性教育への意識高まるも根深く残る“誤解” 10年以上“性”を啓蒙してきた女医が警鐘を鳴らす「“奔放”と“解放”は違う」

性教育への意識高まるも根深く残る“誤解” 10年以上“性”を啓蒙してきた女医が警鐘を鳴らす「“奔放”と“解放”は違う」

 性教育を発信する女性芸能人やインフルエンサー、“生理”をテーマにしたテレビ番組の放送、エンタメコンテンツなどにより、性教育が見直されてきている昨今。タブー視の見方が強かった10年以上前から性の正しい啓蒙を行ってきた産婦人科医・宋美玄氏の目にはどう映るのか。従来の性教育によって起きた弊害、女性の性への向き合い方、セックスレスに至るまで話を聞いた。



【漫画】「セックスでイケないのは私だけ?」「私の性欲は異常?」女子会で繰り広げられる切実な“性”の悩みとは



■海外に比べ遅れをとる日本の性教育「アフターピルなどの緊急避妊、性的同意、相手の性器への触れ方も教わらないのが問題」



――産婦人科医として、現在も臨床の現場に立たれていますよね。特に、クリニックに訪れる患者様は、どんな悩みを持たれていることが多いのでしょうか。



【宋美玄】やはり、セックスに関するお悩みというのはとても多いですね。特に多いのは「痛い」「性交渉で感じない」などでしょうか。しかし、実際に身体に異常がある人は多くなく、単純に経験が少なかったり、パートナーとの人間関係に問題があるように感じます。



 ただ、女性は男性のように性的な情報交換をあまり友達同士で行わないため「正解が分からないから」とクリニックに訪れる人も多いんです。



――それでも、何らかの改善を望んで先生のところを訪れる方が多いのではないかと思います。女性のカウンセリングをする中で、男性との意識の違いなど感じることはありますか?



【宋美玄】女性は男性と比べると、性の情報収集や性交渉に受け身な人が多いです。情報も経験も少ないから、自分自身がどうされると気持ちいいのかが分からない。男性は性的なコンテンツを収集する中で自分の性的嗜好も掘り下げているけど、女性はそうではない。



 だから、セックスに対して、いい印象を抱いていない人も多いんです。男性は行為や快楽に比較的、没入しやすいですが、相談に来る女性の中には「彼のことは好きだけど、セックスはそこまで好きではない」という人も。やむを得ず男性に合わせて演技をしてしまう人もいますし、没入できないからそのうちマンネリ化して、セックスレスに繋がっていくパターンも……。女性の反応が薄かったり、痛がっているのを見ても、女性自身「どうしてほしい」を伝えられないから、そのまま男性の方も向き合えなくなっていくわけですね。



――女性の性に関する情報は増えていっているように感じていましたが、現状はまだまだリテラシーに乏しい人も多いということでしょうか。



【宋美玄】日本は海外に比べて性教育が遅れているという問題も大きいですね。未だに日本の義務教育では、アフターピルなどの緊急避妊について扱わないし、性的同意も、相手の性器への触れ方も教わりません。性の情報を発信する芸能人やインフルエンサーも増えていますが、その全てが正しいことを言っているわけではないというのも実感しています。現状そもそも、リテラシーを持つことが難しいという状態です。



■「『セックス=幸せ』と考える必要はない」2人の関係性がセックスレスに直結?



――セックスに対して積極的な姿勢を見せない女性も多い一方で、漫画やドラマなどではセックスレスやそこから始まる不倫がここ数年注目のテーマとなっています。先生はセックスレスという問題をどのように捉えてらっしゃいますか?



