加賀職人の“金箔ガンプラ”に反響、不況で賃金低下が限界突破…伝統産業の復活目指し「不要なものと思われない努力が必要」

加賀職人の“金箔ガンプラ”に反響、不況で賃金低下が限界突破…伝統産業の復活目指し「不要なものと思われない努力が必要」

 モデラーとしてSNSで作品を発表しているもっさんさん(@tkmotsu1)は、とある技法の使い手として知られた存在。それは、自身の稼業でもある金箔。加賀・山中漆器を中心に金箔工芸の職人としての技術を惜しみなくガンプラにも生かし、作品を発表している。そんな同氏は、8月に最新作『RGゴッドガンダム』を発表。1.3万リツイート、3.6万いいねを集め、多くの賞賛の声が上がった。「20体ほどの“金箔ガンプラ”を作ってきたが、ここまでバズるのは初めて」という同氏は、なぜ“金箔ガンプラ”を作ろうと思ったのか? そこには、衰退する伝統工芸産業への熱い思いが隠されていた。



【写真】「金箔の輝きスゲェ!」「高級感…」百式、リックドム、ズゴック、武者ガンダムなど…金箔モデラーの“ゴージャスMS”作品集



■リーマンショックの影響で漆器業界も仕事減「ガンプラに金箔を貼って何とか注目を」



――本作を含め、多くの“金箔ガンプラ”を制作されていますが、そもそもどういうきっかけで始められたんですか?



【もっさん】自分の家は、石川県加賀市の山中漆器の産地(山中温泉)で50年続く金箔工芸品の製造業を営んでおります。私は、機械メーカー勤務を経て実家を継いだのですが、父の指導を受けながら3年が過ぎた時、リーマンショックの影響で漆器業界の仕事量が落ち込みました。うちも例外ではなく週休3~4日状態になってしまいました。



――リーマンショックは、伝統工芸にまで影響を及ぼしていたんですね…。



【もっさん】はい。自分たちの仕事は金箔工芸の中でも漆器等にスプレーガンを用いて接着剤を塗装し金箔を貼る技法でお客様の要件を満たす「金箔押し」をすることです。注文が入らないことには仕事になりませんし、手を止めていては持っている技術も錆びていきます。「何か金箔を貼って周りの注目を浴びるもの」を探していた時に、ガンプラに目が行きました。「百式に純金箔を貼ったら、きっと面白い」と父に提案してMG百式の外装に純金箔を貼ることになったのが“金箔モデラー”としての始まりです。プラモデルに金箔を貼りだして約15年、制作するのは百式をはじめとする金色のガンプラが多く、これまで20体ほど発表してきました。



■何にでも食用金箔を用いたことで、金箔が「豪華なふりかけ」に変わってしまった



――加賀といえば、金箔というイメージがありますが、現実問題、そんなに厳しい状況なのですか?



【もっさん】うちの工房は山中漆器や屏風など、金箔工芸品の大量製造を行っていますが、加賀市内に40年前には30軒ほどあった金箔工房も、近年ではたった2軒しかなくなりました。



――なぜそんなに急激に減ってしまったのですか?



【もっさん】現在では贅沢・豪華なイメージが強い金箔工芸ですが、塗装や蒔絵に比べて、仕上がりまでの手間の多さ、くず箔などの始末の悪さから他の職人から敬遠され、多くの金箔工芸職人が塗師屋(漆器のスプレーガン塗装業)や蒔絵師に変わってしまったこと、相次ぐ不況の影響で廃業してしまったことだと聞いております。



――SNSでは、ソフトクリームなどさまざまな料理に金箔をのせた料理がアップされていますが、そんな現実があったのですね…。



【もっさん】そんな中でも、私たちは、お客様のリクエストに出来る限り答え、研鑽し続けてきたことが現在まで生き残ってきた要因と自負しております。ところが、近年の“映え”ブームの影響で、何にでも食用金箔を用いたことで、美術材料としての金箔が「豪華なふりかけ」に変わってしまったのです…。



――「豪華なふりかけ」…。



【もっさん】でも、最近では、各金箔メーカーによる“箔貼体験”も非常に人気の高いものになり、我々も少しずつ注目されるようになってきました。



――金箔の本来の素晴らしさに目を向けてもらおうと各メーカーさまざまな取り組みを始められたわけですね。もっさんさんも、ガンプラを使って、一般の方々に金箔により親しんでもらおうと思われたわけですね。



