ラノベ原作を超えてきたアニメ「 俺ガイル 」の魅力とは
応援してきたラノベがついにアニメ化!わくわく待機して、いざ観てみたら……いやこんな雰囲気じゃないんだけど!?なんて悲劇、経験したことありますよね。私はあります。アニメにはアニメの良さがある。それを踏まえて原作のよさを活かしたアニメが観たい!というわけで、そんなわがままに答えてくれたおすすめタイトルを紹介します!このページの目次1 俺ガイル こと「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」2 主人公「比企谷八幡」に見る現代のヒーロー像3 他のヒーローだったらこうはいかない4 アニメはラノベの脚本なんかじゃなかった5 結論。 俺ガイル はいいぞ、としか言えません。■俺ガイル こと「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」これです。これ一択です。原作が「このラノ」に選ばれたことでも有名、愛称は「俺ガイル」。渡航先生が描く根暗な主人公「比企谷八幡」の独特な語りが混じった地の文が人気を博し、2013年にアニメ化。総武高校一年生の比企谷八幡という男子生徒が主人公で、彼はどこまでも卑屈で根暗、そして優しい男の子。他人のことを考えて考えて考えて、周りの生徒たちには理解されないある種冷徹な優しさを持っています。そんな彼が属する「奉仕部」は一風かわった部活動。お悩み相談室のような立ち位置で、総武高校生はもちろんのこと、ときには学外の問題解決にも乗り出します。部員はたった三人、主人公を除いて残り二人の女子生徒によって構成されています。雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣の二人がメインヒロイン。かわいいです。ヒロインという概念を擬人化したような素敵な女の子が二人も出てきてくれること以外は何の変哲もない学園モノなんです、異能も異世界も出てきません。なのに、面白い。どこが魅力かといえば、やはり「共感」です。現代の若者の心をがっちりつかんで離しません。物語の構成的には確実に主人公が「ヒーロー」として機能しているんですが、問題を解決したあとにアンパンマンや戦隊モノのようなプラスな後味は味わえません。むしろ後味悪いんですが、それはこの話がどこまでも人間を描いていて、完全な悪者が一人もでてこないからだと思うんです。正常な周りの人たちはどこまでも人間的で、逆にこの主人公「ヒッキー」がどこまでも卑屈で根暗、内巻きな精神構造をしていて誰より純粋なんです。■主人公「比企谷八幡」に見る現代のヒーロー像画像引用元:©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。続たとえば主人公の人柄がわかるエピソードがあります。文化祭を控えてばたばたしている総武高校の一室、実行委員に選ばれていた比企谷と雪ノ下のふたりは頭を抱えます。理由は実行委員長に立候補した女子。この女子、全く仕事ができません! それどころか雪ノ下の優秀さに嫉妬し仕事を丸投げして帰ってしまう始末。それに対して腹を立てている役員たちですが、当然なにも言えないまま時間が過ぎていきます。そのなかに比企谷も含まれているんですが、ついに彼が動きます。比企谷は全員の前でわざと委員長に喧嘩を売ります。正論は言わないのです。あくまで「俺の愚痴だけど」というスタンスを貫き、実態のない「みんな」や最も迷惑を被っている「雪ノ下」の名前を一切出しません。ただ「俺が仕事多くてやってらんねえ」というスタンス。彼は正義を後ろ盾にせず立ち向かうのです。委員長がサボっているせいで仕事が滞っている、俺なんてこんなに仕事させられてるんだ、どうにかしろよ、という主張を根暗に、卑屈にぶつけます。あえて意地の悪い言葉で伝えているのではないかと私は思いました。そうすることで実行委員の間で流れていた「委員長仕事しないよな」という空気が「比企谷って最低だな/自分が楽したいだけかよ」という方向にシフトするのです。集団を団結させるためには共通の敵を作るのが一番であることを理解しているから、わざと悪役を買って出たのです。■他のヒーローだったらこうはいかない画像引用元:©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。続きっとこの場にアンパンマンや戦隊ヒーローが居ればきっと正論を振りかざして鉄拳制裁で「悪を倒す」んですよね。