ディズニープラスで世界へ、制作統括が日本発オリジナル作品の戦略を語る

ディズニープラスで世界へ、制作統括が日本発オリジナル作品の戦略を語る

 有料動画配信サービスのブランドとして認知・加入者を伸ばしている「Disney+(以下、日本の「ディズニープラス」はカタカナで表記)」(※1)。NHKエンタープライズ(NEP)と共同制作したドラマシリーズ『拾われた男』が大きな話題を呼んだばかりだが、今月14日からスタートした『すべて忘れてしまうから』を皮切りに、『シコふんじゃった!』、『ガンニバル』の3作品が、ディズニープラスの6つ目のコンテンツブランド「スター」のオリジナル作品として、日本から世界へ順次配信される。ウォルト・ディズニー・ジャパンでオリジナルコンテンツの制作統括をしている成田岳氏が、ORICON NEWSのインタビューに応じた。



【動画】成田氏の「かけがえのない1本」はSF映画の金字塔



 成田氏は、大学卒業後、1997年にフジテレビに入社。ドラマ制作に従事し、連続ドラマ『サプリ』(2006年)、『プロポーズ大作戦』(07年)、『ヴォイス〜命なき者の声〜』(09年)、『東京DOGS』(09年)などを担当したほか、数々のドラマ制作に携わってきた。19年よりウォルト・ディズニー・ジャパンに転職して、今に至る。



 Disney+はNetflixやAmazon Prime Videoなどと同じ、月額料金を払うことで、映画やドラマを無制限で視聴できる「SVOD」というサービス。2019年11月12日にアメリカ、カナダ、オランダでサービスを開始した後、ヨーロッパ、南米、アジア・オセアニアで展開し、パンデミックによる巣ごもり需要や独占配信作品である『マンダロリアン』、『ワンダヴィジョン』などのキラーコンテンツにより、異例のスピードで加入者を増やし、Netflixが約10年かかった1億人の大台を突破した(※2)。



■ディズニーの強みはタッチポイントの多さ



――日本では2020年6月11日にサービスが開始されて2年ほどですが、街頭ビジョンや広告看板、交通広告でディズニープラスの作品を目にしますし、あっという間に認知が広がったと感じます。



【成田】それは僕らも本当にうれしく思っています。テレビ局時代、自分がかかわっている作品が多くの人に楽しんでもらえているかどうか、街を歩いている時や電車の中、飲み屋などで、どれだけタイトルや登場人物の名前が耳に入ってくるか、というのを一つのバロメーターにしていました。ある時期、「Netflix」がやたら耳に入ってきたことがありましたが、ディズニープラスも早くその状態にしたい、と思って転職したのが3年前。今、少しずつ聞こえ始めてきていて、いい傾向にあるのかな、と思っています。



――Disney+(ディズニープラス)の強みはどこにあると思いますか?



【成田】ウォルト・ディズニー・カンパニーは来年(2023年)100周年を迎えます。100年にわたって積み重ねてきた、圧倒的なディズニーブランドがすでにあることが、何よりも強いと思います。戦前には映画、戦後にテレビができて、最近、配信サービスが加わったわけですが、基本的にディズニーがやっていることは、創業の頃から一貫していて、変わっていないんです。それは優れたストーリーテリングで、世界中の人々に楽しんでもらう、というとてもシンプルなこと。それをずっとやってきたし、これからもやっていく。その自負、自信は大きいと思います。



 もう一つ、ディズニーは多くのタッチポイントを持っている会社なので、商品、テーマパーク、書籍、ゲーム、テレビ、音楽などさまざまなタッチポイントから興味を持ってくださることもありますし、いろんなところで視聴者に対して作品の良さを訴求できるというのも強みだと思います。



■話題のドラマ『拾われた男』が配信された「スター」とは?



――ディズニープラスは、「ディズニー」「ピクサー」「マーベル」「スター・ウォーズ」「ナショナル ジオグラフィック」の5ブランドでスタートし、昨年10月に「スター」が加わりました。「スター」では、20世紀スタジオやサーチライト・ピクチャーズ、さらには日本のテレビ局が制作したドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』、『マイ・ファミリー』(以上、TBS)、『金田一少年の事件簿』(日本テレビ)、さらには、NEPとの共同制作ドラマ『拾われた男』などが配信されてきました。この「スター」というブランドについて教えていただけますか?



【成田】「ディズニー」「ピクサー」「マーベル」「スター・ウォーズ」「ナショナルジオグラフィック」以外のディズニー・グループの作品(20世紀スタジオやサーチライト・ピクチャーズなど)や、大人向け作品の受け皿として、総合エンターテインメント・ブランド「スター」が導入されました。



 また、従来のディズニーのイメージに留まらない多種多様なテーマやジャンルの映画・ドラマ・アニメーション作品を、それぞれの国の才能あふれるトップクリエイターや俳優たちと協働して制作するローカルコンテンツも「スター」で配信していきます。



 世界中に同時配信できる環境を生かして、これまで日本で劇場公開されることのなかった海外の作品を観ることができますし、日本の文化・精神性に根差しながらも普遍的なメッセージの込められた物語を世界へ配信することができます。もちろんこれまでの作品と並んで恥ずかしくないものを作っていかなければならない、という責任も感じています。



■日本発「スター」オリジナル3作品について



――9月14日に独占配信開始した『すべてを忘れてしまうから』は、ハロウィンの夜に突如姿を消した恋人“F”をめぐる、ミステリアスでビタースイートなラブストーリー。流されるままに生きるそこそこ売れっ子のミステリー作家“M”を阿部寛さんが演じます。どんなことを期待していたらいいでしょうか?



