ポール・トーマス・アンダーソン監督『リコリス・ピザ』の魅力とは?

ポール・トーマス・アンダーソン監督『リコリス・ピザ』の魅力とは?

 「ベルリン国際映画祭」で金熊賞、世界三大映画祭であるカンヌ、ヴェネチア、ベルリンすべてで監督賞受賞と伝説を作り、常に世界中の映画ファンが新作を心待ちにしているポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作『リコリス・ピザ』が公開中。オリジナル脚本の完成度の高さ、細かな脇役に至るまで行き届いた演出が高く評価され、アカデミー賞主要3部門にノミネートされた本作の魅力とは?



【動画】アラナ・ハイム&クーパー・ホフマンのインタビュー



■本作で映画デビュー、主役二人のフレッシュ感



 舞台は1970年代の米ロサンゼルス、サンフェルナンド・バレー。実在の人物や出来事を背景に、カメラマンアシスタントのアラナと高校生ゲイリーが偶然に出会ったことから、歩み寄り、すれ違っていく恋模様を描き出す、ボーイ・ミーツ・ガール映画。恋の痛みとうれしさにあふれる主人公たちの姿が魅力的だ。



 アラナを演じたのは、三姉妹バンド、ハイムの三女であるアラナ・ハイム。ゲイリーを演じたのは、ポール・トーマス・アンダーソン監督の盟友フィリップ・シーモア・ホフマンの息子であるクーパー・ホフマン。2人とも本作で鮮烈な映画デビューを飾り、主演女優賞やブレイクスルー賞を総なめにし、全米の映画賞を席巻した。



 アラナはインタビューで「『リコリス・ピザ』は その出会いで人生が良い方向に転じるとはまだ知らない二人の物語なの。時々ゲイリーがイラつかせるから最悪だけど(笑)、でも私は彼が大好き」。クーパーは自身の役どころについて「ゲイリーはとてつもなく自信に満ちあふれた人物なんだ」と解説する。ティーンエイジャーならではの根拠なき自信にあふれたゲイリーと、不安定な日々を送っているアラナは「最高の友情なんだ。一緒にいないとハッピーじゃない」(クーパー)と断言する。



 さらに、こだわり抜いたセット、小道具、ファッション、ヘアスタイルも完璧に70年代を再現した本作について、主演の二人は「ウォーターベッドやピンボールマシン、オイルショックが出てきて、私たちを1973年に連れて行ってくれる。一緒にはいられないけど離れることのできない二人の物語」(アラナ)、「二人の道のりの話なんだ。とっても楽しいよ」(ゲイリー)と本作の魅力について語っている。



 また、本作にはアラナの家族が出てくるワンシーンで、実際のアラナの家族が総出演していることでも本国では大きな話題になった。グラミー賞最優秀新人賞にノミネートされ、2013年のフジロック・フェスティバルにも出演したハイムの姉エスティとダニエルに加え、アンダーソン監督の小学校時代の美術教師だった姉妹の母ドナ・ハイムと、父モチ・ハイムは同シーンでアドリブまで披露し、作品に華を添えた。



■レジェンド俳優の使い方が見事



 フレッシュな主役2人の脇を固めるのは、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー、ベニー・サフディらレジェンド俳優たち。実在の人物をモデルにした役どころで出演し、物語にアクセントと深みを与えている。



 アラナが受けたオーディションで出会い、意気投合する俳優ジャック・ホールデンを演じているのはショーン・ペン。彼のモデルは、ロマンティックな『麗しのサブリナ』(1954年、ビリー・ワイルダー監督)から西部劇『ワイルドバンチ』(69年、サム・ペキンバー監督)まで幅広く活躍した、ハリウッドを代表する超有名俳優のウィリアム・ホールデン。髪をオールバックにぴっちりとなでつけ、低い声でささやく伝説の二枚目スターを喜々として演じている。



 また、レックス・ブラウという映画監督を演じ、観客を驚かせるのは、ミュージシャンとしてロックの殿堂入りを果たし、俳優としても活躍するトム・ウェイツ。モデルはウィリアム・ホールデン主演の『トコリの橋』を監督したマーク・ロブソン監督が有力だが、その破天荒さはサム・ペキンパー、ジョン・ヒューストンもモデルにしているようだ。



 なかなか出演依頼を受けないトムをどのような経緯でキャスティングしたかについて、ポール・トーマス・アンダーソン監督は「ショーン・ペンをジャック・ホールデン役にキャスティングしてから、レックス・ブラウを誰が演じるべきか、2人で考えたんだ。その時、ショーンがトムを提案したんだよ。彼らはとても親しいからね。それなら受けてくれるかもしれないという気持ちもあって良いアイデアだと思ったんだ」と明かしている。



 トムが快く役を引き受け、撮影が始まると「僕は監督として、必要がないカットにも関わらず、ただ彼がすることを見ていたいがためにカメラを回していました」とその人間としての引力の大きさも語っていた。



 ブラッドリー・クーパーについては、「恐ろしい俳優で長年彼と仕事をしたいと思っていた」と、キャスティングの機会を切望していたアンダーソン監督。本作にブラッドリーが出演を決めた時のことを「最高の瞬間だった!」と表現する。そんな監督から全幅の信頼を得ているブラッドリーの役どころは、1970年代の映画プロデューサー、ジョン・ピーターズだ。



 「ファットバーニーズ(主人公ゲイリーのモデルであるゲイリー・ゴーツマンが、実際にウォーターベッドを販売していた店)でウォーターベッドを売っていた知人が、ジョン・ピーターズの家にベッドを届けた」という話から着想を得て、ブラッドリーは実在する“クレイジーなハリウッドプロデューサー”を演じることに。



 ジョン・ピーターズとは、本作の舞台であるサンフェルナンド・バレーのヴァンナイズ出身の映画プロデューサーで、かつては美容師だったが女優のバーブラ・ストライサンドとの交際で有名になり、彼女の主演映画『スター誕生』(76年、フランク・ピアソン監督)をプロデュース。その後も数々の作品を製作し、『アリー/スター誕生』 (2018年、ブラッドリー・クーパー監督)の製作にも関わっている、超大物プロデューサーだ。



 アンダーソン監督は、当人のジョン・ピーターズに会いに行き作のシナリオを彼に伝えると、「いいじゃん、誰が僕を演じるんだ?」と聞いてきたという。ブラッドリーが演じることを伝えると「最高のキャスティングだ」と快諾。“子どもたちの役立たなさに腹を立てて叫ぶ!”という内容については、「自分だったら、彼女を誘惑しようとするんじゃないかな」と、シーンの提案までしたそうだ。

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