
新『スーパー戦隊』P語る、時代とともに変化する“正しさ”との向き合い方「“子ども向けだからわかりやすく”は制作陣の思い上がり」
6日よりスタートしたスーパー戦隊シリーズ第46作目『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(テレビ朝日系)。放送直後、Twitterのトレンドで1位に君臨した本作は、シリーズ初の「桃太郎」という昔話をモチーフにした設定と、末尾に「ジャー」がつかないタイトル、頭に“ちょんまげ”・おでこに“桃”という主人公の衝撃的なビジュアルで、放送前から大きな話題を呼んでいた。前作の『機界戦隊ゼンカイジャー』でも、リーダー以外の4人は全員ロボットというシリーズ初の設定に挑戦した同シリーズ白倉伸一郎プロデューサー。本作に込めた思いや時代の変化への対応、同じく特撮ヒーローの人気シリーズである『仮面ライダー』との差別化についても聞いた。【画像】身長100cmで3頭身のブラック、身長220cmのピンクなど、衝撃的なビジュアルの5人■5人それぞれの“正義”を描く理由「考えが違ってもみんなヒーロー」 「桃から生まれた暴太郎!」をキャッチフレーズに、ドンモモタロウ(レッド)が、お供のサルブラザー(ブルー)、イヌブラザー(ブラック)、キジブラザー(ピンク)、オニシスター(イエロー)とともに悪に立ち向かう『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』。構想にあたっては、「前作である『機界戦隊ゼンカイジャー』で45作目という節目を迎え、これまでとは違う“新しいヒーロー番組”を作ることを重視した」と白倉氏は語る。「時代が変わっても、子どもたちが考える基本的なヒーローのカッコよさは、強くて、様もよく、何より自分の身を挺してでも人を守る、そのヒロイズムは変わっていないと思います。ただ、人間関係は確実に変化しているのではないでしょうか。これはスポーツ漫画の変遷にも見られますが、一つの目標に向かってチーム全体が心を一つにして団結していくのが流行った時代から、今は、チームで戦うけれど、個人個人にスポットを当て、考え方や向いている方向が違っても、それぞれ魅力があると考える傾向にあります。ですから、スーパー戦隊シリーズも、5人揃ってナンボではなく、一人一人いろいろあるけどみんなヒーローだよねというふうにしていかないといけないし、本作では、子どもたちにそういう感覚を持ってほしいと考えました」 「桃太郎」をモチーフにしたのは、まさに、その人間関係を強く押し出すためだった。「観る前から、皆さんが5人の関係性を想像できるモチーフがいいと考えたのが一番の理由です。『桃太郎』を知らないお子さんはいませんからね。5人を通して、自分と考えが違ったとしても、人には人の考え方があって、どれが正しくてどれが間違っているということではないという目線をもっていただけたらうれしいですね」■子どもを決して侮ってはいけない…鬼滅や呪術廻戦のヒット受け「居住まいを正されました」 その一方で、スタートから47年、昭和、平成、令和と積み重ねてきた長寿シリーズであるだけに、スーパー戦隊には、敵と対峙した際の名乗りや決めポーズをはじめ、いくつもの“伝統芸”といえるスタイルが築かれている。それらを踏襲しながらも、時代性のある新作を作るのは矛盾もはらんでくるはず。「伝統芸と革新性の塩梅については、ものすごくいろいろなことを考えています。ただ、スーパー戦隊シリーズは、1作目の『秘密戦隊ゴレンジャー』から、良い部分は取り入れ、うまくいかなかった部分は改善しながら、試行錯誤の結果、今の形ができあがっています。継ぎはぎでやってきた分、成功の方程式と言われる中にも矛盾点があるのは事実です。今回は、これまでの45作を踏まえつつも、こうだと決めつけることなく柔軟な感覚で制作にあたっています」 その一つが、メインの視聴者層となる子どもたちに対する考え方だ。