
川崎鷹也「魔法の絨毯」で一変した人生 急転する音楽シーン
シンガー・ソングライター・川崎鷹也(25歳)が『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)や『CDTVライブ!ライブ!』(TBS系)などの音楽番組をはじめ、さまざまなメディアで「2021年注目ナンバーワンアーティスト」として取り上げられている。きっかけは数々の配信チャートの上位を席巻中の楽曲「魔法の絨毯」。2018年リリースのアルバムに収録されたこの楽曲は、昨年8月頃、動画投稿専用のSNS・TikTokのユーザーが動画に使用したことから突如として火が付いた。【グラフ】「魔法の絨毯」ストリーミング再生数の推移■「やっと気付いてもらえた」戸惑いよりも嬉しさのほうが大きかった「ステージで歌い始めた18歳の頃からTikTokでバズるまで、やっていることは何も変わってないんです。ライブに来てくれるファンにも『いい曲を歌っているのに、なんで売れないの?』とよく言われていて、僕も『なんでだろうねえ』と返していたくらいで(笑)。だから(反響の大きさに)戸惑うというよりは、『やっと気付いてもらえた』という嬉しさのほうが大きかったですね」(川崎鷹也/以下同) 都内を中心に毎月3~4本のライブ活動を続けてきた。一度ライブを見た人がリピートし、1人2人とファンが増えていく様子に手応えも感じていたという。「聴いてもらえればきっと『届く』という自信はありました。だけど、どうやったら『広まる』のかがわからず、苦しい2年間でした」 そこへ降りかかったのが新型ウイルス感染拡大である。川崎も昨年3月よりライブ活動をストップ。もともとデジタルメディアを駆使するタイプのミュージシャンではなく、「YouTubeに動画を上げるのもライブに来てくれる人を増やすためだった」という川崎にとって、それからの日々は音楽活動を始めて以来、最ももどかしい時期だったと振り返る。そんななか、川崎の運命を変えた1本の動画がTikTokで大きなコミュニティへと育っていた。「僕自身はTikTokをやってなかったので後から知ったのですが、その動画のコメント欄が若い女性たちが集まる恋の悩み相談所みたいになっていたんです。みんなコメントを読んだり書いたりするのに夢中で、最初はBGMくらいにしか聴いてなかったと思うんですけど(笑)、コメント欄が伸びるうちに『この曲いいよね』『誰の曲?』と注目してくれるようになり広がっていったみたいです」 誰もがステイホームを余儀なくされたなかで、TikTokのアクティブユーザー数が飛躍的に伸びたタイミングも追い風となったのかもしれない。■「自分のやってきた音楽は間違ってなかった」TikTokでの評価は大きな自信に「TikTokを始めてみて気付いたことなんですけど、TikTokってSNSの中でもコメントのフットワークが軽いので、“好き、嫌い”、“良い、悪い”の気持ちも率直に表れるらしいんです。そこで評価されたことは、大きな自信になりましたね。自分のやってきた音楽は間違ってなかったんだ、と」 一度聴いたら忘れられないハスキーな歌声と、シンプルでありながら癖になるメロディーライン。今やTikTokやYouTubeには無数の「魔法の絨毯」の弾き語り動画が投稿されている。「おうち時間」を少しでも充実させようと、世界的にアコースティックギターやウクレレといった楽器の売上が伸びているデータもあり、弾き語り人口が増えたことも「魔法の絨毯」の拡散につながったようだ。「僕の楽曲はコード進行が簡単なので、弾き語り初心者にも入りやすかったのかもしれません」と川崎は分析している。 このようにコロナ禍によるさまざまな要因が重なり、SNSで支持と認知を広げていった川崎だが、前述のように主戦場としてきたのはライブハウスであり、生で音楽を届けるこだわりは今も変わりがない。「たとえ30人キャパのライブハウスであっても、そのまま武道館でも演れると思えるようなステージを作ってきました。だからバズっていきなり音楽番組に呼ばれるようになっても、腰が引けることはなかったです。もちろんめちゃくちゃ緊張はしましたけど(笑)」 川崎鷹也が間違いなく才能あふれるミュージシャンであることは、リスナーの支持が証明している。しかし「魔法の絨毯」が2年前にリリースされた楽曲であること、さらにその間もたゆまずライブを続けてきたにも関わらず、音楽業界は川崎にリーチできなかった。コロナ禍のタイミングがなかったら、もしかしたら今も"30人キャパのライブハウス"で歌っていたかもしれない。これは音楽業界の大きな損失である。「僕が主に出演していた四谷天窓(2020年11月閉店)というライブハウスは弾き語りシーンではけっこう名門だったんですが…、音楽関係の方に声をかけられたことはなくて。ただ『魔法の絨毯』が広まった流れからいっても、今はリスナーのほうが、耳が早くなっているのかもしれないとも思うんですよね」■「アーティストにはいい環境に」従来の方法論ではなくリスナーに出会える時代 ライブハウスはもとより、ネットにもメジャー、インディーズに関わらず音楽は溢れており、「いい曲」「いいミュージシャン」であっても、気付いてもらうことはますます難しくなっている。「魔法の絨毯」のように幸運をつかむケースはほんのひと握りではないかとも思えるのだが、「そうではない」と川崎は言う。「僕はその考え方を変えたいと思っているんです。いいものが正当に評価される状況を作りたい。ライブハウスでやっていた頃から、僕の周りにはいいミュージシャンがたくさんいました。僕はぜんぜん音楽業界に詳しいわけではないけれど、従来の方法論ではないやり方でリスナーに『気付いてもらえた』からこそ、何かしら突破口が開けるんじゃないかと思っているんです。そういう意味でアーティストにはいい環境になってきていると思います」 2年間、会社員との二足のわらじで活動してきた川崎だが、昨年11月に音楽活動が忙しくなったことから退社。また昨年4月には第一子が誕生しており、コロナ禍真っ只中の2020年は、さまざまな転機の年となった。「会社員時代から、音楽に対する向き合い方や考え方は変わってはいません。会社も僕の音楽活動を応援してくれていて、ライブを優先させてくれるようなところだったんですよ。だけど、現状維持を続けていたらいずれは衰退してしまう。もっと成長するために(退社して)環境を変えようと決断しました。アーティストとしてはもちろん、子どもに胸を張れるようなカッコいい大人になりたいですからね」 コロナ禍で不自由な状況を強いられているアーティストは多い。音楽シーンも多大な影響を受けている。しかし、川崎の身に起きたこの1年の変化を目にして、新たな可能性、チャンスが生まれていることを感じる。この流れを味方につけた彼は、音楽シーンでどんな存在感を発揮していくのか、楽しみに待ちたいと思う。(文・児玉澄子)
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