「ガーシーは沈みゆく日本の象徴」担当編集者・箕輪厚介がガーシー本を暴露本にしなかったワケ

「ガーシーは沈みゆく日本の象徴」担当編集者・箕輪厚介がガーシー本を暴露本にしなかったワケ

 今年の2月にYouTubeチャンネル開設以降、連日のように話題になり、ついには参議院議員にまでなったガーシーこと東谷義和氏の著書『死なばもろとも』(幻冬舎)が、Amazonでの売れ筋ランキング総合1位を独走し、注目されている。その編集を担当したのが幻冬舎で話題の書籍を連発する編集者・箕輪厚介氏。「僕もさらされる側だと思っていた」と語る箕輪氏が、なぜ本書を企画したのか。編集者としての自身の立ち位置や矜持について聞いた。



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■「変な地雷を踏んで、攻撃されるのも嫌だな」葛藤を抱えながら、ガーシーと“邂逅”「今、飛び込まなかったらダメだろうと」



「実は僕も(東京都)港区でよく遊んでいるので、『東谷義和のガーシーch』(現在はアカウント停止)はよく見ていました。何せ、暴露予定であるホワイトボードに書かれた人物たちも僕の知人ばかり。さらにはガーシーさんがTwitterでフォローするのは“宣戦布告”、つまり暴露する予定の人だとおっしゃっており、僕もフォローされていたんです。“え、俺、さらされるの?”と思ってました(笑)」(箕輪厚介氏/以下同)



 箕輪氏が本を作る原動力になるのは「面白いもの」「今、気になっていること」。故にガーシー本を作りたいとも考えたが、自身が“さらされる側の人間”である上に、『ガーシーch』の内容はあまりに過激だし、本にするには危険。「変な地雷を踏んで、攻撃されるのも嫌だな」と悩んだと言う。



 箕輪氏はこれまで、与沢翼氏や堀江貴文氏、カルロス・ゴーン氏のような、常識からやや逸脱してきた人物や、逮捕された人物、逃亡している人物などを率先して書籍化してきた。だが、近年はビジネス書などのヒットで有名な起業家とグルメを楽しんだり、VIP対応されている。そんな“ホワイト”な自分に嫌悪感も持っていた。



「人生としては楽しいのかもしれませんが、そんな権威ある場に自分がいるのは、編集者としては“クソ”だな、と。編集者としての僕は面白いか面白くないかが判断基準。面白いモノ、この世あらざるモノは、いかがわしいところやグレーゾーンに堕ちている。なのに僕は昨今、グレーゾーンに飛び込まないようになっている。そんな葛藤があった中で、今、ガーシーさんに興味があるのに、ややこしそうだからと飛び込まなかったらダメだろうと。そんなある日、ガーシーさんがTwitterのスペースでトークをやっていたんです」



 意を決してリクエストボタンをタップした。そして切り出しのだ。「ガーシーさんの本を作りたい」と。それが箕輪氏とガーシーの“邂逅”であった。



■ガーシーは“今の社会における不満が生み出した”「第三のガーシーは今後どんどん出てくるのではないか」



 果たして箕輪氏はガーシーに“さらされる”側だったのか。答えは「NO」。ガーシーはこう語った。「箕輪さんの暴露ネタはないですよ。ただ、気になるからフォローしていただけです」──。そこから本の制作が始まった。場所は家族旅行で行っていた埼玉県の山間部・秩父。JAの隅っこの席を借りてガーシーの住むドバイとネットでつないで作った本が社会現象となっているのは、今らしい話だ。



 その際、参議院選挙の話や暴露などの話題は同書であまり取り上げないことに決めた。まず1つの理由は「そういったものは“ナマモノ”なので印刷に2週間もかかる書籍の世界ではネット社会のスピードでは古くなってしまう」。もう1つは、自身が一度“文春砲”にさらされた経験があったからだ。



「どんなことでも、こっち側から見た景色とあっち側から見た景色は違う。事実も何をどう取り上げて並べるかで見え方が全く変わる。そしてSNS社会では一度炎上してしまったら終わりなんです。何を言っても“反省してない”と攻撃されるし、家族や仲間まで炎上させられる。ガーシーさんは良くも悪くもそこを利用しているのですが、僕は編集者として“ガーシーという生き方”を切り取りたかったので暴露自体は目的にしないと決めていました」



