エンタメ施設が集積する世界有数のハーバーへ 音楽で街づくりを推進する横浜みなとみらい

エンタメ施設が集積する世界有数のハーバーへ 音楽で街づくりを推進する横浜みなとみらい

 チケット販売大手のぴあが建設・運営する1万人規模のイベント会場「ぴあアリーナMM」が横浜みなとみらい地区(以下、MM地区)にオープンして、ほぼ2年が経過した。ポスト・コロナに向けた新しい日常が生まれ、ライブ・エンタテインメントが少しずつ元気を取り戻していく中で、同アリーナの存在感や個性も、次第に際立ち始めている。とりわけ、地域に根差したライブ会場となるために街と連携し、MM地区さらには横浜市の街づくりに積極的に取り組む姿勢は注目に値する。その過程で、同社が2019年に打ち出した「MUSIC CITY YOKOHAMA構想」は、各方面からの共感を得ながら、ぴあ創業50周年、そして「横浜音祭り2022」という横浜市の一大イベントを控えた今年、さらに大きく飛躍する兆しを見せている。



【写真】23年秋、横浜みなとみらい21地区に誕生する「Kアリーナ横浜」



■エンタテインメント施設が続々と集結 「MUSIC CITY YOKOHAMA構想」推進する横浜



 もともと横浜MM地区には、パシフィコ横浜国立大ホール、横浜みなとみらいホール(22年10月リニューアル)といったコンサート会場があった。ところが、この数年で、横浜ランドマークホール(18年リニューアル)やKT Zepp Yokohama、ぴあアリーナMMが相次いでオープンし、23年秋には2万人収容のKアリーナ横浜も誕生する。さらに横浜駅周辺や関内、山下町など都心臨海エリアに目を向けると、歴史のある横浜スタジアムや神奈川県民ホールに加え、新ライブスポットBillboard Live YOKOHAMAやYOKOHAMA COASTも開業するなど、横浜にエンタテインメント施設が続々と集まってきている。



 そう、横浜MM地区を起点とする横浜市全域は今、国内。いや世界でも類を見ない集客施設の揃うエリアになりつつある。そういった街のポテンシャルを活かし、この地域を“音楽の街(ミュージックシティ)”としてブランディングし、新たな魅力を生み出そうとする取組み、それが「MUSIC CITY YOKOHAMA構想」なのである。



 最近、横浜に出かけると、ストリートライブを行うミュージシャンが増えたことにお気づきの方も少なくないのではないか。これも、「MUSIC CITY YOKOHAMA構想」の取組みの1つ、一般社団法人横浜みなとみらい21(YMM)が実施する「みなとみらい STREET MUSIC(MMSM)」プロジェクトである。“MM地区を音楽であふれる街に”のコンセプトのもと、音楽を表現したいというアーティストを公募。応募総数 232 組の中から審査を通過した多様なジャンルの81 組が、地区内の商業施設やホテル、公共空間等17ヶ所で、今年4月より年間を通じてライブパフォーマンスを行っている。



「PA機器等はアーティスト側が持ち込むため施設側に負担がなく、お客さまには音楽を聴きながら飲食などを楽しんでもらえる。アーティスト側に、ギャランティは発生しませんが、その空間で自身の音楽を表現できるという、お互いのニーズを満たせるものです。今はさらに、横浜市庁舎に直結しているみなとみらい線の馬車道駅構内もライブパフォーマンスができる「みなとみらい STREET MUSIC」に加えられないかと、みなとみらい線を運行する横浜高速鉄道さんにお話をし、YMMさんをつないで実現に向けて進めているところです」(ぴあ コンテンツ・コミュニケーション事業局長・平野学氏)



 また、12月の恒例行事となりつつある「YOKOHAMA ミッドナイト HAR★BAR」や、21年2月の緊急事態宣言期間中に観光需要喚起と消費拡大を目的に開催された多彩なフリーイベント「YOKOHAMA MUSIC HARBOR 2021」もまた、源流をたどれば「MUSIC CITY YOKOHAMA構想」から生まれたものだ。これらイベント企画やプロジェクトには、いずれも同社が企画総合プロデュースとして関わっており、地域や行政と連携しながら、1つひとつ具体的な成功事例を積み重ねている。



■地域の街づくりに力を入れるぴあ 3つの理由



 しかしなぜ、民間のエンタテインメント企業であるぴあが、これほどまでに地域の街づくりに力を入れるのだろうか。そのポイントは大きく分けて3つある。まず、何よりも横浜という街自体がとても魅力的な場所であると同社が考えていること。そしてその場所に、ぴあアリーナMMという箱モノを作るだけでなく、それを地域に愛されるものにしなければいけないという理念を持っていること。最後に、同社は長年、エンタテインメント情報を網羅した雑誌『ぴあ』を出版し、街の人々と深く強いつながりを持ち続け、地域からの厚い信頼を得ているからこそ取り組める事業であるということだ。



