『モノノ怪』15年ぶり新作の不安 「覚えてくれているのかな?」監督&Pの心境…反響が自信に

『モノノ怪』15年ぶり新作の不安 「覚えてくれているのかな?」監督&Pの心境…反響が自信に

 2007年にフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で放送されたテレビアニメ『モノノ怪』の完全新作エピソードとなる劇場版『モノノ怪』が2023年に公開されることが先日発表され、大きな反響を呼んだ。15年の時を経てのアニメ化の発表にあたり、『モノノ怪』を手がけ新作でも監督を務める中村健治氏と、ノイタミナ初代編集長で今作の制作を担当するツインエンジンの代表である山本幸治プロデューサーへ直撃インタビューを実施。当時の事情や新作発表に至るまでの道のりや新作に込める想い、新作にこだわった理由などを聞いた。



【動画】15年前の懐かしい独特な映像美!公開された『モノノ怪』新作映像も



 同作は、「真(まこと)」「理(ことわり)」「形(かたち)」を見極め、モノノ怪を斬ることのできる退魔の剣を持つ、謎の男「薬売り」の物語。人の心とアヤカシが生み出す凄絶なる惨劇を、諸国を巡る薬売りと退魔の剣が断つ姿を描いている。



 和紙のテクスチャーなどCG処理を組み合わせて、今までにない斬新な映像を生みだした話題作品で、2020年に行われたノイタミナ歴代70作品を対象とした投票企画「あなたが選ぶ思い出の3作品」(2005~09年度制作部門)では、堂々の第1位を獲得。放送から15年たった今もなお根強い人気となっている。



■新作製作への構想は当時の放送直後からあった



――先日行われたイベントにて、『モノノ怪』15年ぶりのアニメ化が発表されましたが、改めてプロジェクトがスタートしたきっかけを教えてください。



【山本P】 『モノノ怪の新作をやりませんか』という話は、中村監督の次回作を構想する度に話題に出ていました。たびたび2人の間では話題になってはいましたが、何年か前にも相談した際、中村さんに断られて(笑)。いろんな理由で成立せずにきましたが、今回ようやく実現にこぎ着けました。



【中村監督】 その時には別の作品を作っていてタイミングが合わなかっただけです(笑)。ずっと「いつかやれたらいいね」とは思っていたのですが、気づいたら15年経っちゃいました。



――新作が劇場版という形式になった経緯は?



【山本P】 必然として劇場版になったというか。もともと『モノノ怪』はテレビフォーマットの3~4話くくりだったので、テレビで前・中・後編として出すよりは、1本の怪談の映画としてまとめることは論じていて、ある時期に「劇場版で製作する」となりました。



■クオリティーを維持しつつ新たなエピソードを生み出すタイミング到来を確信



――今回、製作に踏み切った決め手は何でしょうか。



【山本P】 中村さんは本来的には“本当の新作”を作りたい人。自分も中村さんに完全新作をやってほしい気持ちもあるから、新作のやりたいことがあるうちはそっちをやった方がいいなと思っていました。止まっていたというよりは、タイミングの波長がぴったり合わなかった感じですね。今回、ツインエンジンで中村さんを監督に据えた制作チームを立ち上げるにあたり、『モノノ怪』の続編をやるか完全新作をやるかと、いくつか企画を並行して話す中、中村さんが続編を作ることを選んでくれたんです。



【中村監督】 そうですね。



【山本P】 今はもうだいぶエンジンがかかっていますが、中村さんは何を作るかを決めるまで長考しやすい方。それはいろんなことを考えているからで、お客さんのニーズやマーケットの動向、テーマ的なものも含め、どうしても時間は必要。だからチーム立ち上げの時、取りかかる順番は関係なく、「『モノノ怪』を絶対どこかでやりましょう」と約束してもらいました。



――なるほど。中村さんの性格を考慮して見通しというか道筋のようなもの作っておいたということなのですね。そのあたり、中村さん自身はどう考えられていたのでしょうか。



【中村監督】 深さとかいろんな種類のクオリティーを求められるので、いろいろな意味で『モノノ怪』は作るのが非常に難しい作品。旧作を見られた方の期待も裏切りたくないし、新しく見る人には楽しんでほしいしという部分で、果たしてやれるかという計算がなかなか立たなかった。言葉にすると一言ですけど、考えごとがたくさんありました。



――さまざまな想いが去来する状況を経て、今はタイミング的にも心境的にもGOを出せる段階になったと?