 週刊誌や新聞などオールドメディアとガーシーには、同じ暴露でも違う面があると言う。「週刊誌さんや新聞は裏取りをして完璧にパッケージしてからそれを提出する。ですがガーシーさん、ひろゆきさんもそうですが、日本の法律が及ばない海外からしがらみも忖度なく、社会の暗部にズバッと意見を言う。さらに例えばガーシーさんはさらす人の名前を出すなど“釣り糸”を垂らす。そこにユーザーからどんどん情報が集まってくる。要は“問い”だけ出して、ユーザーと一緒にネタを追求していく。それも週刊誌記者と違い、自分の顔も名前もさらしながら。良くも悪くもですが、これがSNS時代にはウケる。旧来の記者にとっては邪道だと言われるでしょうが、『ジャーナリズム2.0』なんじゃないかなと捉えてます」



 箕輪氏はそんなガーシーが生まれた理由を「今の社会における不満が作った」と分析する。日本の超高齢化社会と格差社会。ガーシーも同書で触れているが「年を取って歩けないような老人がまだ権力の座にいる。早く引っ込め」、そういった不満がまずある。また港区ではサラリーマンが汗水垂らして稼ぐ1ヵ月の給料を、経営者や芸能人がひと晩で使い、さらに可愛い女の子をお持ち帰りしている。そんな人たちが堕ちる姿を見たい。そういったルサンチマンがガーシーの受け皿となり、暴露系がもてはやされるのではないかと。



「僕は社会に頼るより自分で頑張って解決しろ派。成功者を叩いてほしいという人に個人的には共感はないが、これは沈みゆく日本の象徴であるのは事実。その受け皿としての第二、第三のガーシーは今後どんどん出てくるのではないか」



■オンラインサロン、サウナプロデュース、YouTuber…それでもなお“紙の編集者”に固執する理由



 ところで昨今は、出版不況と言われて久しい。箕輪氏も、オンラインサロンやサウナプロデュース、YouTubeチャンネルなど、紙の編集者という枠組みを超えて多角的に活動している。そんな中、箕輪氏が「紙の編集者」でい続ける理由はなんだろう?



「いろいろやって来ましたが、僕が最も力を発揮できる場所が紙の編集者なだけです。業界は斜陽。出版社自体が復活するのは難しい。でもヒット本を出すこと自体は難しくない。その為に10年前からSNSを活用していました。フォロワーを増やし、さらにコミュニティーを作るなどして、僕自身が読者を持てばいい。それに編集者が“黒子”でいる時代は終わった。技術が発展しどの業界も商品力自体で競争するのは難しい。そもそも情報があふれ発見されることすら至難の業。だから誰が作ってるかでモノを選ぶようになってます。会社員だろうがシェフだろうが店員だろうが、名前を出して勝負する時代かもしれません」



 もっとユニークな理由も。「僕は権威ぶってるものが嫌いで、しかも、好き、嫌い、面白い、面白くないで仕事をしています。幻冬舎でも上司部下もいない1人の部署ですし、出版業界の飲み会も絶対声がかからない(笑)。本で取り上げる人もグレーな感じの人も多い。そんな人間だからでしょうが、“編集者” “サラリーマン”、そういった“社会適合者”としてのポジションを大切にしてるんです(笑)」



 NewsPicksBookもヒットし、毎年のようにビジネス書大賞も獲るが、だからと言って“偉そう”な自分は嫌い。「僕が毎年のように賞を取るぐらいですから、賞なんて権威でも何でもなく、単なるビジネスモデルなんですよ」と冗談を交える。



 彼がそんなフラットな立ち位置にいる理由は、グレーであろうがホワイトであろうが、自分が気になるものにフットワーク軽く、パッと飛びつくため。権威を持つと例え面白くともグレー方面へは行きづらくなる。逆にグレーに引っ張られる恐れもある。あくまでも「面白い、面白くない」でフラットに判断する編集者でありたい。



 「将来の夢はプール付きの家に住むこと」と子どものような一面もある。エンタメの多様性で紙業界は大きな打撃を受けた。だがその“爆心地”で箕輪氏は楽しそうに子どものように遊ぶ。そんな彼だからこそヒット本を続出させられるのかもしれない。



(取材・文/衣輪晋一)
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