音楽の力で持続可能な街づくり 神戸市とワーナーミュージック・ジャパン地域活性でコラボ
神戸市とワーナーミュージック・ジャパン(以下、WMJ)は今年5月10日、音楽を通じた地域文化の活性化と経済成長を目的に、事業連携協定を締結した。同市が音楽業界の事業者と協定を結ぶのは初めてとなる。人口減少をはじめとする諸問題により、地域の活力の低下が危ぶまれる地方部において、持続可能な地域づくりは喫緊の課題だ。神戸市もまた然り。音楽を通じて神戸の人や街に活力を与え、街の魅力を外部に発信することで、地域や地域の人々と多様に関わる「関係人口」作りに取り組もうとしている。【写真】神戸市在住のバンドFear, and Loathing in Las Vegas■持続可能な街づくりの第一歩 神戸在住バンドの主催イベントで街おこし 多様な外国文化を取り入れ、国際色豊かな港町として発展してきた神戸だが、御多分に洩れず人口減少は進んでいる。神戸市の久元喜造市長は5月の定例会見で「今年中に150万人を割る可能性が高い」という見通しを示し、「人口減少社会に対応した持続可能な街づくりを進める」と語っている。今回のWMJと神戸市が事業連携協定を交わした趣旨は、まさにその「持続可能な街づくり」の推進にある。 その取り組みを実現すべく白羽の矢が立ったのが、WMJ所属で神戸市出身のバンドFear, and Loathing in Las Vegas(フィアアンドロージングインラスベガス)が主催する音楽フェス『MEGA VEGAS 2023』だった。2017年より神戸市などで不定期に開催されていた同フェスだが、今回の発表に先立ち、3月11・12日に神戸ワールド記念ホール(兵庫県神戸市)で初の2DAYS開催となり、今後は、神戸市で定期開催されることが決まっている。「正式な協定の締結前の開催でしたが、神戸市さんには今年から後援として関わっていただきました。共同の取り組みとして制作したBE KOBE(阪神淡路大震災を語り継ぐ神戸市のシビック・プライドメッセージ)と『MEGA VEGAS』のコラボグッズは、開場から1時間もしないうちに完売するという思わぬ反響の大きさに驚きました。こういうイベントを欲していたという熱気が伝わってきました」 そう語るのは、WMJの葛山かい氏(KUZUYAMA ROOM ゼネラルマネージャー)だ。今年で結成15周年を迎え、今やワールドワイドに活躍するFear, and Loathing in Las Vegas。その結成当初からバンドに関わっており、今回のプロジェクトの主担当も務めている。メンバーは現在も神戸市在住であり、「地元への思い入れは非常に深い」というのだから、まさに適任であると言えるだろう。「人口減少は神戸市に限ったことではありませんが、バンドメンバーも街にかつてのような勢いがなくなったことを憂慮していました。この取り組みによって街に愛着を持つ人が増え、人が集まるようになれば、持続可能な街づくりのお手伝いができるかもしれません。実際、今年の『MEGA VEGAS』も半数以上は市外からの来場者でした。神戸市さんもかねてから『街に活力を与える原動力は音楽やエンタテインメントの力にある』という考えをお持ちで、チャリティフェス『COMING KOBE』(05年~)の後援や、オーディション企画「Battle de egg」(12年~)の共催など、音楽を通じた若者支援や賑わいの創出に取り組まれていましたが、今回のフェスでいっそう手応えを感じられていたようです」(葛山氏/以下同) 「Battle de egg」とは、全国で初めて行政が共催したロック・ポップスオーディションのこと。今年で11回目を迎える同企画には、今年からはWMJも企画運営に参画し、グランプリ特典として同社より楽曲配信することも決まっている。「僕らとしても新人発掘ができるメリットは大きいですし、レコード会社としてのノウハウを駆使してオーディションをさらに発展させていきたいと考えています。グランプリ受賞者には『COMING KOBE』への出場権が与えられるのですが、ゆくゆくは1つひとつの企画を連携させていきたいですね」■ふるさと納税を活用したチケット販売や協賛企業ブースも 音楽フェスで目指す関係人口作り 今回のWMJと神戸市の取り組みを聞いていると、同じく音楽で街づくりを推進する横浜みなとみらいが思い浮かぶ。近年、エンタテインメント施設が続々と集まってきている街のポテンシャルを活かし、“音楽の街(ミュージックシティ)”としてブランディングし、新たな魅力を生み出そうとしているわけだが、神戸市の考え方もそれに近いものであると言えるだろう。 神戸市も前出の神戸ワールド記念ホールをはじめ、500~600人キャパのライブハウスから2000~3000人規模のホールが点在する。また、音楽施設ではないが、市内にはサッカー・ヴィッセル神戸のホームスタジアムである「ノエビアスタジアム神戸」があり、プロバスケットボールチーム・西宮ストークスの新スタジアム(25年予定)も開業することが決まっている。「活用するには工夫が必要となりますが、アーティストと楽曲の価値を高める場として、ライブはますます重要なものになっていきます。当社は今後、そういった会場の音楽イベントのブッキングにも関わっていくことになりますので、神戸市の音楽拠点として発展するように尽力したいと思います」 来年の音楽フェス『MEGA VEGAS 2024』に向けては、ふるさと納税を活用したチケット販売を行うなど、さらに神戸市に還元できる形での開催を検討中であるという。また、協賛企業が来場者に向けてアピールできるようなブースも設ける予定だ。「直接的なリクルーティングではなくても、そのブースをきっかけに『神戸で働きたい』と考える若者が増えたら嬉しいですね」と目を輝かせる。両者間でさまざまなアイデアが討議されている様子が伝わってくる。 日本全国に数ある音楽フェスの中で、「地方創生」×「音楽フェス」成功の決め手となるのは、やはり主催者の意思が明確に開催地の人々に伝わっていることだろう。例えば、京都大作戦(10-FEET主催/京都市)、イナズマロックフェス(西川貴教主催/草津市)、YON FES(04 Limited Sazabys主催/愛知県長久手市)などが、まさにそうだ。アーティスト主催のフェスは、その土地に対する愛情、思い入れがあってこそ地元の人々に受け入れられ、地域に経済効果をもたらしていく。『MEGA VEGAS』もまたそうしたフェス同様に、地元の人々にわが事として感じてもらえるようなイベントに成長し、やがては、WMJと神戸市のタッグの象徴として「街に愛着を持つ人の増加」や「年間を通じて街に人が集まる導線」としての役割を果たすことに期待したい。文・児玉澄子「MEGA VEGAS 2023」開催概要開催日:2023年3月11日・12日会 場:神戸ワールド記念ホール後 援:神戸市、FM802、Kiss FM KOBE企画制作:ワーナーミュージック・ジャパン制作協力:KYODO OSAKA
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