【中村監督】 そうですね。そういうことになると思います



■視聴者からの反響で激変した制作現場の雰囲気 掲示板の反響が手応えに



――現在振り返ってもクオリティーが高く、当時のファンからの評価も高かったと思いますが、そのころの反響で強く残っているものは何かありますか。



【中村監督】 当初はスタッフの半分以上が「やり過ぎなのでは」と不安な心境の中、全体の3割ぐらいの人たちが強引に引っ張っていた面もありました。『怪~ayakasi~ 化猫』序の幕の放送が終わった後、インターネット掲示板などで反響があり、不安だったスタッフもお客さんの反応を見て、「受け入れられている」と感じたようで空気が変わりました。



――絵柄のタッチもそれまでにない印象で、そういう意味で受け入れられてもらえるのか不安を感じる方もいた、と。



【中村監督】 今でこそ3DのCGを使うのは普通ですが、当時テレビシリーズであんなにフルフル全カット3Dみたいな作品はなくて。作業的にもワークフローも全部変えたのも大きかったかもしれません。



――ワークフローを変えるのはチャレンジングなことですね。



【中村監督】 作業の順番が変わるので、“拒絶感”というよりは「大丈夫か?」と。自分的には見てくれた方々のおかげで救われたというか、自信になりました。バックアップしていただいたなという印象が一番残っています。



――そんな挑戦的というか実験的な作品でしたが、山本さんはどう受け止められたのでしょうか?



【山本P】 画として、演出として、圧倒的に『化猫』が秀でていると感じ、歴史に残る作品だなと思いました。『四谷怪談』『天守物語』『化猫』という3本ある中、ほか2つも良かったですが『化猫』の視聴率が抜けていました。もちろん最初は続編を作るつもりでも続編のためのパイロットで作ったわけでもありません。とはいえ『化猫』だけは“別扱い”すべきだと思ったことは覚えていますね。



■中村監督、新作へのプレッシャーは「不思議なくらいない」



――さまざまなタイミングで話には上がっていたそうですが、結果的に時間が開いたことで、復活に対するファンの期待の大きさやプレッシャーなどは感じていらっしゃいますか?



【中村監督】 不思議なくらいないですね。準備を始めたころはいろいろ迷いも多く、道筋を決めるまでは弱気な時期もあったかもしれません。今はそこも終わり、「いかに良くするか」「いかに面白くするか」とやることが決まっているので迷いはありません。



自分で言うのも何ですけど、正直言うとみんな『モノノ怪』を覚えているのかなと思っていたので、期待が大きいのもむしろ良かったです。反響があったことで「作っていい」と思えました。反響がなかったらめちゃめちゃヘコんでいただろうし、山本さんに「やめましょうよ」と言っていたのでは。



――弱気な時期というものは、考えが熟成したから乗り越えられるのか、それとも一定の時間が経ったから乗り越えられるものなのでしょうか?



