
『Dr.コトー診療所』柴咲コウ×生田絵梨花×中江功監督 鼎談【後編】
『Dr.コトー診療所』劇場公開を記念して、ドラマシリーズからのレギュラーキャストである看護師・彩佳役の柴咲コウ、コトーと彩佳とともに志木那島診療所で働く看護師・西野那美役で初参加する生田絵梨花、ドラマシリーズでも演出を務めた中江功監督による鼎談の後編。【集合ショット】吉岡秀隆、柴咲コウ、高橋海人ら『Dr.コトー』豪華出演者が集結 山田貴敏の同名漫画を元に、東京から僻地の離島に赴任してきた外科医“Dr.コトー”こと五島健助(吉岡秀隆)と、島の人々との交流を通して命の尊さを描いた連続ドラマ『Dr.コトー診療所』。2003年フジテレビの木曜10時枠で放送された第1シリーズ、06年放送の第2シリーズともに大ヒット。今なお国民的ドラマとして語り継がれている『Dr.コトー診療所』が16年ぶりに初の映画として帰ってきた。■“ひたすら待つ”ことへの耐性ができた――与那国島では、かなり暑い中、天候にも左右されながらも、緻密な画作りのために試行錯誤されたんだろうな、と思います。連ドラ時は「トラウマ級」だったという撮影、今回はいかがでしたか?【柴咲】『Dr.コトー診療所』の撮影は大変だけど、出演できてよかったと思うことの一つは、“ひたすら待つ”ことへの耐性ができたということですかね。【中江監督】まあ、そうだね。【柴咲】天候が回復するのを待つといったこともありますが、リハーサル室では「OK」と思っていても、セットに入ってみるとちょっと距離感が変だなとか、やってみたら不自然に見えるなとか、そういった違和感を一つひとつ潰していくのを“待つ”というのも『Dr.コトー』の現場ではあります。役者たちもみんな、「まぁ、いいか」と放置できない人たちばかりだから。なんで放置できないかというと、やっぱり作品に対して深い愛情があるからで、もっと掘り下げてもっと良くしたい、と思って撮影に参加しているからなんですよね。あの毒舌な泉谷さん(安藤重雄役の泉谷しげる)も、「いやだよ、早く終わらせてよ」と言いながらも絶対、妥協されない。【中江監督】キャストもスタッフも職人気質な現場というのは最近、減ってきているかもしれないよね。「こんなせりふ言えないよ」とか、「ちょっとここはどうなの?」って、意見だけ言う人もいるけど、『Dr.コトー』の現場は、「ここはもっと近寄った方が自然かな?」「ここでこうやったらどう?」みたいな会話がすごく行われていて、それで時間がかかってしまうんだけど(笑)。特にお芝居には絶対の正解がない。なんでもありなんですよね。こういうも芝居もあるかも、と誰かが思いついたら、ちょっとやってみて、って思っちゃう。みんなちゃんと自分の役をつかんでいるから、どんなトライをしても最終的に成立するんですよね。――生田さんは初めての中江組、どうでしたか?【生田】柴咲さんや監督のおっしゃる通りで、ドライ(カメラなしのおおまかなリハーサル)をやってみて、腑に落ちないところがあると、みんなでディスカッションが始まって。「せりふの順番を変えてみようか」とか、「動きをちょっと変えてみようか」というのを試して、みんなが「しっくりきた」となってからカメラテストに入る。私はついていくのに必死でしたけれど、一方で、現場で、みんなで作り上げていく感じに、いままでにないワクワクを感じていました。【柴咲】『Dr.コトー』の現場は不思議なんです。撮影している時は、本当に大変なんだけど、結果、参加させてもらえたことを誇りに思える。自信を持って世に出せる作品に仕上がっているので文句は言えないな、ってなるんですよね。■今だからこそ響く、「生きる」ことを描いた作品――2022年、このタイミングで『Dr.コトー診療所』の新作を映画館で観てもらえることについてはどう思いますか?【中江監督】作品としては、2006年の第2シリーズで、コトー先生が「待ってるよ」と見送って、「僕、頑張るよ」と言った子、時任三郎さん演じる漁師の息子・原剛洋(富岡涼)が、ちょうど医師になっていてもおかしくないタイミングになってよかったのかな、と思いました。コロナ禍以降、会えなくなってしまった人が何人もいて、多くの人が生と死を考えた瞬間があったと思うんですよね。人は生きている限り、「生きる」ことを全うしなければならない。映画になるまでの16年間も、島の人たちは生きてきたし、これからも生きていってほしい、というのが今回やりたかったことです。島の現在の美しい姿をスクリーンに映し出すというのももう一つのテーマになっていると思います。【柴咲】今回の予告編を初めて観た時に、海の色もコトー先生や島の人たちの空気感も音楽も、「変わってないなぁ」と思えてうれしかったですし、それ通り越して、なんか泣けてくる感じだったんです。 一方で、綺麗きれいごとばかりは言っていられない現実もあるんですよ。自然の厳しさと優しさもそうですが、人間の営みにも相反する部分があって、いいことばかりではない、しんどい、ちょっとつらいみたいなことも持ち合わせながらみんな生きているし、これからも生きていく。 『Dr.コトー』の相変わらずだなぁと思えるところには、世の中が様変わりしても人として忘れてはいけないことがあるんだよ、というメッセージがあるような気がしています。人と人とのつながりが、どれほど大切なのかも改めて感じさせてくれる。今だからこそ響く作品になっていると思います。【生田】本当にいろんな事件が起こっていくのですが、誰一人として生きること、命を守ることをあきらめないんですね。コトー先生を中心にみんなで手と手を取り合って踏ん張っていく。こんなご時世なので、何かをあきらめちゃったり、何のために頑張っているのかわからなくなったりもするけど、コトー先生と先生を取り巻く人たちのそれぞれの思いや生き様が、観てくださる人の心に少しでも響くと良いなと思っています。
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