
Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』4人の監督たちの座談会
京都の花街を舞台に“まかないさん”と“舞妓”の日常を、おいしいご飯を通してつづった同名コミックをドラマ化したNetflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』(2023年1月12日配信開始)。森七菜、出口夏希、蒔田彩珠、橋本愛、松岡茉優、常盤貴子、松坂慶子らが出演する本作の総合演出を務めた是枝裕和監督と、各エピソードの監督を務めた津野愛、奥山大史、佐藤快磨による特別座談会が行われ、是枝監督からは、“シーズン2でやりたこと”も飛び出した。【動画】『舞妓さんちのまかないさん』予告編――是枝監督は制作者集団「分福」を設立して、若い監督の育成に積極的に取り組んでいますし、Netflixでも若い才能がスケールの大きな作品に次々と起用されています。そういった状況の中、今回総合演出という立場で3人の若手監督たちと作品作りを行なって、どんな感想を持ちましたか?【是枝】映画の世界だとやや変則的な感じがしますが、これは特別なことではなく、テレビの世界では連続ドラマではずっとやってきていることなんですよね。チーフがいて、3人体制くらいでシリーズを回していきながら、セカンド、サードの監督たちが育っていく。作品を通して場数を踏み、監督が育っていくという仕組みを、通常の連ドラと同じように採用したつもりです。――3人の監督たちは俳優と同じようにオーディションを通じて選ばれたと聞きました。【是枝】あれをオーディションと呼ぶかどうかはともかくとして、役者さんたちを呼んでオーディションをする時に、分福に所属する監督たちも呼んで、その場で演出してもらいました。そこで彼らの言葉が役者にどれだけ届くのかなど、まわりで見ている中で、明らかに良かったのが今回の3人です。そこには僕も、企画の川村元気さんもいたんですが、僕が選んだ3人も、川村さんが選んだ3人も同じでした。――総合演出という立場で、是枝監督が他の監督たちとコミュニケーションを取ったのはどんなところですか?【是枝】初めに長いプロットを作ったあと、それを各話の脚本に落とし込んでいく中で、ここは台詞を足したいとか、このシーンは撮らなくてもいいですかとか、そのキャッチボールはけっこうしたと思います。ただ現場は監督のものなので、基本的にはそんなに口を出さないように、というスタンスでした。――津野監督、奥山監督、佐藤監督はプロットをどのように脚本に落とし込んでいきましたか?【津野】是枝さんは枝葉の部分が好きな人だし、私もそういう部分が好きだから、自然と脚本の分量が多くなってしまって…。なのでどう削っていくかという作業がメインだった気がします。なおかつ3話と4話を担当することが決まっていたので、このふたつの話が違うトーンになるように意識しました。【奥山】僕が担当した6話と7話は登場人物がある程度出切っていて、それぞれのキャラクターも明確になっている一方、8話や9話ほど終わりに向かっていく必要がないんですよね。また、ロングプロットの段階からすでに完成されていて、原作の1話分の流れに似た構成だったので、そこに自分らしさを加えていくというより、その軸をより明確にしていきたいと思いました。【佐藤】私の担当した8話と9話は、ピークになるようなシーンがはっきりしていたので、そこに向かって盛り上げていくかたちにしていきました。大きく変えたところは特にないんですが、つる駒がゴジラのモノマネをする8話のシーンだけは、是枝さんや川村さんに顰蹙(ひんしゅく)を買いながら、それでも押し切って撮ったんですよね(笑)。■シーズン2でドラマが持つ可能性をより明快にしたい――そのほかにご自身が担当されたエピソードで、好きなシーンや印象深いことがあれば教えてください。【津野】脚本の砂田麻美さんと、女の子が集まった時の"あの感じ"がちゃんと出せたらいいねと話していて、その雰囲気をどこかで収めたいと思っていました。3話のラスト、プリンを巡るシーンでそれが撮れたと思えたのがうれしかったですね。