「性を謳歌する女性がいてもいいじゃないか」“怒り”を原動力に テレ東ドラマに新たな風を吹き込んだプロデューサー

「性を謳歌する女性がいてもいいじゃないか」“怒り”を原動力に テレ東ドラマに新たな風を吹き込んだプロデューサー

 “食”を題材にしたドラマを得意とするテレビ東京に新たなカラーを加えたプロデューサーがいる。祖父江里奈Pだ。手掛けたドラマは『来世ではちゃんとします』『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』など。これまで地上波ドラマでは描かれることの少なかった、女性視点による等身大の“性”を描くことを得意とし、その一方で自身がプロデュースを務める『喋ってお焚き上げ』(Paravi)に自らゲスト出演するなど、立場や枠を超えて活躍している。かつては「自分が面白いと思えなかった」ことに悩んでいたという彼女がいかにして“自分の場所”を見つけたのか。話を聞いた。



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■大学時代に感じた怒りがドラマやバラエティーを作る最大のモチベーションに



 『喋ってお焚き上げ』はファーストサマーウイカをMCに、世の女性たちが“今まで誰にも話せなかったエピソード”をみんなで喋ってお焚き上げし供養する、祖父江Pいわく「明るく楽しい淫テリジェンス」なトーク番組。この“淫テリジェンス”のワードセンスからも溢れ出すように、祖父江Pは大のシモネタ好きだ。



「だってシモネタって喋ってると楽しいじゃないですか。お酒を飲んでシモネタで盛り上がるの、なんであそこまで楽しいんでしょうね(笑)。何らかのやましさが逆作用してるのかな?」(祖父江P/以下同)



 あけっぴろげに明るく話すが、その実、内面には巨大な怒りを抱えている。大学生の時、男子学生はシモネタで盛り上がっているのに、彼女が楽しそうにセックスなどの経験を話すと、男子学生から「お前、そんなこと言うなよ」「ビッチだな」とドン引きされた経験からくるものだ。「なぜ男はいいのに、女はダメなんだ!」。これが今も彼女の原動力になっている。



「アセクシャル(他者に性的欲求を抱かないセクシャリティ)の方もいらっしゃいますが、性欲というのはある種、当たり前のように誰もが持っているわけじゃないですか。それを女性だけ出してはダメというのはおかしい。性を謳歌する女性がいてもいいじゃないか、というのが私のドラマ、バラエティを作る際の最大のモチベーションになっています。女性だって性に興味ある人はいる。でも出すと引かれるから外に出せない。抑圧されている」



■『モヤモヤさまぁ~ず2』『YOUは何しに日本へ?』での“街ブラ”経験がドラマ作りの礎に



 そんな彼女がテレビ業界に興味を持ったのは幼少期。『アメリカ横断ウルトラクイズ』が大好きなテレビっ子だった。クイズ番組を食い入るように見つめる彼女に両親が「番組を作るお仕事があるんだよ」と教えてくれた。結果、彼女の夢はテレビ業界へ入ることに。少女時代、雑誌『なかよし』の付録の手帳の“将来の夢”にも「テレビのプロデューサー」と記すほどだった。



 高校時代には演劇部に入り、物語を紡ぐ面白さを堪能した。だが彼女の住んでいた場所は岐阜。テレビのプロデューサーになるために東京へ出たい! その想いで大学受験に挑み、上京。初志貫徹し、卒業後にテレビ東京に入社する。



「入社した2008年は、ドラマ24枠が出来て3年足らずの頃。私自身も入社が決まった時、『なんでも鑑定団』と『TVチャンピオン』の会社と思っていたぐらい、テレビ東京に今ほどドラマのイメージがない頃でした。さらに他のキー局と違い、小さな会社でドラマ制作も監督や技術、美術などは外注なので、社員をテレビドラマのプロとして育てられる環境がなかった。結果、私はまず修行としてバラエティ班配属になったのです」