【もっさん】そうですね。SNSではいろいろな職人さんが、それぞれの技術で変わった物をアップするとバズる傾向にあり、自分も“金箔ガンプラ”をアップすれば、すぐにバズるものと信じていました。しかし実際はそんなに甘いものではなく、女性モデラーさんが作った『金箔百式』に大差を付けられる結果でした。



――技術が確かでも、バズるわけではなかった。



【もっさん】はい。正直、自分の中に驕りがあったのだと思います。SNSで上手くいかないなか、小松市に「つくるカフェKawai i naruki」という模型製作スペースがあることを知り、そこの店長さんから模型展示会へ“金箔ガンプラ”を出展することを勧められました。それからは石川・福井での展示会に出展したところ、多くのモデラーさんの目に留まり、ツイッターフォロワー数やモデラーの知り合いを増やすことが出来て、“金箔ガンプラ”に対するSNSの反応も次第に増えていきました。



■SNSを使って発信に前向きではない職人も「世間から不要なものと思われない努力が必要」



――“金箔ガンプラ”には、職人としての技術が惜しげもなく込められていると伺いました。



【もっさん】自分が“金箔ガンプラ”を制作するうえで一番大切にしていることは、箔押しの際に仏壇・仏具のような輝きを出さないように金箔を貼ることです。貼った際に出るシワを見せる事で、作品を見てくれる全ての人に塗装でもメッキでもない質感を感じてもらえると、金箔工芸の技術力が伝わると信じております。また、『ゴールドフレーム天ミナ』『スコープドッグ』などの外装が金色でないものでも、虹彩箔と呼ばれる着色銀箔を用いることで、金箔職人としての技術を見せる手段にしております。



――細かいところまで素晴らしい技術ですね。



【もっさん】ありがとうございます。昨年から箔押し作業中の動画をSNSやYouTubeにアップするようになったのですが、その中のコメントで「雑に手を動かしているだけで、どうしてこんなにきれいになるのか分からない」というコメントをいただき、面白かったです。



――こうした素晴らしい技術を、ガンプラという親しみやすいツールを使って、多くの人に発信していくことは、衰退する伝統工芸を次世代に伝えるという役割もあるような気がします。もっさんのように、職人さんがSNSをうまく活用していけば、と思うのですが…。



【もっさん】私がSNSでアップした作品や動画がバズったことを漆器の仕事に携わる友達に伝えると「すごい」、「自分にもやり方教えて」と言われますが、実際に教えるために誘ったりしても「お前だから出来る」、「面倒くさい」と言われることが多いです。SNSを利用しなくても仕事があるのか、「能ある鷹は爪隠す」職人でいたいのか分かりませんが…。

 伝統工芸の漆器職人としては、自分がいなくなったとしても持っている技術は後世に伝承させなければいけないものだと思いますし、世間から不要なものと思われない努力が必要です。その為にSNSや作業動画での自己アピールは職人にとっては今後不可欠なものになっていくと考えますが…。



――なかなかうまくいかないものですね。



【もっさん】はい。もう一つ問題なのは、現代の職人自体に技術の向上・研鑽に使えるお金や時間が少ないこと。こういった背景には、バブル崩壊後の不況続きで職人の工賃が限界まで下がったことや、職人の高齢化・若手職人の減少といった、どこの漆器産地でも話題になっていることが主な要因と考えます。メーカーさんや問屋さんにも漆器を高く売る技術を磨いていただき、我々の作業工賃が上がる環境づくりも必要だと思っています。



――課題は多いわけですね。でも今回のガンプラをきっかけに、こうした現状が分かってもらえるといいですね。



【もっさん】そうですね。作品の完成をお知らせしたツイートは、自分が体験したことのない速度で3.6万ものいいねを獲得し、フォロワーさんの数も倍近くに増えました。頂いたコメントや引用ツイートのほとんどが驚きや称賛の声で、金箔ガンプラでこんなに喜んでくれる人たちがいることで「金箔ガンプラを制作し続けて良かった」と心の底から感じております。これからも、応援していただけるように、作り続けていきたいと思います。
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