近年、映画『シン・仮面ライダー』や、ホラー×ハードアクションで、未成年の視聴に保護者の配慮を促す注釈が入った『仮面ライダーアマゾンズ』など、仮面ライダーシリーズでは、大人に向けた特撮作品が多く生まれているが、スーパー戦隊シリーズのターゲットは、スタート時から変わらず、あくまでも子ども。だが、本作では、テーマとして重きを置いている人間関係の描写にあたり、子どもたちに向けてわかりやすくするのではなく、「複雑に、ものすごく濃く描いている」と言う。「スーパー戦隊シリーズは卒業しやすいと言われていて、4~5歳の子たちから『こんな幼稚なものはもう見ない』と言われてしまうことが増えています。そして、その子たちは、『仮面ライダー』や『鬼滅の刃』、『呪術廻戦』など、我々大人からしたら、小さい子が観て面白いのかなと思うような、複雑だったり、難しかったり、残酷だったりする作品を楽しんでいることもある。低年齢層をターゲットにしているから、わかりやすくしなければとか、手心を加えようというのは我々制作陣の思い上がりなんですよね。近年の『鬼滅の刃』のヒットの現象を見ても、子どもをあなどってはいけないということを改めて強く感じたし、居住まいを正されました」 ちなみに、「桃太郎」の敵は鬼であり、武器も刀とあって、本作のアイデアは『鬼滅の刃』が元なのでは?という声もスタート前、SNSにあがっていた。スーパー戦隊シリーズでは、『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011年)で、プロデューサーが『ONE PIECE』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』など、その時旬だったヒーロー像の“海賊”をモチーフしたと明かしたように、エンタメの流行を取り入れることが多いだけに、それもうなずける話だが、白倉氏は「(企画を立ち上げたときは)全然意識していなかった」とキッパリ。「たまたまかぶっただけなので、正直、そう言われるのはひじょうに癪なんですよね。こすってあやかれるものだったら、ぜひあやかりたいくらいですけど、こすったからって鬼滅ファンが振り向いてくれるわけではないし、むしろ怒られるんじゃないかと思ってます(笑)」■仮面ライダーは“個”、スーパー戦隊は“集団”の在り様を描くドラマ 日曜朝は、『仮面ライダー』の後に『スーパー戦隊』が放送され、「スーパーヒーロータイム」の愛称で親しまれているが、同じ特撮ヒーローものの人気コンテンツでありながらも、『仮面ライダー』とは違う『スーパー戦隊』の一番のこだわりやコンセプトはなんなのだろう。「近年、仮面ライダーも人数が増えているので、違いがあまりなくなってきた気がしますが、明確に言えるのは、スーパー戦隊は“戦隊”と言うだけあって、集団を描いていることです。それがどういう集団なのか、人が集まるというのはどういうことなのか、そのありさまを描くのがスーパー戦隊のドラマとしてのテーマです」 放送前には「カッコよくない」「ダサい」などの声もあがったものの、放送直後はTwitterのトレンド1位に君臨し、「度肝を抜かれた」「めちゃくちゃ面白い」「情報量多い」「1年間楽しみ」などの反響が寄せられていた。「公開前のプロモーションは、小難しいタイトルを、いかに親近感を持って知ってもらうかということと、我々が心の底からお客様を楽しませようとしている姿勢が伝わればいいなと思って、少し軽めな感じで行ってきましたが、実際の番組は、カッコいいし、スタイリッシュだし、内容も濃く、今までの戦隊シリーズのイメージを払拭するような作品になっていると思うので、ぜひ楽しみにご覧ください」 50作目という大きな節目へと走り出す、大事な助走となる今作。にもかかわらず、前作を超える挑戦を見せ、“安定”ではなく、さらなる“進化”に挑んだ。これからどんなストーリーが展開されるのか気になるところだが、「新しいヒーロー番組を作る」と話していたように、本作で『スーパー戦隊』の新たな可能性を見せてくれるだろう。(取材・文/河上いつ子)
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