機能性発声障害、局所性ジストニア…「幾度も倒れた」日々を背に LACCO TOWER、完全復活告げる“絶唱”
5人組ロックバンド・LACCO TOWERが17日、東京・恵比寿LIQUIDROOMで結成21周年記念公演『独想復活祭』を開催した。【写真】結成21周年!完全復活を告げたLACCO TOWER “完全復活”をキーワードに掲げたこの日のライブは、LACCO TOWERの“復活”に先駆け、コロナ禍によって活動を制限されていたふんどし集団・みこしーズの復活で開幕。スタンディングの客席を練り歩く神輿、ファンの「ラーッコ、ラッコ、ラッコ、セイヤー!ワッショイ!」というかけ声。そんな“いつもの風景”が戻った恵比寿LIQUIDROOMを、狂想カルテット(Lisako/Vn、小林修子/Vn、古屋聡見/Vla、グレイ理沙/Vc)が奏でる「狂想序曲」が一気に加熱させていく。 細川大介(Gt)、塩崎啓示(Ba/※崎はたつさき)、重田雅俊(Dr)、真一ジェット(Key)は1人ひとりファンへあいさつ。バンドが「罪之罰」のイントロを鳴らし始めると、松川ケイスケ(Vo)が登場した。安定した歌声に加え、曲の最後には「『独想復活祭』へようこそ!」と絶叫し、フロアには安堵と興奮という相反する感情が入り混じった。 バンドは、昨年7月に細川が局所性ジストニア発症によるレフティー転向を表明。同年12月初旬に松川は機能性発声障害による療養に入り、12月末には真一が肋骨骨折で搬送される事態に見舞われた。松川は自ら「昨年この場所で20歳を迎え、幾度も倒れまして…」と激動の1年を回顧。「復活の日でございます」と、さまざまな苦難を乗り越えたこの日に思いを寄せ、「必殺技」へとなだれ込んだ。 「仮面」では松川の呼びかけに応じ、細川が長尺のソロを披露。ちょうど1年前、このステージ上でレフティーへの転向を発表しただけに、流麗な運指と巧みな音遣いを駆使したこのソロパフォーマンスは、多くのファンの心を貫いた。そんなファンとメンバーに寄り添うように、松川は「林檎」の歌詞にアレンジを加え、<辛かったよな>と激しくも優しげな声色で叫んだ。■研ぎ澄まされた個々のスキル 束ねられた音塊が導く多幸感 感動的な場面も多かったが、そこに悲壮感はない。アンサンブルがより強固になったことを、真一の美しいピアノの旋律が導いた「夕顔」から顕著に提示していき、会場は高揚感と多幸感で満たされていった。 重田は長年愛用し続けているGretsch製USAカスタムセットをこの日も起用し、骨太でかつ多彩なビートでライブを牽引。特にミドルテンポの楽曲では、抑揚付けの巧みさや繊細なシンバルワークでも圧倒した。 塩崎はSGCrafts TopDogのネックに換装したLAKLAND製44-60 Joe Osborn ModelとTopDog製Original Model KIJ-01の2本を楽曲ごとに使い分け、ボトムを支えつつカウンターメロディーとなるフレーズも随所で紡ぎ出した。 そんなどっしりと構えるリズムの上で、真一はYamaha製MODX7とHAMMOND製XK-1cの2台を駆使し、叙情的なピアノや疾走するシンセサウンドなど、さまざまな音色で楽曲を彩る。さらにLisakoと美しい音像を作り出した「花弁」や、ALESIS製ショルダーキーボード・VORTEXを手に、自らステージ最前面…に収まらず、客席横のサブステージにも繰り出した「傷年傷女」など、パフォーマンスの多彩さでも魅了した。 細川はレフティー転向を宣言した際、アンコールの1曲のみで左利き用のギターへコンバートしていたが、この日は逆に2曲目以降の全楽曲をレフティーで演奏。HISTORY製TH-SV/R/LH/3TSのほか、今年4月に完成したばかりの新型STスタイルも起用し、トレモロピッキングやタッピング、ワウプレイなど、多種多様なアプローチのリフやソロを叩きつけた。 3曲目にして早くもジャケットを脱ぎ捨て、冒頭からギアを上げていた松川は、持ち前のレンジの広さと表現力の豊かさで1曲1曲を丁寧に届けていく。曲によっては言葉尻の“がなり”やシャウトをストレートな歌唱法へ変更し、フォールやフェイクなどの細かなテクニックも織り交ぜるアレンジを加え、ボーカリストとしての“復活”だけでなく“進化”すらも見せつけた。 そんな松川は、ライブ中盤に差しかかったところで「21周年を迎えることができました。みなさんありがとうございます」と感謝。「LIQUIDROOMで(結成記念を)祝わせてもらうのは今年で10回目。20年前はもうちょっと違う景色をイメージしていた気もする」と笑いつつ、「でも、みなさんとこうして21周年を迎えられたこと、誇りに思います」と胸を張った。その喜びを噛みしめるように、バンドはライブが進むにつれて、「未来前夜」でのハンズアップや「傷年傷女」でのかけ声、「閃光」での合唱といった“コミュニケーション”を積極的に求めていった。■“白紙の約束”を信じたファンとバンドの絆 次なる約束も結ぶロックバンドの矜持 本編のラスト直前で「恵比寿に来るたびに、今年もできてよかったなと心から思う」と切り出し、去来する思いを言葉にし始めた松川。細川のジストニア告白に触れ、「ちょうどこの場所で『右手で弾けない』と。『右で弾けないから左で弾く』って小学生みたいなことを言い出して、ギターが俺の方を向くようになった。今日もほとんど左で弾いています。…自分じゃ言わないからさ(笑)」と誇った。 続けて「その数ヶ月後に、今度は自分が機能性発声障害で声が出なくなって。