多様なアイデアを実現するイープラス双方向型オンラインイベントサービスの潜在力
2020年春から一気に広まったオンラインライブ。すっかり定着した感はあるものの、その中身は、「観るだけで楽しい」から「何を見せるか、どう参加してもらうか」へとフェーズが移行しつつある。そうした中で、オンラインイベントサービス「Streaming+」を運営するイープラスは、“Zoom会議”で知られるZoom Video Communications, Inc.(以下「Zoom社」)とパートナーシップ契約を締結。双方向型のオンラインイベントサービス「Streaming+ LITE Powered by Zoom」を2月17日にスタートさせた。同サービスを通じてアーティストはどんなコンテンツを提供でき、視聴者は何を体験できるのだろうか。【写真】オンラインライブに適した映像配信・収録スタジオ「eplus STUDIO」■オンラインライブのあるべき姿を模索 たどり着いたZoom配信システムの活用 イープラスは20年5月に、かねてから準備していた独自のオンラインイベントサービス「Streaming+」をローンチした。開発に着手した当時、ライブ市場は右肩上がりに拡大していたが、入場チケット以外の付加価値の絶対的な必要性を感じていたことや、チケット販売会社として新たな独自カラーを打ち出したいという思いが背景にあった。 新型コロナウイルス感染拡大によってリアルライブの開催が困難となったことで、一気にオンラインライブに注目が集まり、「Streaming+」利用も順調に増加していったが、半年も経たないうちに視聴者側、そしてアーティスト側からも「やっぱりリアルなライブがいい」という声が高まっていった。回数を重ね、その一方通行感に物足りなさを感じるようになったことがその理由、と同社映像コンテンツ事業部統括部長・横山大輔氏は振り返る。「そこで20年末あたりから、より満足していただけるオンラインイベントのあるべき姿について、方々から意見を募った結果、より出演者と視聴者のコミュニケーションをとることができる、双方向型オンラインサービスの実現に向けた検討を始めました」(横山氏) もちろんその時点でも、アイドルとのオンライン握手会など双方向型イベントは行われていたが、販促やサービス目的のものが中心であった。「我々はそこを狙うのではなく、もう少し大人数で、アーティストとファンがリアルタイムで一緒になってワイワイと楽しめるようなオンラインイベントが実現できないだろうかと考えたんです。その時に、双方向型サービスを安定したシステムで提供するZoom社に注目しました。すでに多くの人がZoom利用に馴染みを持っていることもメリットを感じました」(横山氏) 同じタイミングで、Zoom社が個人/法人ライセンスの販売以外に様々な企業に対するZoom配信システム活用の営業を始めていたこともあり、21年6月頃から協議を始めて12月にはシステムが完成、今年2月に「Streaming+ LITE Powered by Zoom」ローンチと、1年も経たないなかでのサービス開始となった。■今後主流となりそうなオンラインライブ2つの方向性 イープラスでのオンラインライブの現状を横山氏に聞くと、20年と21年で総数は変わらないが、音楽関連の利用が減り、アニメやゲームジャンルのイベントが増加しているという。「アニメやゲームは、元々それ自体が映像作品で、画面を見てファンが楽しむコンテンツですから、イベントに関しても、音楽以上にオンラインライブと親和性が高く、しかもイベント会場に行きたくても行けない方が全国各地にいて、それが自宅で楽しめるのであれば十分に楽しい、と満足する方の割合が、音楽ライブのファンよりも多いように感じています。一方で、音楽の開催本数は減少していますが、なかには継続して行われているアーティストもいます。共通点は、比較的小さなスペースで、あまり予算をかけずに行える内容であること。アコースティック演奏やトークの比率を高くして、1回あたり100~200人の集客をイメージして制作することが、コンスタントに続けるポイントだと思います」(横山氏) さらに横山氏は、興味深いデータを紹介してくれた。従来、同社のチケット販売サービスの利用者層のピークは20代から30代前半の女性であったが、オンラインライブを始めてから、そのチケット購買者は40代半ばから50代前半が中心と、ピークが異なっているという。この層は、90年代に最もCDを購入していた音楽好きの世代。仕事や家庭の事情で一度は音楽から離れてしまったものの、自宅でもライブが観られるならばと、再びライブに戻ってきたり、あるいはそこで新しいアーティストのファンになったり、という世代だと考えられる。これらのデータを踏まえて、今後のオンラインライブのアプローチとして主流となりそうな2つの方向性が考えられるという。