発達障害テーマのEテレ『でこぼこポン!』、当事者のリアルを反映「特性の背景は生の声を聞かないと分からない」

発達障害テーマのEテレ『でこぼこポン!』、当事者のリアルを反映「特性の背景は生の声を聞かないと分からない」

 鳥居みゆきが出演することで話題になった、“発達障害”をテーマとした特別支援教育番組『でこぼこポン!』(NHK Eテレ)。4月よりレギュラー番組化し、その内容は「人との関わり方や人の気持ちを理解する参考になる」「楽しく生きることへのヒントがある」など、大人が見ても学びがあると反響を呼んでいる。どのような意図で番組制作にいたったのか、同番組のディレクター岩田大輔氏に話を聞いた。



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■鳥居みゆき起用の決め手は千差万別の特性を演じ分ける力と笑いの力と瞬発力



 同番組は発達に「でこぼこ」がある子どもたちにとって、よくありがちなシチュエーションやそのサポート方法を描いたドラマをメインに、ゲームや体操などのコーナーも盛り込まれている。ドラマは、じっとしているのが苦手な発明家“でこりん”(鳥居みゆき)、集中すると人の話が耳に入らなくなる“ぼこすけ”、言葉を話す不思議な生き物“ポン”(声:河合郁人)の3名のやりとりで展開。番組スタート時には、でこりんを演じた鳥居みゆきのインパクトが強く、「あの鳥居みゆきがNHKに!?」「子どもと会話をしている」とSNS上で大きな話題となった。ディレクターの岩田氏は、キャスティングの意図について「奇をてらったとか、予想外のキャスティングを意図したということはまったくなく、番組の内容や狙いを考えていたら、自然と鳥居さんの名前があがりました」と振り返る。



「ドラマは、発達が気になる子たちへの取材を元に制作していますが、一口に“発達が気になる”といっても、すぐに動き回ってしまう子もいれば、人とのコミュニケーションがとりにくい子など、その特性は千差万別です。演者には幅広く演じ分けられる力が重要でした。さらに、基本的に真面目な番組なので、笑いの力も欲しかったですし、10分間という短い放送時間の中で一瞬にして子どもの心をつかめる瞬発力も欲しかった。これを全部叶えてくれる人っているんだろうかと考えた時、思い浮かんだのが鳥居さんでした。実際、演じていただいていて、想像以上にハマっているなと感じています」



 岩田氏は、発達が気になる子どもたちが学校や社会生活の中でつまずきやすい事柄を題材に、解決する手立てを紹介した『スマイル!』に携わったことをきっかけに、Eテレの特別支援教育番組の制作に参与。 『でこぼこポン!』を企画したのは今から3年前のことで、そこには2つの動機があったという。



「ひとつは2018年に、NHKが『発達障害って何だろう』をテーマに、様々な番組で発達障害についてお伝えするキャンペーンを行ったことでした。参加する中で、発達障害に関する認知が社会全体の中で高まってきていることを感じつつも、もっともっと当事者の子どもたちへの支援が必要だと感じ、役に立つ番組を作りたいと考えました。



 もうひとつは、発達障害に対する認知が高まる一方で、まだまだ正しい理解がなされていない部分が残っているなと感じたことでした。発達障害は見た目からはわかりにくいことが多く、例えば、本人は悪気がなく、自分の感じたままに行動しているのだけれど、周囲からは、さぼっているとか、衝動的でわがままなどと誤解を受けることが多々あります。ですから、番組を通して、当事者が実際はどう考えているのかを広く知ってもらうきっかけを作れればと考えました」



■河合郁人の声が「落ち着く」と高評価の“ポン”、でこぼこがある子どもの“応援団”



 ドラマ作りにおいては、「かなり珍しいくらい専門家としっかりコミュニケーションをとりあっている」そうで、そのやりとりの中から、岩田氏自身、日々、気づかされることは多いという。



「例えば、“何かに夢中になると人の話を無視する”という特性に対して、普通なら無視しないようにするためのサポートを紹介しますが、その打ち合わせで、『夢中になるということはいいことでもある』と専門家からアドバイスをいただきまして、番組では、〈“苦手”の見方を逆転させる〉アプローチでドラマを作りました。見方を逆転させると、“とても集中力がある”とも言える。自分が短所だと思う部分も、見方を変えれば長所なのだと伝えたかったんです。発達が気になる子の中には、自己肯定感が低くなってしまう傾向にある子もいます。発想を逆転させてみて…とメッセージを伝えられたのは、日々、当事者と向き合っている専門家のアドバイスがあってのことだと思います」



 そんな専門家をロールモデルとしている登場人物が、不思議な生き物のポンだ。発達がでこぼこで苦手なことが多い、でこりんとぼこすけは、ポンにアドバイスをもらいながら、いろいろなことを練習したり、挑戦したりしながら、自分の苦手とうまくつきあっていく。とはいえ、「ポンを決して何でも知っている万能で完璧な先生にはしたくなかった」と岩田氏。その裏には、当事者と関わる保護者への思いがあった。



「日々、当事者と関わっている保護者の方は、うまくいかなくて悩むことや感情的になることもあると思います。そういうときにポンを見て、立ち返れたり、こうすればいいんだと思えたり、少しでもポンの存在が助けになればと思い、ポンは当事者の気持ちや立場に寄り添って、考えたり話したりする当事者の応援団という位置づけにしています」



 その言葉どおり、視聴者から「悩みを相談できる人がいない中、この番組は共感していただけているような、味方をしてもらっているような気持ちになってうれしかった」という保護者からの感想が寄せられたことがあったそう。



 さらに、パペットのポンの声を演じるA.B.C-Zの河合郁人も、「優しくていい声」「本当に落ち着く」とSNS上に賞賛の声が多数挙がっている。



■当事者への取材でリアルな言葉を伝える…でこぼこの特性と困りごと



 ドラマ制作において、テーマと内容を決めた後には必ず、当事者に取材をしているのも、この番組の大きなこだわりだ。



「当事者の取材をしなくても、専門家の方々のご協力だけで、番組は作れると思います。ただ、番組の心構えとして、当事者に寄り添いたいという強い思いがあります。やはり、当事者の生の声を聞いてみないと見えないこと、わからないことはたくさんありますので、事前の取材は大切にしています」



 だからこそ、ドラマには、リアリティのある言葉がたくさん紡がれている。例えばこんなセリフがある。〈文字が読めない〉をテーマにした回でのこと。「読もうとするほど、字がバラバラになって逃げていく。この本に私は嫌われている」というセリフは、取材の際、当事者が発した言葉が元になっている。



「当事者に話を聞かなければ、このようなセリフは生まれませんでした。リアルな言葉は、いかにこの特性が大変か、当事者は困っているかということが端的にわかります。この番組では、そういう部分をしっかり取り入れていかなければいけないと考えています」



 まだまだやりたい企画は山ほどあると岩田氏。役に立つ番組にすることは番組作りの土台だが、「役に立つから見る」ではなく、「面白いから見たら役に立った」と言ってもらえる番組になるよう日々、熟考しているという。



「一見突飛に見える行動や考え方でも、その理由や背景が見えればコミュニケーションがとりやすくなりますし、それによって世の中がもう少しハッピーになるのではないかと思います。そういうきっかけにこの番組がなれるよう、発達が気になるお子さんや保護者、支援者の方だけでなく、老若男女いろいろな方に見ていただけるような番組にしたいと思います。でこりんもぼこすけもポンもまだまだいろいろな面をこれからも見せていきますので、楽しんで観ていただけたらうれしいです」
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