 自身のルーツも横浜にある平野氏は「いつの間にか横浜が“ミュージックシティ”として人々に認識され、音楽を通じて新たな出会いや活動が生まれる場になっていることが理想。その時には、ぴあが言い出したなんてことは忘れられてもいい」と笑顔で語る。



「私たちが目指しているのは、香港やシンガポールのように1日では遊びつくせない、世界有数のハーバーです。横浜は日中に中華街や赤レンガの観光をして、その足で東京に移動して宿泊するような“サウス・オブ・トーキョー”ではない。横浜都心臨海部って、料理で例えるならすごくいい素材が揃っているわけです。それを料理し、『美味しい』と言っていただけるストーリーをいかに作って、外部にいかに発信していくかが大事だと思っています。」(平野氏)



「その旗振り役がいないのであれば、是非やらせてください、と手を挙げたのが我々なんです」とは、同社執行役員・染谷誓一氏。ぴあアリーナMMの建設を機に地域との連携を深めていくうちに、どっぷりと街づくりに関わるようになっていった。そして、この6月にはついにMM地区に横浜支局を開設し、新たに支局長の肩書が加わることになった。



「横浜の街は歴史があるぶん、地域ごとにテリトリーが分かれていて、意外と横同士のつながりがないんです。そこは、かえって外部から来た人間の方が、橋渡ししやすいところもあるのだと思います。横浜におけるDeNAさんも、きっと我々と同じような存在で、横浜に対する想いは双方で合致する点も多いので、いろいろと協議を重ねているところです」(染谷氏)



■喫緊の課題は移動ストレスの軽減 ナイトタイムエコノミー推進の第一歩



「MUSIC CITY YOKOHAMA構想」のもと、さまざまなイベントを企画プロデュースする同社は、横浜の未来を今後どのように変えていきたいと考えているのだろうか。一番のポイントに掲げているのは、個々のイベントを一発の打ち上げ花火で終わらせず、継続させていくこと。そのためには、エンタテインメント施設や横浜の観光名所をつなげるモビリティ、すなわち移動ストレスの軽減がとても重要なのだという。



 ところが現状はというと、横浜都心臨海部の循環バスや、MM地区と横浜駅東口をつなぐシーバスは、19時台で運行が終わってしまうケースがほとんど。経済性が伴わなければ半官半民でのバス運行は難しく、運行していないから人が来ない、人が来ないから早く運行が終わるという悪循環が「横浜は夜を楽しめる場所が少ない」というナイトタイムエコノミー対応の遅れにつながっている。そこで今、ぴあはシャトルバスの運行を考えているという。



「バスの中でもエンタメ情報や音楽を流して、移動そのものも楽しんでいただく組み立てにして、まずは、民間企業の我々がシャトルバスを運行したいと考えています。例えば、スポンサーを募り、効果が見えやすい土曜日などに無料運行する。そこで一定の利用客が見込めるようになれば、さらに運行日を増やしたり、少しずつ料金もいただいたりしていく。ある程度の利益の見込みが立つようになれば、いずれは行政やバス会社が運行してくれるようになるはずです。行政に提言をして実現を待つのではなく、まず我々民間が主導でやり、そこに行政が乗ってくれるような関係性で事業を進めていけたらと考えています」(平野氏)



「去年の秋、ぴあアリーナMMで開催した『PIA MUSIC COMPLEX(通称ぴあフェス)』では三菱地所さんと協業で、フェスのチケットを提示すると無料でランドマークタワー展望台に上れたり、飲食店で10%オフになったりするタイアップを実施しました。そうすると、約1万人の来場者のうち約800人が周辺商業施設を回遊してくれました。こうした取り組みは、7月に行う同社の創業50周年記念イベント『MUSIC COMPLEX SPECIAL EDITION』でも実施したいですし、今後はそこでのマネタイズも考えながら、みなさんに横浜の魅力を知っていただける形を探っていきたいと思っています」(染谷氏)



 Kアリーナが開業すれば、ぴあアリーナMMなど近隣のエンタテインメント施設と合わせれば4万人近くの観客が夜のMM地区に赴くこととなる。しかし現状のままであれば、ライブ後に4万人は最寄り駅に帰っていき、それで終わりという寂しい状況にもなりかねない。だが、もしそこで染谷氏や平野氏が言うように、手軽に移動ができ、商業施設や横浜中華街で食事をしたり、Billborad Live YOKOHAMAで大人のライブを楽しめたり、シーバスに乗り海から夜景を眺めて帰ることができるならば、横浜の夜はこのうえなくワクワクするものとなるはずだ。



 今秋には、3年に1度のオールジャンルの音楽フェスティバル「横浜音祭り2022」(9月17日から51日間に渡って開催)、12月前半の土曜日(3日・10日)には、「YOKOHAMA MUSIC HARBOR 2022」(ぴあ企画総合プロデュース)も開催予定だ。こうしたエンタテインメントがやがて、特別な季節イベントではなく、ごく日常の光景となった時、真の意味で横浜は、自他ともに認める「MUSIC CITY」となっていくことだろう。



文・布施雄一郎
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