保志総一朗『ガンダムSEED』役作り悩んだ22年 キラの成長に追いつけず…続編期待で「完結するような物語ではない」

保志総一朗『ガンダムSEED』役作り悩んだ22年 キラの成長に追いつけず…続編期待で「完結するような物語ではない」

 約20年の年月を経て全国公開を迎えた大人気アニメ「機動戦士ガンダムSEEDシリーズ」の完全新作となる『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。“21世紀のファーストガンダム”と呼ばれる「SEEDシリーズ」の劇場版は、2006年に制作が発表されてから紆余曲折を経て、今年ついに公開を迎えた。1作目から主人公のキラ・ヤマト役を演じている声優・保志総一朗にインタビューを実施し、劇場版が公開された心境、20年以上演じ続けてきているキラへの印象の変化と想い、「SEEDシリーズ」が自身のキャリアでどのような位置づけになっているかなどを聞いた。(取材・文:遠藤政樹/編集:櫻井偉明)



【画像】アスランに殴られた直後のキラ…公開された劇場版の名場面カット



■封切りに安堵も「何かが終わっちゃうような寂しさ」



 『機動戦士ガンダムSEED』は、2002年10月より全50話で放送された、21世紀に入って初めて制作されたテレビシリーズのガンダム作品。物語は遺伝子調整がおこなわれた人類(コーディネイター)とこれまでの人類(ナチュラル)が、軍事組織ザフトと地球連合軍にわかれ戦いを繰り広げる。この戦争を通じ、コーディネイターである主人公のキラ・ヤマトの苦悩と成長が描かれている。



 2006年に制作が発表されて以降、続報が途絶える中、2021年5月に『機動戦士ガンダムSEED』20周年を記念したプロジェクト「GUNDAM SEED PROJECT ignited」が始動。2023年7月にタイトルと公開日が発表された。約18年越しの劇場版公開に、保志は「自分の中にとっておきたいというか。見せたいような見せたくないような気持ちもあって、まだちょっと複雑です」と心境。



 「20年近く待ってきたので、まだ自分の中でとっておきたい気持ちや見せちゃう寂しさもある。変な話ですけど(苦笑)。劇場版で出てきたモビルスーツやキャラクターの話題や、その先の物語を想像して楽しみたいけど、公開されると何かが終わっちゃうような寂しさも。ただ無事に公開されているので、それが一番。やっぱり公開されて良かったです」。



 劇場版を待ち望んでいたファンも、ようやく見られる喜びと同時に何とも言えない寂しさを感じている意味では近いのではと話を振ると、「そうですね」とうなずく。



 「ファンも予想や想像していた中で一つの“答え”のようなものが提示される。それが自分の求めていた『ガンダムSEED』なのか。もっと違うものが見たかったのか。人それぞれいろんな思いや感情があるから、劇場版をどう受け止めてくれるのかは怖いです」。



■劇場版の物語には納得 続編への期待も「完結するような物語ではない」



 公開までの約18年の間、ファンからは「とにかく『ガンダムSEED』のキラが好きと言ってくれる方が多くて、『劇場版待っています』『頼みます』と嘆願されるような感じで言われていた」と多くのメッセージが寄せられ、「僕もその気持ち僕もわかるし、やりたいって思っていました」と笑う。



 「逆に言うと待たせておく方が『SEED』をずっと追いかけてきてくれるのでは(笑)。それぐらいSEED愛が強い人が多い」と冗談めかしつつ「『FREEDOM』で完全燃焼され、“卒業”みたいになられてしまうと寂しい。まだまだこの後の『SEED』の世界を見たいと思ってもらいたいし、引き続きSEED愛を持っていってもらいたい」と本音を打ち明けた。



 自身は劇場版について、「『SEED』に求めるストーリーの続きやキャラクターの行く末は人それぞれ違うと思うし、待ち続けたがゆえの望みはたくさんあると思う」と前置きし、「そう考えたとき、僕はキラとラクスがこういった感じでピックアップされるとは思っていなかった。ただ自分はキラを演じているから、キラ視点で見て、キラとラクスが描かれることについて違和感はなかった」という。



 「『SEED』の中の一つの物語の続きとして、こういう形の物語もあるということ。続編があるかとかではなく、『SEED』は何か完結するような物語ではないと思っているし、今回はこういった物語の中でいろんなキャラクターのドラマを描いたと解釈しています。その中でみんなの見たい、知りたいキャラクターのドラマをどれだけ見られたか。楽しめたかは、人それぞれ感じ方は違うと思います」。



 またエンディングの解釈には、「これはどっちだろう、と。続きを見ないと気がすまない人もいるのでは? いろいろ想像の余地があって楽しいけど、この劇場版である種の“答え”のようなものを見せられると、逆に火がついちゃいますよね」とニヤニヤ。



 「もっと見たくさせちゃうというか。ファンの皆さんもこれで終わらないでという想いがきっと生まれるはず。そうやって『SEED』の世界が広がり盛り上がれば、また福田監督のモチベーションが上がって新たな物語を作ってくれるのではと、僕も期待しちゃいます」。