「やめろー、バイキンマン! カバオくんのご飯を返せ! 困ってるだろ!」とか言いながら、悪が悪である理由を明確に提示しながら殴るんですよね。この例で言えば「雪ノ下が困ってるだろ! 自分の仕事は自分でこなせ!」という正論が当てはまります。全く隙のないド正論です。ぐうの音もでません。だから僕ら受け手はバイキンマンや委員長の女の子に直接何かされたわけではないのに彼や彼女に対して悪いやつなんだな、と納得します。そしてアンパンマンのパンチを待ってましたとばかりに迎え入れます。でも、なぜバイキンマンは食べ物を奪うんでしょう。例えばバイキンマンが餓死寸前にまで追い込まれていたとしたら、潤沢な食べ物を持て余しているカバオくんから食べ物を奪うバイキンマンを悪者だと言い切れるでしょうか。正義の名のもとに弱者をボコボコに殴る輩を、本当に正義だと、ヒーローだと思えるでしょうか。これはアンパンマンワールドでは絶対にありえないことですが、私達が生きているのは現実です、そして人間です。往々にして真面目な人や弱者が悪者として糾弾される悲劇が起こりうる残酷な世界です。比企谷八幡は立派な思想も正義を声高に叫ぶ勇気も持っていません。それでも、人間として正義をまっとうするための論理を、彼なりに考え抜いた末に準備しています。無力な彼は人を助けるたびに自分を賭け金として差し出し続けるのです。それは他人から見れば根暗で卑屈だったとしても、彼の中には確かに彼なりの正義があるのです。先程の例で言えば委員長という強い立場ではなく一役員である比企谷を悪者にすれば、集団の鬱憤も発散しやすいことを見越していたのではないでしょうか。自分のことを攻撃してくる相手のことまで先回りして考え、ほんとうの意味での自己犠牲とともに問題の解決を図る主人公。そこに、現代の空気感を反映したヒーロー像を見るのです。■アニメはラノベの脚本なんかじゃなかった画像引用元:©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。続原作に絵と声と歌がついただけがアニメじゃありません。アニメには、アニメという媒体でなくては伝えられないものがあります。俺ガイルの独特の空気は原作を読んだ方には分かっていただけると思います。間違いなくエンターテインメントなんですけど、純文学としても通用する概念を扱っているんですよね。これをどうアニメにするんだろう、って思っていました。正直、あまり期待せずに観たんですよね。観終わったとき、本当に震えました。原作で読んでいるから結果の分かっている30分アニメって苦痛なんじゃないかって思っていたんですけど、全くそんなことはなくて。この作品の特徴として、教室内の微妙な空気を描くのがとても上手いという点が挙げられるのですが、あの教室という特別な空間を文章だけで補完するのは本当に難しいです。アニメは動画と音楽と声が雰囲気を媒介してくれます。あの微妙な教室の空気を描くのにはアニメが最も適しているんだとこのアニメを観て痛感しました。他にも俺ガイルには分かりづらい空気がふんだんに盛り込まれていて、そこが持ち味なんですが、キャストの江口さんの演技も相まって、原作の空気感が完全に再現を超えて表現されている印象でした。とくに、一期の終盤である文化祭のシーンには雪ノ下、由比ヶ浜たちのライブシーンがあります。あのシーンまで観た人は確実に主人公と同じ視点でステージを眺めていることでしょう。完全な同化です。あれはアニメにしかできないことだと、断言できます。■結論。 俺ガイル はいいぞ、としか言えません。もう俺ガイルを語るだけ、みたいになってしまった気がしますが、結論俺ガイルはいいぞ、としか言えません。ヒーロー像がどうとか、そんな小難しいこと考えずに読んでも純粋に楽しめるのが俺ガイル。ヒッキーの心情に感情移入しても楽しめるのが俺ガイル。雪ノ下のデレに萌え死ぬのも俺ガイル。由比ヶ浜にただただ惚れ込むのも俺ガイルなんです。もしまだ読んでいない、という方。そんな方は現代日本にもう存在していないと分かってはいるんですが、一応、未読だよという方。新刊が出ます。新刊が、でます。(数年出ていませんでした)これを機にアニメ、原作で俺ガイルの世界に触れてみてはいかがでしょうか。そうだ、漫画もあります!文章:一身上の都合正真正銘の「 俺ガイル 」マスターに、オレはなる!(あにぶ編集部/あにぶ編集部)
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