【成田】今最も注目される作家である燃え殻さんの同名エッセイを原作に、物語の世界で登場人物と一緒にいるような体験ができるような作品を目指して、岨手由貴子さん、沖田修一さん、今年のアカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』の脚本を濱口竜介監督と共同で手がけた大江崇允さんが監督・脚本を担当し、ドラマオリジナルの物語を紡ぎだしてくれました。玄人好みなストーリーテリングの妙を味わっていただけるのではないでしょうか。大人の恋愛ドラマでもあり、ミステリーでもあり、2度、3度と、繰り返し見たくなる作品になっていると思います。



――10月26日独占配信開始の『シコふんじゃった!』は、1992年に公開され、当時大きな話題となった映画『シコふんじゃった。』の30年後、またもや廃部の危機に直面する教立大学相撲部を舞台に繰り広げられる、廃部寸前の相撲部に入部した“崖っぷち”大学生の亮太(葉山奨之)と、たった一人の相撲部員の穂香(伊原六花)の青春ストーリー。



【成田】だいぶ前からやりたかった企画です。映画『シコふんじゃった。』の監督・脚本を務めた周防正行さんに相談したところ、総監督を務めてくださることになりました。主人公の一人が“相撲一筋“の女の子という新しい要素が盛り込みこまれている一方、30年前の作品に登場したキャラクターも出てくるので、旧作のファンも温故知新を楽しめると思います。相撲という日本的な要素もありつつ、世界中の人々が共感できる成長物語になっています。



――12月28日に独占配信開始の『ガンニバル』は、柳楽優弥が演じる、山間の供花村に赴任してきた駐在・阿川大悟が主人公。村の人々は大悟とその家族を温かく受け入れ、大悟も村になじめるよう努力を続けていた。そんな中、山中で老人の遺体が発見されたことを契機に、大悟は村の異常性に気付き、「この村の人間は人を喰っている」という疑念に囚われていく驚愕のサスペンス。



【成田】二宮正明さんの原作漫画は、人間の本質を問いかけてくるとても複層的な物語だと思いました。『ウォーキング・デッド』がゾンビものというジャンルの作品でありつつ、生き残った人間たちの交流や戦いを描いたヒューマンドラマでもあったように、『ガンニバル』も猟奇的で、息も尽かせぬ緊迫感を楽しんでいただくだけでなく、法を守る警察官と村の風習を守る者たちとの対立をそれぞれの立場から描き、わかりやすい善悪ではない、常識を揺さぶるような作品を目指しています。



■SVODはテレビを上回る娯楽になるか?



――大人の恋愛・青春物語・サスペンス人間ドラマと三者三様ですね。ディズニープラス「スター」の日本発オリジナル作品でこだわっていきたいことは?



【成田】原点回帰ですね。ひと昔前は当たり前のようにやっていたことが、いろんな制度疲労でできなくなってきているのではないか、と思うところがあります。「どんなオリジナル作品をラインナップに加えたいと思っているのか? ジャンルは? ターゲット層は?」とよく聞かれるのですが、僕らは「それを1回忘れてください」と返します。やはり原点は、どんな物語を語り伝えたいか、だと思うんですね。非常に青臭いことを言いますが、逆にそれが一番近道だと考えます。



 例えば知名度のある原作と人気俳優を起用すれば一時的にバズるかもしれないけれど、良質なコンテンツを作れるかどうかはまた別の問題。一過性のものではなく、長期的に価値を提供し続けられるコンテンツを、しっかりした意欲を持って制作に取り組む志の高いクリエイター&キャスト陣と、ともに作っていきたいと思っています。



――SVODはテレビを上回る娯楽になると思いますか?



【成田】日本は米国とは異なり、テレビは基本的に無料で視聴できるものですし、「ドラマを見るのにおカネを払うなんて考えられない」という心理は根強いと思います。それは日本のテレビ局が優秀で、70年近い歴史もありますし、毎日、毎週、これほどたくさんのシリーズ番組を作って放送している国は、世界を見渡しても珍しいのではないでしょうか。日本の総人口を考えても、インターネットを介した動画配信サービスの普及率はまだまだ高いとは言えません。でもそれは伸びしろがまだまだあるということ。これからだと思っています。我々としては、お金を払ってでも観たいと思える価値あるコンテンツを作っていく、それに邁進するしかないと思っています。



(※1)GEM Partners「動画配信/放送/ビデオソフト市場 ユーザー分析レポート(2021年11月調査版)」によると、「ディズニープラス」は2020年時点でのシェア3.9%から2021年は6.0%に増加、シェアランクも前年8位から6位に上昇し、前年と比べて最も規模が拡大したと報じている。



(※2)米ウォルト・ディズニーが2021年2月11日に第1四半期(2020年10〜12月)決算を発表した際、「Disney+」の世界の加入者数が約9500万人に達し、1年前のほぼ4倍に増加したこと、同年3月9日に1億人の大台を突破したことを発表した。

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