
“修羅場”消えた令和の恋愛ドラマ、当て馬・悪女ブレイクが出にくい時代に?
今月から続々と春ドラマが始まるが、前クールの『星降る夜に』『夕暮れに、手をつなぐ』『リバーサルオーケストラ』『100万回言えばよかった』において、目立った“当て馬”役が出てこなかった。どの作品でも主人公やヒロインの恋敵的な役が現れるも、どの人も“2人が幸せならそれでいい”的な応援スタンスで、修羅場シーンは皆無。昨秋期のヒット作『silent』でも、脚本家の生方美久が「当て馬キャラを作らない」ことにこだわりがあったと明かしていた。令和の恋愛ドラマに、“恋の修羅場”が描かれなくなった理由は何なのだろうか。【画像】「俺じゃダメか?」キムタクが“当て馬”役で登場した『あすなろ白書』名シーン■ディーン・フジオカ&松山ケンイチを以てしても、割込アプローチや修羅場は一切なし 1~3月期に放送された『星降る夜に』では、主人公・雪宮鈴(吉高由里子)の恋のライバルとして、柊一星(北村匠海)に思いを寄せる吉柳咲良(北斗桜)が登場した。しかし、5話まで何のいざこざもなく、6話で咲良が一星に一方的にキスしたところを鈴が目撃するも、鈴と咲良が衝突することもなければ、鈴が一星に「キスされてたでしょ」と穏やかに突っ込むだけで、喧嘩の種にすらならず。その後も、咲良が2人の関係を脅かしたり、鈴を嫉妬させたり不安にさせたりするようなシーンは一切出てこなかった。 となると、2人の仲を阻むのは、雪宮鈴(吉高由里子)の同僚・佐々木深夜(ディーン・フジオカ)かと思われた。深夜にとって鈴は自分の運命を変えた大切な存在で、ストーカー被害から身を挺して守るシーンもあった。しかしこちらも、若干の敵対心を見せていた一星とも瞬く間に仲良し関係になり、3人でキャンプに行く始末。深夜と鈴と一星は、いわゆる恋愛が絡む“三角関係”とはならず、作中では「太陽と月と地球のような関係」と表現された。 演者としては、恋敵的ポジションの北斗桜やディーン・フジオカよりも、鈴に恨みを持ち、執拗な嫌がらせを仕掛ける伴宗一郎(ムロツヨシ)の方が強く印象に残る作品だった。 井上真央×佐藤健の『100万回言えばよかった』に関しても、相馬悠依(井上真央)に思いを寄せる魚住譲(松山ケンイチ)が登場。3人一緒のシーンが大半を占めるドラマだったが、やはり修羅場は皆無。魚住は終始、2人の恋を応援し、最後まで悠依に思いを明かすこともなく、アプローチするシーンさえ描かれなかった。 これまで『あすなろ白書』や『愛してると言ってくれ』、『ロングバケーション』や『ビューティフルライフ』『オレンジデイズ』など、複雑な恋愛関係を描いてきた北川悦吏子脚本による広瀬すず×永瀬廉の青春ラブストーリー『夕暮れに、手をつなぐ』でも、やはり修羅場や目立った恋敵・当て馬キャラは出てこなかった。■現代のドライな恋愛事情を反映? 当て馬+修羅場のお決まりパターンは“非リアル”な時代に どの作品も恋のライバルが登場したかと思えばすぐ消え、揉める事もなく、奪い合う事もなく結末を迎えた。これは一体、何故なのだろうか。そのヒントとして、秋期のヒットドラマ『silent』の脚本家・生方美久氏が『ボクらの時代』で「自分がラブストーリーを見てて1番嫌だなと思うのが“当て馬”っていうポジション」「恋が実らない子を当て馬だとかかわいそうな子みたいな、ありがちな“反発して結果身を引く”っていうだけの子にしないっていうのは1番こだわりました」と語っていた。 「生方さんは29歳。相変わらず週刊誌や漫画界ではかつての昼ドラ並みのドロ沼展開がにぎわせていますが、ドラマとなると、主役は若者の恋愛になりがち。