「例えばベテランアーティストだと懐かしい曲をエピソードと共に披露するといった構成で、ファンの心を掴むことができると思います。リアルライブだと、新曲や今の自分を観せる構成になりますから、それとは異なる内容で楽しんでもらうことができるでしょう。一昨年にB'zさんが開催した、これまでの歴史を振り返る『B'z SHOWCASE 2020 -5 ERAS 8820- Day1~5』は、まさにこの考え方で大成功を収めました。もう1つは、サカナクションさんのように、まったく新しいエンタテインメントとして、自分たちの新たな魅力をファンにアピールするアプローチ。今後はこのいずれかの方向性が中心になっていくと思います」(横山氏) 特に前者のアプローチで活きてくるのが、今回スタートさせた「Streaming+ LITE Powered by Zoom」の双方向コミュニケーションだ。現状、出演者と視聴者のやり取りの手段はライブチャットやコメントが中心だが、20~30秒ほどのタイムラグが生じるうえに、大量のコメントが一気に寄せられると、出演者はすべてのコメントを拾うことは不可能となる。そこで同サービスのリアルタイムかつ相互のやり取りできる点が大きな武器となるわけだが、そのメリットを活かすためには、視聴者に、「アーティストと同じ空間にいる」ことを体感させることが重要になる。「いくら同サービスを利用いただいても、アーティストが一方的に話したり、新曲を聴かせたりするだけでは従来のオンラインライブと大差がありません。そこで、新曲の感想を聞く、ゲームをするなど、視聴者がレスポンスできるような進行が大切です。また、参加者の1人と個室的なオンライン空間で会話できるZoomの機能、ブレイクアウトルームを使えば、オンライン握手会的なことも実現できると思います」(横山氏)「もう1つのメリットは手軽さです。多くの方がZoom会議を体験されていると思いますが、Zoomだと自宅や出先からでも、大がかりな機器を必要とせずに、PCやスマートフォンですぐにオンラインライブが行えます。そこで、アーティストだからといって必ずしも音楽を聴かせる必要はなく、料理など自分の得意なことを披露したりと身近な雰囲気を出したり、アーティストの普段とは違った側面を伝えることも、ファンにとっては大きな魅力になります。そうした手軽さを活かしたイベントにも活用いただけると思っています」(同社映像コンテンツ事業部・吉村玲未花氏)■双方向型オンラインイベントを気軽に開催できる配信スタジオ「eplus STUDIO」 昨年11月に同社は、そういったオンラインライブに適した映像配信・収録スタジオ「eplus STUDIO」をオープンした。収録・配信に必要な機材や照明、装飾品などを備えており、元ライブハウスを改装して作ったスタジオのため、楽器の演奏も可能だ。また、システムさえ持ち込めばXRライブの実施も可能となっている。そのほか、装飾にこだわった楽屋スペースでは、サブ・スタジオとしても使用できる仕様になっており、多様なイベントに対応できるのが強みとなっている「オンラインライブは会場費、機材諸々含めて意外と費用がかかります。大きな会場を借りて無観客ライブだとなおさら採算が合わない。かと言って、ライブハウスでは、そもそも会場の作りからして絵作りが難しく、映像収録スタジオだと楽器が演奏できない場合がほとんどです。そこで、トークだけであれば、来ていただくだけですぐに収録や配信が行えて、楽器を持ってくればライブ演奏もできるスタジオを作りました」(横山) リアルなライブパフォーマンスが少しずつ元の姿を取り戻しつつある今、オンラインライブは、リアルライブの代替から、1つのオンラインエンタテインメントとしての新スタイルを模索する時期に突入した。その中で同社が実現した双方向型オンラインイベントサービスは、視聴者に新しい体感を提供できる場でありつつ、アーティストのユニークな創造力が活かせる場でもある。 さらにエンタテインメントの枠を広げれば、美術・博物展覧会の前売券購入者が、学芸員や著名人による作品解説に参加できるなど、チケット販促目的として双方向を活かしたオンラインイベントを行うことも可能だ。こうした多様なアイデアが実現可能となる同サービスからどんなコンテンツが生まれてくるのか、アフターコロナを見据えても興味深いサービスのスタートだと言える。それと同時に、チケット販売を主とする同社がエンタテインメントの基盤である環境やシステム作りに積極的に関与しようとする姿勢も注目に値する。 エンタテインメント業界はコロナ禍で大きな打撃を受けた。しかし同社の施策が成功すれば、「コロナ禍は、必ずしもマイナスだけではなかった」と振り返られる日も、それほど遠くはない日に訪れそうだ。文・布施雄一郎
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