TAKURO“不特定多数に評価を委ねない”生き方 「GLAYのメンバーで居続けるため」の絶え間ない努力

TAKURO“不特定多数に評価を委ねない”生き方 「GLAYのメンバーで居続けるため」の絶え間ない努力

 ロックバンドGLAYのギタリスト・TAKURO(51)が、自身3枚目となるソロアルバム『The Sound Of Life』を12月14日にリリースした。ジャズやブルースといった自身のルーツを掘り下げた前2作から趣をがらりと変え、TAKUROが全曲ピアノで作曲を行ったヒーリングアルバム。ウクライナ侵攻の影響も受け作曲に踏み切った背景や、ピアノによる作曲を通じて見えた新たな“音楽の扉”、そして今この時代に音楽を奏で続ける原動力を聞いた。



【写真】さすがのDNA…スタイル抜群のTAKUROと娘



■ウクライナ侵攻に傷んだ心「薬を塗り包帯を巻くイメージ」 アルバム誕生のきっかけ



 ヒーリングミュージックという、これまでの音楽活動からは想像がつかない異色なテーマがアルバムのコンセプトになった経緯を、TAKUROは、「音楽に助けを求めたと言った方が正しいかもしれない」と明かす。



 「コロナ禍の脅威の中、ウクライナへの軍事侵攻があり、不測の事態に対して心が重くなるばかりでした。僕だけでなく多くの人々がそういう気持ちだったと思う。それで自分の中の、どこかではち切れそうというかあふれ出しそうな感情をメロディーに置き換えました。自覚症状として心が傷ついていて、そこに薬を塗るとか包帯を巻くイメージでピアノに向かったんです」。感情が溜まっていたからなのか、全曲4日で作曲が終わったそうだ。



 人生では気づくと音楽が救ってくれていた。「曲を作り出した13歳のころ、13歳なりに日常で憤ったり名前のつけられない感情だったりを発散させたくて音楽に向かった」と切り出し、「理解されないイラ立ちを曲に変えて誰かとコミュニケーションし、後々それがGLAYのメンバーとの出会いになったんです。僕はずっと音楽に人生を救われている。慰められ、助けられていたことを改めて感じました」。アルバム制作を通じ、創作に対する認識も再確認した。



 「人生における山や谷にいるとき、一枚の絵や一冊の本、映画や音楽などに救われることもある。芸術家は有事の際に己の無力さを嘆くけど、僕は音楽や芸術が不要不急だと一度も感じたことがないんです。30年近くGLAYをやってきて、一曲の歌がどれぐらい人の人生を変えるかや心を癒やすかを目の当たりしてきた。どんな地球規模の有事になっても、その現象を疑ったことがありません」。



■あくなき向上心が見せた音楽の“正体”



 今作をギターではなくピアノで作曲を行ったのには、「定期的に作曲能力の向上の見直しはしないといけない」という考えがあった。



 「今回は得意なギターを使わず、指癖やメロ癖みたいなものから離れることで何かをつかみ、GLAYに持ち帰って貢献できるのではと思った。世の中の情勢に受けた感情の揺さぶりとは別に、新しい自分の中の引き出しを開けたい想いは多分にありました」。



 作曲作業では、破壊されていくウクライナの街並みと地図アプリに残る過去の美しい風景の対比や、故郷・北海道の冬の山や木々といった風景から、さまざまなインスピレーションを得たという。その過程で、自分の心や誰かの心を癒やしたいという音楽家としての“原点”に立ち返った。「自分の人生にとって今後すごく大きな意味を持つだろうなと思える作業でした」と総括する。



 「自然の音も含めて音楽の“母体”を掘り進めていくことで、音楽の可能性や幅などが広がるのではと思ったので、時間と自然を強烈に意識しました。たとえば流れる滝の音に対してなにかを感じ、表現しようとするのは人間ぐらい。滝が枯れようが木が枯れようが、自然では当たり前のことでしかないんですよね。自分の人生にどう結びつきがあるかを考えているうちに、それを音楽にすればいいと気づいた。哲学的というか、今まで疑問に思っていたいくつかのことが解決するぐらい発見が多く、音楽の“正体”をいくばくかは見られたかもしれない」。



■争いごとの裏に垣間見える心情を楽曲に



 アルバム収録曲で痛ましくも美しい音色が印象的な「Pray for Ukraine」が象徴するように、LAを拠点にするTAKUROにはウクライナの戦禍はどう映ったのだろうか。