【宋美玄】言葉だけ聞くとキャッチーな感じもしてしまいますが、実際に悩んで相談しに来る人たちは、とても思いつめています。背景は様々ですが「子どもが欲しいから」という理由で改善を望む人も多いです。



 ただ私は「セックスレスは予防が肝心」で、改善は難しいと考えています。それは、セックスレスの要因に2人のコミュニケーションが関係していることが多いから。セックスでの要望をうまく伝え合えないこともそうですし、よく聞く「家族のようになってしまって、もうそういう目で見れない」というのもそう。そもそも2人がセックスをしたくないと思っているのに、子どもが欲しいというだけでセックスレスを解消するのは難しいですよね。改善にはとにかく、お互いが向き合うしかないですし、向き合ってもうまくいかないこともあります。



――では、私たちはセックスレスに対し、どのように対処していくべきなのでしょうか。



【宋美玄】セックスレスになる前に、話し合いをしっかりすることが大切です。センシティブなテーマですが、相手との関係に慣れれば慣れるほど、話しづらくなっていきます。



 相談に来る女性に話を聞くと、「男性のプライド」が話し合いの邪魔をしてしまうケースを、よく耳にします。中には「俺でいけないのは、お前に問題がある」など、自分は悪くないと決めつけて話され、悩みを深めてしまう患者さんも。女性が自分の意見を言えないことで、男性も固定観念が強くなっていってしまうんです。



 そうならないためにも、女性が正しい知識をつけることが大切。セックスカウンセリングを受けてもいいですし、それがハードルが高ければ今回出版した『女医が教える オトナの性教育』などの本を読むのでもいいです。正しい情報を得ていかないことには、パートナーと対等に話し合うのも難しいですよね。



――ではやはり、一度セックスレスになってしまったらやはり改善は見込めない……ということなのでしょうか。



【宋美玄】人それぞれではありますが、うまく話し合いができないなど、パートナーとのコミュニケーションに問題がある場合、セックスが改善すれば全て解決、というわけにはいかないですよね。半別居して生活空間を分けたり、子どもを産む手段として人工授精を検討するなど、思い切った判断も必要になってくると思います。場合によっては、ともに向き合っていける新しいパートナーを探す方がラク、ということもあるでしょう。



 書籍でも語っていますが、必ずしも「セックス=幸せ」と考える必要はないんです。セックスしなくても子どもを持てる道もある中で、2人ともしたくないと考えているセックスをするのはマストか、と言われれば、それだけが手段ではないということです。



■「『女性もマスターベーションしていい』という考えが、市民権を得てきたようには感じている」



――2010年に『女医が教える 本当に気持ちのいいセックス』を刊行されてから、セックスのことや女性の性に関する情報発信をされてきています。ここ10年で、女性のセックス観にはどのような変化があるように思われますか。



【宋美玄】「女性もマスターベーションしていい」という考えが、市民権を得てきたようには感じています。今はスマホを使えばクローズドな環境でコンテンツにたどり着けますし、女性も自分の性欲が高まるシチュエーションを探る機会が増えているはず。



それに、ラブグッズが通販で手に入るようになったのもいい変化の一つですね。マスターベーションも、自分の身体を知る一つの過程です。パートナーとのセックスに満足できなくても、自分がどうしたいかが分かっていれば相手に伝えられますから。



――情報を得るだけでなく、実践して自分を知ることも大切ということでしょうか。



【宋美玄】まずはマスターベーションで、というのは非常に大切ですよね。性にオープンになれ、というのは、何も性に奔放になれと言っているわけではないんです。適切な情報を取り入れて、自分を知ることは何においても必要なことです。



 セックスレス改善の最終目標は、自分がセックスを楽しめるようになること。相手のために気を使うことも大切ですが、そうである限り心からセックスを楽しむことはできないでしょう。私が伝えたいのは、女性はもっと性に自分本位になっていいということです。セックスはあなたにとって、したいと思えることなのか。セックスはあなたの幸せに繋がっているのか。まずは一回考えてみてほしいですね。



――今後、読者にどんな見識が広まることを望んでいますか?



【宋美玄】たとえば世の中では「女性の性欲と男性の性欲は反比例する」なんて通説があるようですが、事実無根の噂話。女性も男性も、性欲は年齢とともに落ち着いていくという研究結果があります。このような誤った情報を鵜呑みにしている人も多く、それが性への不安にも繋がっています。性について正しいエデュケーションが行われない以上、セックスで満たされるためには、自主的な情報収集や行動も必要です。



 実は、『女医が教える 本当に気持ちのいいセックス』は男性もたくさん読んでくれていて。パートナーに渡して、一緒に読んだと言ってくれた女性もいました。書籍などでの発信を通して、正しい知識が広まり、そして読んだ方の選択肢が広がればと思います。

(取材・文/ミクニシオリ)
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