SKY-HI、内需にこだわることへの危機感 形骸化したシステム「業界全体で変えなきゃいけない」と警鐘

SKY-HI、内需にこだわることへの危機感 形骸化したシステム「業界全体で変えなきゃいけない」と警鐘

 BE:FIRSTらが所属するマネジメント/レーベル「BMSG」代表取締役CEOを務めるSKY-HIこと日高光啓が11日、都内で行われた『SOCIAL INNOVATION WEEK 2022』stu SPECIAL SESSIONに登壇し、日本が世界と競争していくためにアップデートするべきことについて議論した。この模様は、きょう12日に配信された。



【写真】貴重なBE:FIRST/BMSGのMV4作品比較データも公開



 本イベントは、『NHK紅白歌合戦』で話題になった「AI 美空ひばり」や、嵐のラストライブの演出、バーチャル渋谷内でのライブなど、最新テクノロジーを駆使した映像制作~リアルイベントの空間演出などを手がける新興クリエイティブカンパニー「stu」が、各方面の有識者を招いてトークセッションを行った。



 SKY-HIは、自身がプロデュースするBE:FIRSTのミュージックビデオのプロダクション業務を同社が手がけてきたことが縁で、3部構成の第3部(SESSION3)に登壇。田中眞一氏(脚本家・映像監督)、黒田貴泰氏(株式会社stu CEO)、ローレン・ローズ・コーカー氏(株式会社stu COO)とともに、日本のエンタメコンテンツからグローバルヒットがなかなか生まれない理由を制作背景からひも解き、海外の制作事例から、日本がアップデートするべきことについて議論した。



■国内需要にこだわる危機感「とても危ない」



 stuの黒田氏はまず、アジアエンターテインメントの大きな流れは「ゲームを除くと、88rising、K-POP、韓国ドラマ、タイドラマ、日本アニメ」が代表的とし、SKY-HIも「自分も同じような感覚です。流行りものになるかもしれなかった88risingがクリエイティブコレクティブとしての存在感をどんどん増していて、ブーム段階より今のほうがカルチャーとして強く育っています」と実感を語った。



 日本の音楽からグローバルヒットが生まれない理由について、モデレーターの長田新子氏(一般社団法人渋谷未来デザイン理事・事務局長)が「国内市場が大きいから、世界で戦わなくてもいいんじゃないかという話があると思うんですけど」と水を向けると、SKY-HIは「そういった部分で、真綿で首を締められてきたのがエンターテインメント産業かなと思っています」と答えた。



 K-POPを例にあげ「K-POPを好きになったアメリカ人の方が、韓国製の電化製品を買う。なぜなら、CMをK-POPアイドルをやっていたから。引いては韓国という国自体を好きな人が増える。アジアのいろんな国でK-POPアイドルが宣伝をやっている電化製品で埋め尽くされていたりする。国内の需要だけで済ませていくと、パイは縮小していく一方で、エンターテインメントを作るほうにもお金が回らなくなってしまい、そうなると規模が縮小されていき、さらに好きな人が減っていく」と悪循環に陥っていると指摘。



 「売り上げがないから予算が出ない→予算が出ないからいいものが作れないという状況になってしまいますし、アーティストを目指す人も減っていく。K-POPアイドルにはなりたいけど、J-POPアイドルにはそんなに惹かれないという若い子が増えたり、エンターテインメント産業に就きたいという人口そのものも減ってしまう。内需にこだわるのはとても危ない思考だと思っています」と危機感をあらわにした。



■MV制作データ公開「塩を送らないと競争ができない」



 こうした危機感は、日本の芸能従事者も当然持っているものの、「CDバブルの時期にシステムがしっかりとできあがってしまって、それを崩すことができない」とし、ミュージックビデオ制作を例にあげた。



 「日本のアーティストのほとんどが、CDの売り上げから逆算して、ミュージックビデオの予算を立てているとし、黒田氏は「一般的なMVの制作費は100万~500万円」と説明。SKY-HIは「日本では悲しいことに、『エ?これだけの予算でこのクオリティーが作れたの?』というところに称賛が集まってしまう傾向もある」と懸念した。



 SKY-HIは「多いカット数、多い画変わり、美術セットの作り込みおよび規模感に予算を割いていきたいと思っている」と語り、カット数をたくさん撮るために、作品を作るごとにアーティストのMV撮影への稼働日数が増えていることも明かした。



 黒田氏は、これまでにstuが手がけてきたBE:FIRST「Betrayal Game」「Scream」「Message」、BMSG ALLSTARS「New Chapter」のMVの作品構成をデータ化。その一部として、4作品の「シチュエーション数」「総カット数」「秒あたりカット数」「撮影時間」「プリプロ日数」「撮影日数/時間」などの比較表を公開した。



 稼働日数に対して撮影カットが多い「Scream」は実験だったといい、黒田氏は「スタジオと監督を複数たてることで、生産性を高くしてカット数を稼ぐということをやった事例」と説明。違うやり方でアプローチしたのが、BMSG所属アーティスト/トレーニー15人総出演の「New Chapter」で、「現場でプレビューをしない選択肢をとりました」と明かした。



 SKY-HIは「あれはすばらしかったですね。15人全員が集結して撮影した高カロリーなもので、15人が出たり入ったりするので、撮影の工程を組むだけでも大変。ちょっと(撮影時間が)押そうものなら、全てがおじゃんになりかねないというところで、柿本さん(柿本ケンサク監督)の英断に助けられて、高クオリティーのまま、高い効率を図れた」と振り返った。



 こうしたデータを公開することに関してSKY-HIは「ある意味で競争相手となるところにも有益な情報で、塩を送るような行為なのかもしれないですが、競争相手に塩を送らないとそもそも競争ができない。競争が起こらないと、クオリティーの意識の根本的な向上やシステムそのものの更新が行われないと思うので」と真意を明かし、黒田氏は「これを見せると『身が引き締まる』と、特に映像クリエイターたちからは言われますね」と語った。



 SKY-HIは改めて「時間とお金がないなかで作っていくというのが当たり前になりすぎてしまっていることに関して、エンターテインメント業界全体で変えなきゃいけないと思っています」と警鐘を鳴らした。



■システムの形骸化、ガラパゴス化を覆せるのも今



 話題はコレオグラフ(振付)にも及び、「K-POPのすごいところは、プロデューサーがコンペスタイルでさまざまなコレオグラフをもらって、その時点でギャランティーをお支払いする。ただ、自分の振りが全く使われないこともある。ビジネスとしては成り立つけど、振付師としてはプライドに傷がつくので、彼らにとっても命がけなんです。Aメロ/ヴァースの部分はこの人、この部分はこの人、みたいな形で採用していくスタイルは多いですね。これによってK-POPのコレオグラフにおける地位が格段に上昇しました。やはり競争は大事だという一例」と語った。



 最後にSKY-HIは「日本におけるエンターテインメントを取り巻く環境というのは決して前向きじゃないことのほうが多い」としつつも、「システムの形骸化であったり、ガラパゴス化であったり、そういったものを覆せる状況ができているのも今なので、すごく前向きに楽しめる時代だと思っています」と総括。



 「K-POP、88rising、タイドラマのようなヒットのおかげで、世界におけるアジア人のプレゼンスが上昇しているのは間違いない。その中で、日本が何か打ち出すことができたら。本気で、本気で、世界で広がるもの、世界に通用するものを作りたいと思っているんですが、それが可能な時代に間に合って生まれたことを心からうれしく思っています」とポジティブに締めくくった。
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