
TikTok“無言配信”第一人者 夏絵ココが歌手デビュー「0から1を作る快感」
TikTokフォロワー数150万人を超すバーチャルクリエイター・夏絵ココが、8月23日にアーティストデビューした。言葉をひと言も発さず身振り手振りでユーザーとの交流を図る「無言配信」の第一人者。昨年の「TikTok Awards Japan 2022」では「LIVE Creator of the Year」を受賞したほか、Adoや仲里依紗が自身のSNSで、エハラマサヒロがフジテレビ系『爆笑そっくりものまね紅白歌合戦』でモノマネを披露するなどの広がりを見せている。夏絵ココの代名詞ともなっている「無言配信」(思考実験)が生み出された経緯、そして、アーティストデビューについて話を聞いた。【動画】夏絵ココデビュー曲「Virtual mod Real」MV■「無言配信」は配信で配信の疲れを癒やすことを具現化――TikTokを通して発信を始めたきっかけを教えてください。もともとしゃべるのは大好きで楽しいけど、少し疲れる部分もあったりして、TikTokライブを見ていたときに「しゃべらない配信ってできないものかな?」みたいなことを考えて。配信で配信の疲れを癒やすことを具現化したのが「無言配信」だったんです。――「無言配信」はアニメやゲームかのような作り込まれた世界観が印象的ですが、それはどのように構築されていったのでしょうか。やるんだったら作り込みたいという性分が強くて、フィルターと照明との折り合いをつけて「このフィルターだったらこの照明がいいな。じゃあこういう格好にしよう」と細かく考えていきました。ただ、最初は私服のダボダボッとしたパーカーを着て、夏絵ココが座っているところを覗いているみたいな配信にしたいなと思っていたんです。その段階から“作り込むぞ”と決めていたので基礎はできていたんですけど、コスプレ配信をしたときに背景がシンプルすぎると面白くなかったので、いろんなものを足したり引いたりみたいなことを繰り返してバランスを取っていきました。――キャラクターや人形のように見える動きも、配信をしていくうちにしっくりくるものが見つかっていったのでしょうか。あの動きは最初からやっていましたね。なんでそういう動きをしたのかは、実は夏絵ココにもあんまりわかっていないんです。でもみんなの反応を見ながらどんどんブラッシュアップされていく、「思考実験」するのが夏絵ココの配信なので、コメントを見てちょっとずつ体が揺れてきたんだと思うんです(笑)。そしたら誰かが「ロボットみたい」「AIみたい」だとか、「ゲームのキャラクター選択みたい」という言葉が出てきて、「もっとそう見えるふうにやってみようかな」「こうしたらどうなるんだろう」というのをちょっとずつ試して定着していきました。――視聴者もただコメントをするのではなく、一緒に研究や実験をしているような反応がありますよね。考察に近いくらい、いろいろ考えてくれていますね。夏絵ココは自分勝手にしているのが好きだし、相手が自分勝手にしているのも好きなので、いい言葉だろうが悪い言葉だろうが、その反応は全部面白いと思って見ているんです。だからこそ、時々視聴者さんのことを裏切るようなこともあって。それこそ「夏絵ココにとっていいことなのか」という考えを、さておいたような行動をとってしまって、そのひとつが無加工だったんです。無加工をさらすのは夏絵ココにとっては実験だけど、みんなにとっては裏切りの可能性も十分あって、でも「みんなはどんな反応するの?」とだけ考えていたんです。案の定、最高の反応をしてくれて「無加工だって関係ないじゃん」という人もいれば、「全然違うからイヤだ」という人もいて。そういう反応を「予想どおりだ!」と楽しく見ていました。■「これは一体何?」夏絵ココは“間(はざま)”の存在――2021年11月に無言配信をスタートしてから半年で93万人もフォロワーが増え、現在では150万人を突破。動きなどを真似する方が出てきたり、Adoさんや仲里依紗さん、エハラマサヒロさんのモノマネでも注目を集めていきますが、ご自身ではなぜ多くの人が興味を持たれたと思われますか?基本的に人間は“間(はざま)”でできていて、その“間”に魅力を感じているんじゃないかなと日頃から思っていて。人間関係でも、例えば「今ある言葉で表現すると親友になるけど、実際この関係には名前を付けられないよね」みたいなことがあるじゃないですか。夏絵ココは見た目をキレイにしていて、フィルターもかかっていてメイクもされていて、人間なのか人間じゃないのかという“間”の存在で、「これは一体何?」という名前が付けられないものだから魅力を感じるのかなと思っています。