■ともに悩んだアニメ第1作から、キラの成長を実感した第2作&劇場版



 劇場版が公開されるまでの約18年間もゲームなどでキラのキャラクターボイスを担当してきた保志。『DESTINY』ではある意味悟りを開いたかのような境地に至っていたキラだが、『FREEDOM』では『SEED』時代を彷彿させるような葛藤や危うさを感じさせる雰囲気も漂わせ、保志も「ある意味『FREEDOM』でまたちょっと印象が変わった」と口にする。



 「『DESTINY』で一旦、最新のキラのイメージが自分の中では止まっていたのですが、毎年ゲームなどで『SEED』時代のキラを演じる機会もある。不思議な感じもするし、ちょっと混乱するような感覚もどこかありました」と告白。



 その感覚について、「最初は『機動戦士ガンダム』のアムロじゃないけど、キラが成り行きで戦争に巻き込まれて何もわからず悩み葛藤しながら成長していく部分が、『ガンダムSEED』に関わってアフレコしていた自分に重なるところもあった」と説明し、「キャラクターを深掘りしていくより、毎週キラとともに必死に悩んで乗り越えて頑張る気持ちの方が強かった」と振り返る。



 「自分はあの時キラと一緒になれていた感覚があった。ただ『SEED』で成長してラクスからフリーダムを託され、そこから『DESTINY』に至るキラの成長は、自分の中では二段階も三段階もキラが僕より先に進んでしまった感じがあった。一緒に悩んで乗り越える時代ではなくなった感覚が『DESTINY』時代にはありました」。



 今作では作品世界内の時間軸が進んだキラを演じ、「改めて強さだけじゃない弱さだったり危うい部分だったり、そういった人間としての魅力、『DESTINY』時代ではわからなかった“本当のキラ”のようものを感じた」と魅力やらしさを再確認したという。



 劇中でキラはラクスの行動に対して「彼女は僕らを裏切った」など泣き言を口にする場面もある一方で、「僕は自分の手で未来を選ぶ」という新たな一歩を予感させるセリフもある。「SEEDシリーズ」ならではのキャラクターの心の揺れがドラマへと直結する仕掛けともいえるが、保志は「どんな状況になってもやっぱりキラはキラ」と言ってうなずく。



 「ちょっと自分の中では意外な部分もあって、ファンも『DESTINY』時代のあのキラになった印象が強いと思うから、キラへの見方や印象もかなり変わると思う。セリフもかなり思い切っていて。キラに限らず、大事なことがセリフに散りばめられ、名ゼリフとして今後ピックアップされるものも多いと思います」。



■アスランは「親友」 ラクスとは「“ケジメ”を」



 キラを語る上で欠かせないキャラクターである、アスラン・ザラとラクス・クライン。今作ではライジングフリーダムガンダムに搭乗するキラの“撃墜”や、ラクスがキラのもとから離れていってしまうような衝撃の展開も描かれている。自信を喪失したキラを叱咤激励するのがアスランだが、関係性を「やっぱり親友だよね」と言い切る。



「『SEED』時代もいろいろあったし、乗り越えたと思ったら『DESTINY』でもいろいろあった。なんだかんだアスランとはいろんな意味で戦っています。でも根底には親友としてお互いが好きという想いがあり、そこは揺るがない。その中でいろんなすれ違いやぶつかり合いがあるので、2人の“戦い”にはドラマがある。やっぱり毎シリーズほしいですし、今回も描いてもらえてうれしかった」



 今回の劇場版における中核の一つとも言えるラクスとの関係性には、「予告編やキービジュアルなどでもキラとラクスの物語が推されていましたし、“ケジメ”を一つ見せておきたいと感じていました」と前置きし、「他のキャラクターたちの恋愛ドラマは具体的に描かれてきたけど、ラクスとキラの場合はフワッとさせていた。恋愛という枠にとどまらない絆のようなものが中心と思っていた」と表現する。



 そういった描き方に納得しつつ、「今回そういった部分でみんなに見せたい物語があるという、描く側の覚悟を感じました」と口にし、「“答え”になるかはわからないけど、キラもそうだしラクスも明確なものを見せていく。何か感じてもらえたと思います」と思いをはせる。



■『ガンダムSEED』は“家族”であり、リスペクトを持って大切にしていきたい



 2002年10月~2003年9月に放送された『機動戦士ガンダムSEED』。シリーズ誕生から20年以上を経た今、保志にとって『ガンダムSEED』、そしてキラ・ヤマトはどのような存在になったのだろうか。



 「多くの作品に関わらせてもらう中で、声優である僕に『ガンダムSEED』のイメージは強いだろうし、関わってきている年数やボリュームなども含め、常に声優として自分の“看板”みたいな感じになっています。ありがたいし、自分の財産だとも思っています」。



 そんな保志だが、「いろんな人が関わっていて、たくさんの人で作り上げている作品なので、そこは勘違いせずに、僕も大事にしていきたい。“家族”だけど甘えすぎず、ちゃんと礼儀とリスペクトを持って接して大切にしていきたいし、そういう付き合いをしていきたい存在です」と謙虚さも忘れない。



 「ガンダムシリーズは自分がいなくなった後も残る作品だったりキャラクターだったりするので、一生もので関わらせていただきたいキャラクターだし、本当に大事にしていきたいと思っています」と力を込めた。
カテゴリ