミックならではと思いますね。



■“紙媒体”への憧れも…「面白いものを描きたい気持ちは変わらない」



――かつては多くの漫画家が、出版社への持ち込みからプロデビューを目指していました。今は電子書籍の企業が増えて、信頼できる編集者も多いようですが、紙媒体へのコンプレックスはありますか。



【小川さん】書店員でしたので、憧れはあります。でも、無名の新人が描いた漫画がこんなに読んでいただけて、ドラマ化までしていただけたのは、電子書籍だったからだと思います。またありがたいことに、レビューなどで「電子連載だから内容がイマイチかと思ってたけど、そんなことなくてよかった」というお褒めのレビューもいただきます。読者側はまだ、そういう意識があるのかもしれませんし、私も電子コミックの編集部でお世話になる前は、そういう思いが少なからずあったと思います。



 ですが描いている側としては、電子であろうが紙であろうが、自分の名前で描く限り、より面白いものを描きたいという気持ちは変わりません。なので今は、そういった描く側としての「差」はあまり感じませんね。



──では、消費される漫画と残り続ける漫画、その差はどこにあると思いますか?



【小川さん】いろいろ要素はあると思うんですけど、特に少女漫画は読者さんの年齢や、それに伴う変化によって感想が変わるのが面白いなと思うんです。消費とはまた違う時間軸があるというか。『花エス』はけっこう幅広い層に読んでいただけたので、10代の読者さんが30代になったらどんな感想を持つのか、みたいなことも聞いてみたいですし、何年後かに「また読み返したいな」と思っていただけたら、作者としてこんなにうれしいことはないです。



──結婚や恋愛という普遍的なテーマで、多くの共感を呼んだ作品だけに、長く読み継がれることに期待したいですね。



【小川さん】そうですね。ただ結婚観や恋愛観というテーマは、普遍的でありながら、時代性も現れると思うんです。『花エス』の結末も、もし10年後に描いたとしたら、また違う終わり方になるような気もします。今の時代を反映したのも『花エス』が共感してもらえた理由だと思いますが、共感だけで終わったら一瞬で消費されてしまうかも? とも思います。そこのバランスは難しいですよね…。逆に、まったく共感はできないのに「面白い!」と思っていただける漫画が描けたら、それは強みになるだろうなと考えたりもします。



──今後、商業の世界で活動していくにあたって、ご自身の作家性で大切にしたいことは何ですか?



【小川さん】じつは『花エス』は、私の友人たちに伝えたいことがあって描いた漫画なんです。それが結果的に多くの方に楽しんでいただけたのはとてもうれしかったです。これからも、まるで近くにいる友だちの話を聞いているような感覚で、読んでいただける作品を描きたいなと思っています。
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