――表現する上でのインスピレーションの源はありますか?美術館を巡って彫刻や絵画を見るのが好きで、あとはサンローランさんやシャネルさんなど、ハイブランドの展覧会を観るのも刺激になっていると思います。ファッションやインテリア、絵画からインスピレーションをいっぱいもらっていますね。――配信での画面は動いていますが、1枚の絵を作っているような感覚に近いのでしょうか。そうですね。自分を立体や平面で捉えてみたりしながら、その日その日のテーマに合わせて作っている感じです。なので自分にとっては絵画も彫刻も、ハイブランドのひとつひとつこだわり抜いたデザインも、ブランドの理念も全部が必要なものなんです。その人がなんでその絵を描いたのか、どうしてこの色をテーマにしたかったのかに興味があるので、そこは掘りますね。自分がモノ作りをするときにそれが抜けていると空っぽな作品になりがちだと思うし、結局表面的にいいだけのものなら私じゃなくてもいいんですよね。私の理念が入るから私じゃないといけないのであって。そういう私だけにしかない感覚というのをすごく大事にしているので、観る上でも重要視しています。――創作活動をする上での理念を言葉にするなら、どういったことでしょうか。それもやっぱり“間”ですかね。そして、バイアス(偏見、先入観などの偏り)と戦っていくこともテーマであると思っています。バイアスというものは全部が全部、悪いものじゃないと思うから、「今は世界的に、そこにシビアすぎるんじゃない?もっと間があるよね」ということが理念に近いのかなと思います。数字や性別とか目に見えるものへの偏見に悩まされて、「イヤすぎてしょうがない!」と思っていたことがあったのですが、「みんなの反応って面白いな」と思うようになったんですよね。その考えが今の活動につながっているんです。■デビュー曲で初作詞「やっぱり自分で書きたい!」――その考え方が今回のデビュー曲にもつながっていると思うのですが、まず音楽を通して発信をしようと思われたのはなぜだったのでしょうか。私にとって、音楽も“間”だと感じる部分があって。私の中でもう一つ大事にしているのが、受動的であることと能動的であることがどっちもある、ということなんです。音楽は聴く人が能動的に「これはどういう意味なんだろう」と楽しむところもあるし、受け入れさえすれば音楽が自分を楽しませてくれる部分もあると思うんです。今この世にあるものの中では、音楽が人にも伝わりやすくて爆発力も兼ね備えていて、すごく魅力を感じていました。――楽曲制作にはどのような形で関わったのですか?「こんな曲にしたいな」から始まり、作詞やタイトルにも携わらせてもらっています。曲については「ぽよんぽよん」や「ピコピコ」、「キラキラキラ」とか、宇宙を連想させるような音を入れたくて、それに合うような音楽がいいなと思っていたところからスタートして、行きついたのがこの曲調になっています。作詞は初めてだったんですけど、めちゃくちゃ楽しくて。ワンフレーズ思い浮かぶと一気にワッと言葉が出てきて、そこから自分の好きな言葉に変えてみたり、表現を変えたりして模索していきました。もともと一つの言葉から連想して考えていくことがすごく好きなので、歌詞を作るときにはそこが発揮されたのかなと思っています。――もともと文章などは書かれていたんですか?いや、めちゃくちゃ苦手なんですよ(笑)。素人だし、変なものができたらイヤだなという気持ちが強くて、だったら作詞家の方に頼んでみようかなと思っていたんですけど、曲を聴いたら「待って! やっぱり自分で書きたい!」と思って、お願いして書かせていただきました。――タイトルの「Virtual mod Real」もご自身で考えられたそうですが、どういった意味が込められているのでしょうか。「MOD」という関数がありまして、「a MOD b」という式はaをbで割った余剰(余り)を表しているらしいんですよ。それを知ったときに絶対にタイトル入れたいと思って、「バーチャルとリアルの余剰が、私にとってのこの世である」という意味を込めてつけました。■TikTokでは「みんなでパチパチしてほしいです」――ミュージックビデオ(MV)ではご希望を伝えられたのでしょうか。色合いやCGについてのイメージをお伝えして、クリエイターのみなさんがどうやって広げてくれるかを楽しみにしていたんです。だから、私の言葉が具現化される過程を見られたのがすごくうれしかったです。それが私とクリエイターのみなさんとの「思考実験」の結果でもあるので。――お気に入りのシーンはありますか?