 「まったくもって他人事ではないなと。人類の歴史を見ると、追い込まれると他人の領土を奪ってでも自分が生き延びようとする考え方は変わっていないなと感じます。どんなにテクノロジーが進歩しても、人権意識が高まっても変わらないんだなと。人間は賢い生き物だけど、どこか愚かだなとも思う。僕はバンドリーダーという顔もあれば夫であり父親でもあるので、もしも、日本やアメリカが戦渦に巻き込まれたらどう行動を取らなきゃいけないのか、そんなことも考えています」。



 アルバムラストに収められた「In the Twilight of Life (featuring Donna De Lory)」は、戦場へと送り出した家族を待ち続ける女性の実話がモチーフ。「愛する旦那も息子も戦地に送り出したけど、何の連絡もないまま何十年も過ぎ、それでも待ち続け歳を取ってしまったという。このエピソードに言葉をつけるとしたら無情なのか、非情なのか、不条理なのか」とテーマについて自問自答する。



 続けて、「俺自身はそこにつける言葉がないないから歌にして、人生の黄昏においてその人はこれからも待つのかい。まだ待つのか。じゃあ何を……と問いかける。そういうことを生み出すから争いごとは良くないし、シンプルに言うと、戦争は良くないとなる。でも地球上で戦争がなかった日は1日たりともない。そういった葛藤みたいなもの、問いみたいなものがこの曲には入っています」と神妙な表情で語る。



■最後まで聴かれたら“負け”の新作



 今作を制作するにあたり、「究極の安らぎや癒やしとは何だろう」と考えた結果、「最終的には眠りにたどり着くのかな」と持論を口にする。



 「このアルバムを聴いて僕に対する最高のコメントがあるとしたら、『1曲目で寝ちゃいました』かな(笑)。究極の安らぎである眠りへの橋渡しができるなんて、こんな素敵な音楽はない。優しい眠りが提供できるような音楽をと思っていたので、最後の曲までいったら僕の負けですね(笑)」



 本来であれば楽曲を聴いてほしいというのが普通である。「音楽のジャンルに対して広くキャリアを積んで知識は得たけど、その先の扉を開けることはしていなかった」と前置きし、「音楽の神秘というか次の扉は、そこなんじゃないかなって。心の楽しい波形がどんどん緩やかになっていくお手伝いができれば」と新たな試みに思いをはせる。



 「大自然の音ですら音楽の一部であり、メジャーやマイナー、転調といったことはあくまで技術的なことで、川のせせらぎに2つだけ音をつけるとしたら何だろうというのが、やりたかった音楽活動なのかもしれない。バンドマンとしてGLAYは最高の環境だけど、太陽の優しい日差しに音をつけるならどうすればいいのだろう、どの音なのだろうと考えながらする楽曲制作はとても充実していました」。



■不特定多数に評価を委ねないのが信条



 SNSやサブスクなど音楽業界を取り巻く環境や形態は変わり、さまざまな反応もダイレクトに届くようになったが、「便利になったと同時に人間が本来隠していた“頭の中”みたいなものが露呈することになった」と本音を漏らす。「新しいことをやろうとしても、その何百倍何千倍という罵詈雑言を引き受けなければいけない世の中になっている。人間はそれに耐えられるようにはできていないと思う」と分析する。



 「便利になった反面、便利さによって疲れている人も自分を含め多くいる。テレビが壊れていたら、ネットがつながらなかったら、このアルバムはできていないかもしれない。でも何もしなくてもスマホを開いてしまった1行目に飛び込んでくるウクライナ情勢やコロナのことなどが、人々の気持ちをそいでいく感じはよくわかります」。



 ただ、TAKURO自身がSNSで傷つくことはないという。



 「周りにいる信頼できる10人が『この曲が良い』と言ってくれるなら良いのだろうし、良くないと言うならそうなのでしょう。不特定多数の人に、僕の作品の評価を委ねることはない。自分が信じる人が良いと言ってくれたら自分の人生を肯定してもいいことは、GLAYを通じて学んできた。音楽業界の話に限らず自分の人生、生き方にも通じる話でもあります」。



 最後に、音楽を奏で続ける原動力を聞くと、「カッコ悪い答えになっちゃうけど、ほかの3人と楽しくバンドをやっていたいだけ。スタジオに入ってワイワイ音楽作りをしたいだけ」と照れ笑い。



 「ほかの3人がすごいので振り落とされないよう日々鍛錬しないと。GLAYのメンバーでいるにはギターが上手じゃなければいけないし、良い曲を書かなければいけない。たくさんの曲を書いたけど、そのメソッドをなぞりながら生きていくわけにはいかないんですよね。『またこれか』と言われた瞬間、俺の存在価値がなくなってしまう。そういう意味でソロ活動は、GLAYのメンバーであり続けるため、メンタルを整えることと作曲スキルを上げることも大きいですね(笑)」。





取材・文/遠藤政樹

撮影/田中達晃(Pash)
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