【奥山】このドラマがある種の説得力を持つためには、やはり芸舞妓たちの舞が美しくなければいけないと思っていたので、そこに本気で向き合った百子役の橋本愛さん、すみれ役の出口夏希さんは素晴らしいと思います。5話では百子が"黒髪”を舞うシーンのみ演出を担当しましたが、あの時の橋本さんの気合いの入り方はすごかったですし、6話で百子とすみれが"祇園小唄”を舞うシーンでは、出口さんの練習に橋本さんがぎりぎりまで付き添っていて、それが印象に残っています。橋本さんはお師匠さんからお墨付きをもらうくらい完璧にできるんですけど、撮影直前まで二人で何度も練習する姿を見て、本当に姉妹みたいだと思いました。【佐藤】すみれが見世出しをする9話のシーンは、このシリーズ全体の大団円でもあるので、撮影の日は朝から僕自身がふわふわしていました。振り返ると、出口さんが本当に頼もしくて、シーンを引っ張っていってくれましたし、そんなすみれをキヨがそっと支え、その二人を周りの芸舞妓や大人たちが温かく見守るという関係性が、すでにできあがっていたように思います。僕がいちばん好きなのはすみれとお父さんが無言で対峙する瞬間で、あのすみれの表情は、現場でもいい表情が撮れたなと思いました。――是枝監督は3人の監督のエピソードを観て、どんな感想を持ちましたか?【是枝】みんな各話に上手くハマっているし、それぞれ個性があって素晴らしいです。9話はしっかりまとまっていて、佐藤くんも言ってたけど、出口さんの成長を感じます。最初の頃はおぼつかない様子だったけど、4話、5話くらいからガラッと変わって、9話の彼女は1話とは本当に別人だったと思う。それくらい物語の展開と、出口夏希という女の子が女優になっていく流れがリンクしているんです。そのプロセスが収められるところがシリーズの良さですよね。――最後にNetflixシリーズは各国で制作されていますが、『舞妓さんちのまかないさん』には日本のシリーズならではの良さがあると思います。皆さんの考える本作の魅力はどこにありますか?【佐藤】祇園の人たちは、季節によってしつらえを変えたり、四季の変化に合わせて生活してるんですよね。寒いとか、暑いとか、おそらくそれすらも楽しんで、知恵を見つけて暮らしている気がする。僕は雪国の秋田出身なんですけど、幼い頃、おじいちゃんがパンクした自転車で雪道を走っていたんです。あれも今思えば、パンクしたタイヤの方が雪道を走りやすかったのかなって。そうやって季節に合わせて、楽しみながら暮らしていく視点が、このシリーズの魅力になっていると思います。【奥山】定型的な日本の魅力だけでなく、もっと生活に身近な日本の良さも描かれているところでしょうか。先日、英語吹替版を観てみたら、リップシンクもばっちり合っていて、中でも千代役の吹替の声が松坂慶子さんの声とそっくりなんです。それくらい丁寧に作られていて、海外の方にもクオリティが落ちないかたちで本作の魅力を楽しんでもらえるかなと思うので、海外からの反応も楽しみです。【津野】ストーリーを追わなくても楽しめるところが、いちばんの魅力なのかなと思います。もちろん物語を追う楽しみもあると思いますが、それ以外の時間がとても豊かなんですよね。そのストーリーの外にある余白の部分をきちんと残すことができたのは、今こういう時代にはすごく特別なことなんじゃないかなという気がします。【是枝】このドラマが描こうとしているのは、京都とか舞妓とか和食とか、そういった親しみやすい日本的なイメージの奥にあるもの、日本人の暮らしが本質的に持ってきた四季との結び付きやその豊かさです。それがちゃんと届くと良いなと思います。もしシーズン2があるとしたら、さまざまな人たちが屋形に出入りする一方、その屋形を包む街は300年ずっと変わらないという、そういった視点まで物語を広げたいです。そうなると、家や街や時間といったものの中で、人の営みが繰り返され変わっていくという、このドラマが持つ可能性がより明快になるはずなので。もちろん今回のシリーズでも、その気配がちゃんと伝わるものになっていると思います。
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