 バラエティ制作時代は『モヤモヤさまぁ~ず2』『YOUは何しに日本へ?』『おしゃべりオジサンと怒れる女』などを担当した。ここから多くを学ぶことになる。「テレ東のバラエティってよく素人さんに密着するじゃないですか。港町の漁師さん、田舎の旅館の女将さん…。街ブラ番組では、街歩きをしながら面白いスポットを探す癖がつきましたし、このお店のおじさんは、どんな人生を歩んで何を考えているのだろうかなど妄想が勝手に広がるわけです。そうしたことがドラマのキャラクター作りに今も生かされています」



 本人曰く置かれた場所で、それなりに人生楽しく生きていけるタイプだったから、バラエティー制作もそれなりに楽しかった。しかし、一方で「自分が(バラエティーで)何をやりたいのかもよく分かんないから、その既存の番組の1スタッフとしては活躍できるけれども、新しいものなんか作れる気がしなかった」という。



 そして晴れてドラマ制作に携われるようになったのが10年後。「もうドラマにいけないかもしれない」と思っていた矢先だった。だがここからも修行の日々。『よつば銀行 原島浩美がモノ申す!~この女に賭けろ~』では助監督の下っ端をするなど下積みは続く。「当時34歳で、体力的にも苦しかったし、やっぱ理不尽に耐えられるのは20代前半までって思った」日々を乗り越え、『来世ではちゃんとします』を手掛けることになる。



■「世の中の人が実は興味を持っていることをより面白くして描くことこそ“エンタメ”だと思う」



 とはいえ、“エロ”を地上波で描くのは難しい。第一の壁は会社=テレビ局が納得する“エロ”でないとダメなこと。第二に俳優や芸能事務所、第三に視聴者が不快にならないこと。その為に多くの工夫をした。例えば映画やサブカルチャーでは女性の性を取り扱う作品が多いため、単館映画館で上映されるような一級の画作り。俳優のイメージがネガティブにならないような作風・演出。彼女の想いとは裏腹に、“エロ”はどこか隠匿された面があり、人にある種の“やましさ”、時には“嫌悪”を与えてしまう。



「マニュアル化もできないし、すごく感覚的なものなので、会社を怒らせないようにするのと、事務所を怒らせないようにするのと、世間に受け入れてもらえるようにする、この三つのバランスを常に考えながら作っています。自分が作ったコンテンツの中ではそんなに肌を露出したような、いわゆる昔ながらの男性が喜ぶようなエロシーンを描いたりはしていないのですが、“エロ”をテーマにしているだけで、そういった誤解を受けることもしばしばある。毎回すり減るけれど、私はとにかく今まで抑圧されてきたものを全力で解放させたいというその想いで乗り越えてますね」



 そんな“エロ”を解放すべく、彼女は『ファーストサマーウイカのオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)出演をきっかけに、自身の“エロ”キャラをトップギアにした。その後も多くのラジオ番組や、先述の『~お焚き上げ』でのトークなど、その姿はあたかも性の解放運動家のようにも映る。「ただ、そんなことやっていると恋人なんてなかなか出来ないですよね(笑)。公の場でバンバン“エロ”話をする彼女は敬遠されるじゃないですか。これに理解ある方でないと……」



 他の悩みは“老い”だ。「現在37歳。いつまでセックスができるのか…みたいな悩みもありますが(笑)、感性がどんどん古くならないかが心配ですね。基本的に今までずっと自分が見たいものを作ってきたんですよ。ここ3年で結構出し切った感も。なるべく流行りの物は見ていますけど、もう心の部分で追いついていかない(笑)。でもあんまりそことは勝負せずに今、私が作りたいものやっぱり作り続ければいいのかなって思いもあります」



 今、彼女が関心事は悩みの一つである“老い”と“地方と都市”だという。「今後も自分が興味あること、悩んでいることをちょっとだけ大げさにプラスαして描くドラマを作っていきたい。性をはじめ、世の中の人が実は興味を持っているだろうことをより面白くして描く。それこそが、“エンタメを作る”ことだと私は思っています」

(文/衣輪晋一)
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