めちゃくちゃあるんですけど、お部屋の中にいる私とパソコンの中にいる電子バージョンの夏絵ココが一緒にいる感じとか、次元の“間”を行き交っているシーンがすごく気に入っていて。あと、一瞬だけ何人いるかわからないくらい夏絵ココがいっぱいいるシーンがあるんですよ。そういうちょっと不気味な部分をファンの方は気に入ってくれていると思うので、私が好き勝手にしているなと思ってくれるんじゃないかな。――TikTokではダンスチャレンジが盛り上がりますが、「Virtual mod Real」にもポイントとなるダンスがあるのでしょうか?サビのところで目をパチパチとしているように手を動かす振りと、まつ毛がくるんくるんとしているのを表すような“開眼ダンス”があって、そこはポイントかなと思っています。みんなでパチパチしてほしいですね。――取材日(8月某日)の時点ではファンのみなさんに音楽活動をスタートさせることを伝える前ですが、どんな反応が届くかも楽しみですね。そうですね。みんなどんな発表なのか予想してくれているんですけど、まだ1個も当たりを見つけていないので面白いなと思っています。まさか夏絵ココが歌を出したり、アーティストデビューするというイメージがないんだなとわかって、予想を裏切れるのがすごく楽しみです。みんなを見ているのが楽しいから、もう少しこの時間が続いてほしいくらい(笑)。――音楽はこの先も続けていきたいと思われますか?はい。今回制作してみて、0から1を音楽で作る快感がすごく大きかったので、もっとやりたいなと思っています。1曲作ったらアイデアもどんどん出てきて、例えば私の配信ではいろんなタイプのキャラクターが出てくるので、キャラソンとかもいいよねと思ったり、すごく幅広くやりたいです。――今後挑戦したいことはありますか?いっぱいいっぱいあります。0から1を生み出す楽しさを1回味わっちゃうとそれを何回もやりたくなって、それこそ音楽に限らず、絵本なのか絵なのかはわからないですけど、自分の伝えたいことを作るということは今後もずっとやっていきたいと思っています。――0から1を作るのはすごく大変なことだと思うのですが、そこに大変さを感じることはありませんか?でも、それを出したときにみんなの反応があることのほうがうれしいので。いいも悪いも反応があればいいんですけど、何もないときが一番つらいですね。――反応があることが夏絵さんの活動の原動力になっているんですね。そうですね。作品を世に出さないなら趣味ですけど、世に出す限りは誰かに反応してもらってこそ、その作品がやっと1になるという感覚があって。反応がないと0から0.5くらいでふわふわと浮いている感じがして、ちょっと気持ち悪いんですよね。――それこそ無言配信もみなさんのコメントがあったからこそ、完成した部分があるのでしょうか。そうですね。無言配信をする中で、“カチッ”と何かがハマった気がしたんですよね。あそこが多分、最初の0から1だったんだと思うんです。――配信を通して今後やってみたいことはありますか?夏絵ココとして考えていることはまだいろいろあって、それこそ寝たり、起きて手を振ったりを繰り返す「眠り配信」みたいなことをやってみたことがあるんです。『眠り姫』が好きなので、多分みんなも好きじゃない?というラフな考えでやってみたらそれも好評だったので、眠りや人間のふとした日常を大きく解釈してテーマにしてみたいです。あとは、例えば本物のエッフェル塔を背景にして無言配信ができたら、いろんなものを飛び越えた感じがして楽しいと思います。――今後も無言配信は続けていかれるのですね。もちろんです! 無言配信が夏絵ココの根源なので、それはずっと続けていきたいと思っています。インタビュー・文/東海林その子撮影/田中達晃(Pash)◆夏絵ココ プロフィール2021年10月31日に誕生したパーチャルクリエイター。年齢、性別非公開。TikTok LIVEで言葉を発さず、身振り手振りだけでリアクションする「無言配信(思考実験)」が話題となり、約2000人だったフォロワー数が半年で150万人に。配信中はゲームに出てくるNPC(Non Player Character)のような動きのクオリティが高く、国内外で注目されている。2023年7月にはそのパフォーマンスが海外の配信者でもトレンドとなり、「NPC LIVE Streamer」の生みの親として海外メディア「INSIDER」でも取り上げられた。8月23日に自身が作詞を手がけた配信シングル「Virtual mod Real」でアーティストデビュー。
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