『遠いところ』工藤将亮監督、沖縄の貧困や若い女性の性搾取問題描き「大島渚賞」受賞

『遠いところ』工藤将亮監督、沖縄の貧困や若い女性の性搾取問題描き「大島渚賞」受賞

 PFF(ぴあフィルムフェスティバル)により2019年に創設された映画賞「大島渚賞」の第5回授賞式が18日、都内で開催され、受賞監督の工藤将亮、受賞対象作『遠いところ』で主演を務めた花瀬琴音、審査員長の黒沢清(映画監督)が登壇した。



【画像】映画『遠いところ』で主演を務めた花瀬琴音



 「大島渚賞」は、映画の未来を拓き世界へ羽ばたこうとする、若くて新しい才能に対して贈られる映画賞「大島渚賞」。今回の授賞式ではまず、PFF理事長の矢内廣氏から、第4回まで審査員長を務めた故・坂本龍一さんについて「龍一さんは『大島渚賞にふさわしい作品とは、大島渚に迎合するのではなく、大島渚を挑発し、批判し、そして乗り越える作品でなければならない。そういう作品に出会いたい』と常々言っていた。命を懸けて審査して下さいました」とその功績を讃え、一同で坂本氏に黙とうを捧げた。



 今回の審査員長を務めた黒沢監督は「坂本龍一さんは映画に対し情熱的であると同時に非常に厳しい方でもあり、よく審査の席で『日本映画は、ある個人、ある人間を描くことには長けているけれど、その人間を取り巻く外部に何があるのか、ちゃんと目を向けている作品はない』と言っていた」と振り返り、「『遠いところ』は、坂本さんからも文句は出ない、坂本さんもこれだったら大島渚賞に匹敵する作品だと仰っていただけると思います」と自信をのぞかせた。



 作品については、「素晴らしい魅力的な主人公がいて、その外側に単に主人公を引き立てるだけでなく、沖縄や日本社会があることが歴然と描かれています。劇中、最初の警察官、中間の医者、最後の福祉の人と、善意で主人公を救おうとしているが、彼女は何故か行き違ってしまう。こういった設定の場合、往々にしてかわいそうとなるが、周りに社会があったのに、どうしてこうなってしまったのか、と憤りさえも感じさせる、それがすごい」と最大の賛辞を贈った。



 続いて、大島家を代表し登壇した大島新氏(ドキュメンタリー監督・大島プロダクション代表)は「ドキュメンタリー映画では、沖縄の戦争や基地問題といったテーマが描かれることは多くある。しかし沖縄には貧困や若い女性の性搾取の問題があり、これらをドキュメンタリーで描くことは難しいのですが、この困難な題材を劇映画として描くことで残していく、非常に価値のある作品だと思いました」と語り、大島渚監督の愛用品であるモンブランの万年筆を記念品として贈呈した。



 受賞した工藤監督は、「スピーチをいろいろと考えてきたが吹っ飛んでしまった」と切り出し、「今日、ここへ来る前に東京駅で突風に吹かれて眼鏡と帽子が飛ばされて壊れてしまった。たぶん、元持(昌之)さんが『調子に乗るなよ』と言ってるんだと思いました」。「元持さんは大島渚監督の助監督、最後の『御法度』ではプロデューサーもされている。僕をこの業界で育ててくれた恩人です。生意気だった僕はよく、『もっと映画に真剣に向き合え』と叱られた。元持さんにこの場を見せたかった」と涙ぐみながら恩人への感謝を述べた。



 「こんなに未熟で情けない僕と一緒に映画作りを支えてくれたプロデューサーやスタッフにこの場を借りて感謝申し上げます。これで終わりにしてはいけない、もっと上を目指さなければいけない。元持さんに言われたように、これからも情熱を燃やして、仲間たちと一緒に映画作りを励んでいきたい」と支えてくれた人々への感謝と今後の覚悟を熱く語った後、工藤監督は「『遠いところ』の何が魅力かと言うと、主演の花瀬琴音に尽きる」と、主演の花瀬を紹介。



 「台本を渡さずに演じてもらったが、沖縄の巨大な問題と全身全霊で向き合ってくれた。彼女がいなかったらこの映画は成立していなかったし、僕はこの場にいなかった」と花瀬を称えた。



 壇上で工藤監督から大きな花束を贈られた花瀬は「工藤監督は人の心に寄り添ってくれる方だと思っています。主人公アオイのモデルになってくれた方や、取材などで協力してくれた沖縄の方々の心に寄り添って一緒に戦ってくれる方で、とても信頼して撮影していました」と監督への揺るぎない信頼を明かし、「工藤さんに見つけていただいて、工藤さんの作品でデビューできた、その経験を自信にして、宝物にして、これからも素敵な映画作りに挑戦していきたいと思っています」と力強く語っていた。

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