この世代のリアルな恋愛観が反映されていたからこそ、現代の視聴者の共感を広く得られたのでは」と分析するのは、メディア研究家の衣輪晋一氏。「また生方さんは、尊敬している脚本家として坂元裕二さんや信本敬子さんの名を挙げています。特に坂元さんの脚本においては、登場する人物、その誰もが主人公足りうるほどに深堀られており、生方さんがいう“ありがちな”というドラマの構図における“記号”のような描き方はされません。人物を一人ひとり、その世界に生きるリアルな人間として描かれた結果が『silent』のヒットにつながったともいえます。それに加え、今の若者は昔ほど恋愛への興味が強くない。衝突や争いも避ける傾向にあり、誰かを熱く奪い合う“当て馬+修羅場”構造が共感を呼びにくい時代なのでは」(同氏) 実際、前クールで高評価だった『ブラッシュアップライフ』と『罠の戦争』に至っては、恋愛描写シーンがほぼゼロ。何よりSNS上では「恋愛要素がないのが良い」という声が見受けられた。 恋愛に頼りすぎると、出会い⇒ライバル登場⇒嫉妬&喧嘩の修羅場⇒すれ違い⇒ハッピーエンドの同じパターンになりがちで、当然視聴者も飽きてくる。それに引き替え、『星降る夜に』は第1話からいきなりのキスシーンが話題を呼んだ(賛否あったが)。そして以後、一星が聴覚障害を抱えながらも、2人のすれ違いはあまりなかった。『100万回言えばよかった』も、冒頭で直木(佐藤健)が幽霊となって現れたことから、幼馴染で恋人の悠依(井上真央)とのド直球ラブストーリーが描かれるかと思いきや、物語の後半は直木を殺した犯人を追うサスペンス要素が強い展開だった。■嫉妬に狂うだけでは共感が呼べない… “付加要素”求められる令和のラブストーリー 今月からスタートする春ドラマに関しても、“ザ・恋愛”というよりは、何かしらの要素をプラスしている作品が多い印象だ。 田中圭&高畑充希の『unknown』は殺人事件が発生する秘密を抱えた男女の“ラブ・サスペンス”。 橋本環奈&山田涼介の『王様に捧ぐ薬指』はド貧乏シンデレラとツンデレ御曹司の“ラブコメディ”。波瑠&高杉真宙『わたしのお嫁くん』はズボラ女子と家事男子の“社会派ラブコメディ”。萩原利久&トリンドル玲奈の『月読くんの禁断お夜食』は“グルメラブストーリー“と、複雑な恋愛模様で物語を盛り上げる作品は今期も少なそうだ。「しかし『あすなろ白書』の取手治(木村拓哉)や『花より男子』の花沢類(小栗旬)、『花ざかりの君たちへ』の中津秀一(生田斗真)、『ブザー・ビート』の相武紗季、『花のち晴れ』の今田美桜など、ライバル的ポジションで好演し、それがブレイクのきっかけとなった俳優は数多い。実写化が多い漫画やアニメ界でも過去より“負けヒロイン”、“負けヒーロー”というポジションが存在していますし、報われなくても一途に誰かを想う当て馬キャラや、嫉妬に狂い物語をかき乱すヒール役は、メインキャラよりも共感を集める可能性や、演者としてインパクトを残すチャンスを大いに秘めています」(同氏) ここ数年で印象に残っている“悪女キャラ”と言えば、『M 愛すべき人がいて』の田中みな実くらいだろうか。もはやコメディとして笑える境地にまで達していたが、嫉妬に狂う強烈な演技で、田中は俳優として着実にインパクトを残した。ドラマ界においては恋の修羅場が共感されにくい今、恋敵にも個性が求められてくるのかもしれない。 その田中もメインどころで出演する13日スタートの『あなたがしてくれなくても』では、セックスレスを抱える夫婦の“禁断恋愛”が描かれる。果たして同作ほか春ドラマにおいて、新たな当て馬&悪女キャラは出てくるのか、注目したい。(文/西島亨)
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