もうこうやってみんなの前に立てないと思っていた。もう無理かもなって」と、自身についても言及。「なくそうと思っているなら決断もできるんだけど、そんなこともないままになくなりそうになっていたから、今日のこの景色が未だに信じられない。一回なくなりそうになったものだから、二度となくしたくない」と力を込めた。 そして「前回のLIQUIDROOMから1年経って、左手で弾けるようになった大介が偉いのか、声が出せるようになった俺が偉いのか。その間ステージをつないでくれた四人囃子(※松川の療養中に細川、塩崎、重田、真一で行った特別編成)が偉いのか。みなさん気づいていないと思うけど、バカみたいな約束をアホみたいに信じてくれて、白紙の手帳に『LIQUIDROOMがある、あの5人組に会える』と書いて、今日この景色をプレゼントしてくれたアナタたちが一番偉いんですよ。最高の誕生日プレゼントでした」と心からの感謝を伝えた。 万感の思いを「愛情」に乗せ、会場は全霊の合唱で1つに。アンコールでその一体感はさらに高まり、“新生LACCO TOWER”として初のホールワンマンライブ『独想演奏会』と、全国ツアー『五人囃子の恩返し』の開催が発表されると、熱量は最高潮に達した。 そんな会場に向け、メンバーも思い思いに感謝を伝えていく。リーダーの塩崎は、メンバーそれぞれの復活を信じながらも、今年の活動には不安があったと吐露。しかし「1つ改めて決めたことがあって。地元でフェスをやって、ツアーを廻って、LIQUIDROOMも毎年やらせてもらって。でもそれだけじゃなくて、挑んでいく姿勢とかなにかを目指していくところをみなさんに見せていく。これは俺の中のロックの定義なんだけど、俺らはやっぱりロックバンドでありたい。そういう話をメンバーともしました。今後ともどうかよろしくお願いします」と前を向いた。 重田は「21年続いたんだけど、20周年を経て、また1年目。新たなスタートです」と真剣に語るが、“らしくない”空気にこらえきれず、照れを隠すように「今日は今日しかねぇからな!Thank you, Rock you!」という合言葉をファンと叫び交わし、声出しが解禁されたライブを存分に喜んだ。 細川は「何でこんなプレイしかできないんだって泣いて、つらいこともたくさんあった」と振り返りながら、「俺の挑戦を応援してくれて、一緒に挑戦してくれているメンバーを尊敬しています」とステージ上を見渡す。そして「10年、15年後にもっといい景色を見たい。絶対に俺は日本一、世界一かっこいいギタリストになるから。日本一、世界一かっこいいバンドになるから。みんなにも無理を言うけど、ついてきてください」と高らかに宣言した。 “いつも通り”にメンバー紹介でスルーされた真一は、“いつも通り”にツッコミを入れて会場の笑いを誘う。続けて「さっき『未来前夜』をやったとき、やっと肋骨がくっついた」というジョークも。しかし、自身の怪我によってライブが中止になったことについては、「ふざけたことを言っているけど、マジで情けなくて、こんなに悔しいことがあるんだと。同時に、ケイスケはもっと悔しかったんだろうなって思った」と告白。そして「今日こうやって『復活祭』ができて、みんなが来てくれて…本当に感無量です」と真摯に語った。 その後、松川の「今日はやらないけど、この曲をやらないと夏を越えられない」という言葉から、当初のセットリストに入っていなかった夏の定番曲「藍染」をアカペラで披露。しかしその裏でメンバーたちが耳打ちし、急きょバンド全員で同曲が演奏された。松川も「やるの!?」と驚き、さらにはステージ上に呼び込まれていたオリジナルキャラクター・ラッコちゃんさえも戸惑わせるサプライズで、“ライブバンド”として21年間走り続けてきたポテンシャルを見せつけ、ライブのキラーチューン「ラッコ節」へ突入した。 最後に5人は、ファンの歌声とともに「一夜」を届けてライブを締めくくった。メンバーが去った後、ただ1人ステージに残った松川は、マイクを通さずに「メジャーデビューをするときもそうだったけど、俺たちはライブで育ってきたから、大事なことを言うときはいつもここで最初に言う」と語りかけ、来年の活動に向けてとある“宣言”を行った。具体的な内容は明かされなかったが、ラストナンバー「一夜」の歌詞を一部引用し、「今日よりも少しだけ楽しい世界に連れていきたい。なのでまた、白紙の手帳に『あの5人組に会う』と書いておいてくれたら」と、新たな約束を交わして幕を閉じた。■LACCO TOWER『独想復活祭』セットリスト01. 罪之罰02. 必殺技03. 仮面04. 林檎05. 夕顔06. 泥棒猫07. 花弁08. 蛍09. 青年10. 未来前夜11. 夜鷹之星12. 閃光13. 傷年傷女14. 純情狂騒曲15. 化物16. 愛情En1. 雨後晴En2. 藍染En3. ラッコ節En4. 一夜■LACCO TOWER『五人囃子の恩返し』日程9月16日(土) 新潟・新潟CLUB RIVERST(ゲスト:終活クラブ)10月1日(日) 茨城・水戸LIGHT HOUSE(ゲスト:磯山純)11月3日(金・祝) 神奈川・横浜BuzzFront(ゲスト:なきごと)11月19日(日) 京都・京都MUSE(ゲスト:GOOD ON THE REEL)■LACCO TOWER『独想演奏会』日程12月3日(日) 群馬・高崎芸術劇場スタジオシアター
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