【中村監督】 両方じゃないですかね。



【山本P】 続編を作る上で、演出家として何を残し、何を変えるかといった無限の選択があり、そこが見えていないうちは決めきれない部分もあった。監督として「正しい選択ができるのか?」と考える時期は不安だったり迷ったりしますが、『モノノ怪』の踏襲すべき部分と変えるべきところの組み合わせが決まったので今は迷っていないし、プレッシャーがないということですね。



【中村監督】 今作はなかなかないタイプの内容になる予定です。どう感じるかはユーザーの方次第ですし、ある意味で個人の感想が“正解”だと思っています。最善を尽くすことが今もっとも重要ですが、時間が減っていくのが怖い(苦笑)。プレッシャーがあるとしたらそこ。そして、反響は大きければ大きいほど力になります。その方が皆さんにもより良いものが届けられると思います。相乗効果ですね(笑)。



■今の時代に対応した『モノノ怪』のエピソード 『H×H』新刊出た「感覚が強い」



――アニメ業界では近年、再編集や再アニメ化がトレンドの一つになっていますが、新作にこだわった理由は何かあるのでしょうか。



【中村監督】 再編集は最初から考えていませんでした。どちらかというと、『モノノ怪』という作品のコンテンツを増やす、プラスしていく方が重要という感覚がありました。時代も違えば世の中の問題意識も変わってきているので、対応した作品づくりをという想いもありました。



【山本P】 企画側で見ると、『モノノ怪』はアップデートしやすいというか、フォーマットがしっかりしているからやりやすい。足したり入れ替えたりしつつ、この先も都度アップデートしながら新作を続けてほしいと思っています。



【中村監督】 実は「もっと連作すれば良かった」とも思っていたので、シリーズものとして“新刊”が出た感覚が強い。例えば『HUNTER×HUNTER』のように、ユーザーも続きが見られたことがうれしいという。そこを僕らは出していかないといけないのでは。



―― “新たなエピソード”という表現がしっくり来ました。そのスタンスだと、まだまだ続くような流れになりそうですね。



【中村監督】 『モノノ怪』の新作を制作するにあたって難しさを感じていた部分も、新刊を出すとか続けていく感覚でやればいいことがわかり、迷いがなくなりました。いろいろな可能性があると思うので、多くの方の意見を聞きつつ大事にやっていけたら。もちろんユーザーの方々を裏切らないことが一番大事ですけどね。



■時間で劣化しないものを作りたい



――15年も経つと当時のスタッフが全員集結というのも状況的に難しく、新しい“血”も入れつつ新作製作とのことですが、作品の譲れない部分、核はどこになるのでしょうか。



【中村監督】 難しいですけど全体のバランスと、これはユーザーの心の中にあるような気がしていて。



――人が心の中に抱えている“暗い部分”というか“業”といったようなものですか?



【中村監督】 そうですね。あと個人的には、人の心に長く残ることを大事に考えています。旧作も今回初めて見る方もいると思いますが、その人が見て泣いてくれることが大事。時間で劣化しないものを作りたい。



――たしかに以前のエピソードは今見ても刺さります。多くのこだわりがあると思いますが、製作過程で一番大切にしているポイントを教えてください。



【中村監督】 全部ですけど、やっぱり画面全体から読み取れるテーマを豊かにする意味性や色彩、怪しい不思議な音響、独特な静と動のテンポ、定型にはまらない声優さんの演技の魅力などですかね。今のアニメーションのトレンドとは違いますが、そこはブレずにいきつつアップデート感も入れていく。いろいろこだわっています。



――楽しみにしています。最後に今回の発表を機に『モノノ怪』に初めて触れる方に見てもらいたい部分や、前作を見た人たちには期待を裏切らない見どころを、現時点で言える範囲でお願いします。



【中村監督】 モノノ怪を斬るときのカタルシスですね。作品としてはミステリーのようなホラーのような、あるいはヒーローもののような、しかもちょっと時代もののような、いろんな要素が入っています。引いた目で見るとシンプルだけど、近づいていくと複雑という部分の面白さは維持したいし、ユーザーの方が「自分の話かな?」と思えるようにとは考えています。



あとはとにかく薬売りのカッコよさを見てもらえれば。彼は非常に芝居がかった感じでカッコよく立ち回っていくので、彼を追いかけてくれれば作品は面白くなると思います。期待していてください。



取材・文:遠藤政樹/編集:櫻井偉明

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